|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月9日01時30分 鹿児島県喜界島西岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八勝洋丸 総トン数 7.53トン 全長 13.80メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 80キロワット 3 事実の経過 第八勝洋丸(以下「勝洋丸」という。)は、まぐろ1本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、平成10年7月8日17時15分鹿児島県名瀬港を発し、操業の目的で同県喜界島南東方の漁場に向かった。 A受審人は、奄美大島北端の笠利崎沖合を航行し、21時15分笠利崎灯台から090度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点に達したとき、針路を海岸にほぼ沿う150度に定め、明け方から操業に入ることとしていたことから、漁場着時刻調整のため機関を半速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 ところで、A受審人は、この時期4ないし5日にわたる出漁を繰り返していたところ、前回の出漁を終えて同日03時30分帰港し、漁模様が良かったことから、引き続いて今回出漁したものであるが、停泊中午前中は水揚げ、片付けなど、発航前は出漁準備をそれぞれ行い、午後自宅で睡眠をとったものの、前回出漁の疲労と睡眠不足が解消されないままであった。 定針後間もなくA受審人は、疲労と睡眠不足とから眠気を感じるようになったが、居眠りすることはあるまいと思い、最寄りの宇宿漁港あるいは円瀬付近の錨地で停泊して仮眠するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。 22時15分A受審人は、新奄美空港飛行場灯台から042度3.2海里の地点に達したとき、針路を喜界島西海岸を0.8海里ばかり離す142度に転じ、海潮流の影響により5度左偏されながら進行し、23時50分同灯台から109度6.8海里の地点で、GPS装置により奄美大島と喜界島の中間に来ていることを確かめ、喜界島荒木埼付近に向いていたが、同島にもっと近づいてから適宜針路を調整することとし、その後操舵室後部左舷側の炊事台に横になり、左肘をついて顔を支えた姿勢で見張りに当たっているうち、いつしか居眠りし始めた。 こうして、勝洋丸は、喜界島西岸に寄せられる状況のまま同一針路で続航中、翌9日01時30分同島の湾港ふとう灯台から240度1.5海里の地点において、同島西海岸のさんご礁の浅所に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 A受審人は、乗揚の衝撃で目が覚め、明るくなってから陸に上がり、救援を求めるなど事後の措置に当たった。 乗揚の結果、勝洋丸は船底全般を損傷したほか船尾部船底に亀裂を生じ、機関室に浸水したが、引船により離礁し、喜界島湾港に引き付けられた。
(原因) 本件乗揚は、夜間、鹿児島県奄美大島北部東岸を同県喜界島南東方の漁場に向かって南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、喜界島西岸に寄せられる針路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、1人で乗り組み、夜間、奄美大島北部東岸を漁場に向かって南下中、疲労と睡眠不足とから眠気を感じた場合、居眠り運航とならないよう、最寄りの宇宿漁港あるいは円瀬付近の錨地で停泊して仮眠するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、操舵室内の炊事台に横になり、片肘をついて顔を支えた姿勢で見張りに当たっているうち居眠りし、喜界島西岸に寄せられる針路のまま進行して乗揚を招き、船底全般に損傷を、船尾部船底に亀裂を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |