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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月20日07時06分 鹿児島県奄美大島名瀬港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船平成丸 総トン数 696トン 全長 67.58メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,176キロワット 3 事実の経過 平成丸は、航行区域を近海区域(限定)とする船首尾楼付一層甲板の船尾船橋型の鋼製セメント運搬船であり、A受審人ほか5人が乗り組み、平成10年2月18日07時30分鹿児島県名瀬港の九州電力株式会社の専用桟橋(以下「桟橋」という。)に着桟して、その日の午前中に同港での揚げ荷を終了したものであるが、次の揚げ地の都合により待機することとして停泊を続け、同月20日早朝、他港揚げのセメント1,000トンを載せ、船首3.10メートル船尾4.45メートルの喫水をもって、同県亀徳港へ向け離桟することとなった。 ところで、前示桟橋は、名瀬港第1防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から062度(真方位、以下同じ。)490メートルの地点にあり、護岸に沿って014度方向、長さ約20メートルで、歩道橋が護岸から桟橋までほぼ直角に設けられていた。また、A受審人は、桟橋にこれまで何回も着けており、桟橋の内側が急に浅くなっていることを十分承知していた。 平成丸の着桟状態は、右舷船首錨を右舷正横わずか後方に4節水面で、右舷船尾から径24ミリメートルのワイヤロープを錨索とした予備錨を同方向に約80メートルの長さでそれぞれ延出し、船体中央部を左舷着けとして船首尾から各2本の係留索を桟橋と護岸にとり、船首端及び船尾端がともに桟橋から大幅に出た状態であった。 A受審人は、船首尾に2人ずつ配置に就け、船橋において単独で離桟操船に当たり、07時00分すべての係留索を放し、船首錨鎖及び船尾錨索を巻き始めたとき、船首が右方に振れて船尾錨が効いていないのを認めたが、大丈夫と思い、船首錨鎖の巻き取りを中止するなり、舵及び機関を種々に利用するなりして船尾が桟橋の内側に入らないよう、適切な操船を行うことなく、船首、船尾とも巻き続けた。 平成丸は、船尾が桟橋の内側に入り込む状態で左方へ振られ、07時06分わずか前、船尾錨が揚がった旨の報告を受けたA受審人が、左舵一杯として微速力前進としたが、間に合わず、07時06分防波堤灯台から060度510メートルの地点において、224度に向いたころ船尾船底が桟橋内側の浅所に乗り揚げ、擦過した。 当時、天候は曇で風力2の南南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。乗揚の結果、プロペラ及びプロペラ軸に曲損を、逆転減速機に損傷を、船底外板に擦過傷をそれぞれ生じ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、鹿児島県名瀬港において、船体中央部を桟橋に左舷着けで右舷船首尾錨を投入した状態から離桟中、右舷船首の錨鎖及び右舷船尾の錨索を巻いているとき、船尾錨が効かず、船尾が左方に振れる状況の際、操船が不適切で、船尾が桟橋内側の浅所に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、名瀬港において、桟橋を離れるにあたり、右舷船尾錨が効いていないことを認めた場合、桟橋の長さが自船の全長より短いうえに内側が浅くなっていたのであるから、船尾が左方に振れないよう、右舷船首錨鎖の巻き取りを中止するなり、舵及び機関を種々に利用するなど適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大丈夫と思い、適切な操船を行わなかった職務上の過失こより、船尾が桟橋内側の浅所へ著しく接近して乗揚を招き、プロペラ及びプロペラ軸に曲損を、逆転減速機に損傷を、船尾船底に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |