日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年函審第26号
    件名
漁船第28漁盛丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年8月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第28漁盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部左舷船底外板及び船尾部左舷船底外板に凹損、左舷ビルジキールに曲損、シューピース及び魚群探知器を損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月10日02時20分
北海道根室市歯舞(はぼまい)漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第28漁盛丸
総トン数 19トン
登録長 16.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
第28漁盛丸(以下「漁盛丸」という。)は、はえなわ漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人がB指定海難関係人ほか7人と乗り組み、船首1.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成9年11月7日06時00分北海道根室市歯舞漁港を発し、色丹(しこたん)島南方沖合13海里ばかりの漁場に向かった。
ところで、A受審人は、B指定海難関係人が、歯舞漁港南方沖合から色丹島南方漁場までの航海と同漁場の操業に慣れていることから、漁場往復航海の船橋当直及び漁場における操業指揮のほとんどを同人に任せ、自らは他の乗組員とともに甲板作業に当たっていた。
発航後、A受審人は、単独船橋当直に当たり、08時00分歯舞諸島水晶島南東方沖合22海里ばかりのところでB指定海難関係人に船橋当直を委ねて18時30分漁場に至り漂泊待機したのち、20時00分ごろB指定海難関係人に魚群探索を行わせ、翌8日00時40分第1回目の投縄作業を開始して06時00分終了し、08時00分揚縄作業を開始して18時00分に同作業を終了し、21時00分漁獲物の整理を終えて乗組員を休息させたのち、再度B指定海難関係人に魚群探索を行わせ、翌9日00時30分第2回目の投縄作業を開始し、18時00分北緯43度31分、東経146度48分の地点で揚縄作業を終え、まだら約8トンを獲て同地点を発進し、帰途についた。
A受審人は、発進後、B指定海難関係人に船橋当直を委ねたまま他の乗組員とともに上甲板で漁獲物の整理作業に従事し、21時00分同作業を終えたとき、B指定海難関係人が睡眠不足であることを承知していたものの、これまで帰航時の船橋当直を同人に任せていて、同人が居眠りしたことがなかったことから、居眠りすることはあるまいと思い、B指定海難関係人に対して眠気を覚えたら、速やかに報告するよう昇橋して指示することなく、船員室に退いて休息した。
B指定海難関係人は、操業中に休息をとったのは漁場に向かう航海の2時間ほどと同月8日の揚縄作業前の1時間半だけで発進時までほとんど休息がとれず、疲労が蓄積して睡眠不足の状態であった。
こうして、B指定海難関係人は、操業指揮に引き続き1人で船橋当直に当たり、歯舞諸島沖合を南下し、22時50分ロシア連邦経済水域入出域船が通過するように定められている歯舞諸島水晶島南東方沖合22海里ばかりの地点を通過したのち、歯舞漁港沖合に向け西行し、翌10日01時40分ハボマイモシリ島灯台から170度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点に達したとき、針路を同灯台に向く350度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流により左方に7度ばかり圧流されながら6.7ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
定針後、B指定海難関係人は、レーダーでハボマイモシリ島が1海里となったら防波堤入口に向け針路を転ずる予定で、操舵室右側に置いた椅子に腰かけ、前方の見張りに当たっていたところ、同01時50分ハボマイモシリ島灯台から174度2.8海里の地点に達したとき、蓄積した疲労と睡眠不足から眠気を覚えたが、もう少しで入港なのでこのまま何とか船橋当直を続けられると思い、A受審人に報告することなく船橋当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、漁盛丸は、潮流により圧流されて歯舞漁港の南方のポンコタン島東岸の岩礁に向かって進行し、B指定海難関係人が居眠りに陥ったまま予定していた転針が行われずに続航中、02時20分ハボマイモシリ島灯台から279度1,100メートルの地点において、ポンコタン島東岸の岩礁に、原針路、全速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、付近には0.9ノットの東流があった。
A受審人は、船員室で休息中、衝撃で目覚め、急ぎ昇橋して乗り揚げたことを知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、漁盛丸は、船首部左舷船底外板及び船尾部左舷船底外板に凹損、左舷ビルジキールに曲損を生じたほかシューピース及び魚群探知器を損傷したが、同業船の支援を受けて離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、色丹島南方沖合の漁場から北海道根室市歯舞漁港に向けて航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定した転針が行われず、ポンコタン島東岸の岩礁に向かって進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、眠気を覚えたら、速やかに船長に報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を覚えた際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、色丹島南方沖合の漁場から北海道根室市歯舞漁港に向けて航行中、乗組員を船橋当直に当たらせる場合、居眠り運航にならないよう、船橋当直者に対して眠気を覚えたら、速やかに報告することを指示する注意義務があった。ところが、同人は、船橋当直者にいつも漁場から歯舞漁港までの船橋当直を任せていて、船橋当直者が居眠りしたことがなかったことから、居眠りすることはあるまいと思い、眠気を覚えたら、速やかに報告することを船橋当直者に対して指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が居眠りに陥り、予定していた転針が行われず、ポンコタン島東岸の岩礁に向かって進行して乗揚を招き、漁盛丸の船首部左舷船底外板及び船尾部左舷船底外板に凹損、左舷ビルジキールに曲損を生じさせたほかシューピース及び魚群探知器を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が夜間、色丹島南方沖合の漁場から北海道根室市歯舞漁港に向けて航行中眠気を覚えた際、A受審人に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION