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1999年(平成11年)

平成10年那審第34号
    件名
漁船第三光洋丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年3月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:第三光洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底全般を損傷、のち廃船

    原因
操船不適切(操舵状態・針路の確認)

    主文
本件乗揚は、操舵状態及び針路の確認がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月21日01時30分
鹿児島県沖永良部島南岸
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三光洋丸
総トン数 4トン
全長 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50
3 事実の経過
第三光洋丸(以下「光洋丸」という。)は、はえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年5月20日12時30分鹿児島県沖永良部島和泊港を発し、同島南岸水域を東西に移動しながらはえなわの投入、揚収を繰り返し、はたなど150キログラムを漁獲したところで操業をとりやめ、翌21日01時06分知名港指向灯から281度(真方位、以下同じ。)2,600メートルの地点を発し、帰途に就いた。
ところで、光洋丸には操舵装置として電動油圧操舵装置が備えられ、操舵方法として、舵輪による操舵のほか、コンパス上の針路設定つまみによる自動操舵、遠隔管制器による手動操舵、遠隔管制器による手動兼自動操舵(以下「手動兼自動操舵」という。)及びGPS装置とコンパスによる目的地点を定めた自動航法操舵の5方法があり、切替装置が船橋内右舷船首側に備えられ、手動兼自動操舵は、遠隔管制器のつまみを回すと操舵でき、指標を中央に合わせたとき、そのときの針路で自動操舵の状態となるようになっていた。
なお、A受審人は、沖永良部島南岸付近で長年操業し、同水域の水路の状況をよく知っており、船位や針路については地形、物標、さんご礁などの目視によるほか、レーダー、あるいは地形などが入力されているGPS装置のプロッターにより確認するようにしていた。
A受審人は、沖永良部島南岸の海岸線から沖に延びているさんご礁に近づかないよう、少し波が立つ状態のさんご礁外縁までの隔たりに注意したり、GPS装置のプロッターを監視するなどし、視界がよかったことからレーダーを使用せず、さんご礁外縁に沿い、外縁から近距離のところを手動兼自動操舵により東行し、01時21分半知名港指向灯から097度1,900メートルの地点に達したとき、針路を052度に定め、機関を平素使用している半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
01時25分半A受審人は、知名港指向灯から079度2,850メートルの地点で、針路を061度に転じ、同時28分同指向灯から075度3,600メートルの地点で、更に針路を和泊町古里沖に向かうべく045度に転じた。
ところが、A受審人は、手動兼自動操舵の遠隔管制器のつまみにより操舵していったん045度に向けたとき、自動操舵の状態に戻すためつまみの指標を中央に合わせようと操作したが、自動操舵の状態となったか確認することなく、左舷側のいすに腰掛け、中央からわずかに左にずれていて自動操舵の状態に戻っていないことに気付かなかった。
その後A受審人は、舵がわずかに左にとられていたことから、また風や潮流の影響もあって、針路が少しずつ海岸寄りに変わり始めたが、自動操舵の状態に戻ったものと思い、意図した針路を維持しているかをコンパス、あるいはGPS装置のプロッターにより確認することなく、いすに腰掛けたまま前方を見張り、海岸付近には明かりがなかったこともあって、このことにも気付かなかった。
こうして光洋丸は、海岸寄りに少しづつ針路が変わりながら進行するうち、01時30分知名港指向灯から069度4,000メートルの地点において、020度に向いてさんご礁外縁の浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚後光洋丸は、波により海岸側に運ばれ、A受審人は、陸に上がり、家族に連絡するなどの事後措置に当たった。
乗揚の結果、船底全般を損傷し、のち廃船とされた。

(原因)
本件乗揚は、夜間、鹿児島県沖永良部島南岸水域を沖に延びたさんご礁外縁に沿い、操舵方法を手動兼自動操舵として東行中、遠隔管制器により転針した際、操舵状態の確認及びコンパス、あるいはGPS装置のプロッターなどによる針路の確認がいずれも不十分で、わずかに左舵となった状態で針路が次第に海岸寄りに変わる状況のまま進行し、さんご礁外縁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、沖永良部島南岸水域を沖に延びたさんご礁外縁に沿い、操舵方法を手動兼自動操舵として東行中、遠隔管制器により転針した場合、さんご礁外縁に近づかないよう、コンパス、あるいはGPS装置のプロッターにより意図した針路が維持されているか確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自動操舵の状態に戻ったものと思い、針路が維持されているか確認しなかった職務上の過失により、わずかに左舵となった状態で針路が少しずつ海岸寄りに変わる状況のまま進行し、さんご礁外縁の浅所への乗揚を招き、全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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