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1999年(平成11年)

平成10年広審第119号
    件名
貨物船石竜丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年9月6日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:石竜丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底外板に破口を伴う凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月29日03時00分
瀬戸内海備後灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船石竜丸
総トン数 698.88トン
全長 63.279メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 992キロワット
3 事実の経過
石竜丸は、主に瀬戸内海及びその近辺諸港と神戸港間の航行に就航する、火力発電所用の炭酸カルシウム及びEP灰と称する石炭灰の運送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首0.84メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成10年6月28日16時36分大分県津久見港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、同船の船橋当直体制を単独の輪番3直制に定め、毎3時30分から7時30分迄の時間帯を次席一等航海士、毎7時30分から11時30分の時間帯を一等航海士、その他の時間帯は自らが船橋当直に従事するほか、出入航時及び狭水道における操船時には機関部当直員を補佐として在橋させていた。
他方、同船の各諸港での荷役中における当直体制は、揚荷、積荷共に乗組員が直接これらの作業に従事することになっていたため、機関部2人はコンプレッサーを作動するための主機駆動の当直に、甲板部1人は、食料等の供給作業に、他は2人が一組となってバルブ操作等の船内荷役作業に従事することとなっており、停泊中は全員がそれぞれの役目を担当する体制となっていた。
ところで、同船の6月における就航形態は、夏場に向けての火力発電所の電力消費の増大に伴って荷動きが盛んになり、ほぼ連日、出入港と航海が繰り返されて乗組員の休息時間は断続的となり、休息は制限される状況となっていた。
こうしてA受審人は、発航後同日17時ごろまで出航操船に従事したのち4時間ほど自室で休息して、23時30分来島海峡航路西口付近で昇橋して船橋当直に当たり、同時55分同海峡中水道に建設中の来島海峡大橋の橋梁下を航過し、翌29日01時30分高井神島灯台と備後灘航路第3号灯浮標(以下、備後灘航路と冠する灯浮標名については号数のみを表示する。)の中間地点を航過して、その後、備後灘の海図記載の推薦航路の南側をほぼこれに沿って東航した。
02時22分A受審人は、第5号灯浮標に並航したころ、前路に多数の船舶が点在するのを視認してこれらを離して航行することとし、同時30分讃岐三埼灯台(以下、「三埼灯台」という。)から266度(真方位、以下同じ。)5.2海里の地点に達したとき、これら漁船の南側を航行しようと針路を同灯台にほぼ向首する086度に定めて自動操舵とし、機関を10.1ノットの全速力前進にかけて進行した。
定針後、間もなく、A受審人は、レーダーにより同灯台付近の陸岸の映像を5海里に探知し、当分の間このままの針路で航行して他船が少なくなったあたりで原針路に復帰すればよいと判断し、船橋前部の左舷側に設置された機関操作用コンソール前面に立ち、前方を向いてこれにもたれかかった姿勢となって見張りに従事した。
02時38分A受審人は、三埼灯台から266度3.7海里の地点に達したとき、第6号灯浮標を左舷側0.6海里に並航したのを知ったが、もうしばらくの間、このままの針路で続航しようと左舷方に点在する漁船を眺めながら航行するうち、眠気を催したが、当直交代まであとわずかだから、我慢すれば居眠りに陥ることはないと思い、機関部当直員を昇橋させて2人で船橋当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく進行中、いつしか居眠りに陥った。
02時49分A受審人は、三埼灯台から266度2.0海里の地点に達したが、依然、居眠りしてこのことに気付かず、陸岸に向首したまま続航中、03時00分石竜丸は突然衝撃を受け、三埼灯台から275度120メートルの陸岸に原針路、原速力のまま、乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は高潮時であった。
乗揚の結果、石竜丸は船首船底外板に破口を伴う凹損を生じ、サルベージ船の来援により離礁し、のち、修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、備後灘を東航中、前路に多数点在する他船を離す針路として三埼灯台にほぼ向首して進行する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、同灯台西方の陸岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、備後灘を東航中、前路に多数点在する他船を離す針路として三埼灯台にほほ向首して進行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、機関部当直員を昇橋させて2人で船橋当直を行うなと居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、当直交代まであとわずかだから、我慢すれば居眠りに陥ることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、陸岸に向首進行して乗揚を招き、石竜丸の船首船底外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。






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