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1999年(平成11年)

平成10年長審第88号
    件名
漁船第二十八漁栄丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年6月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:第二十八漁栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底外板に破口、亀裂、凹損、舵板及び推進器に曲損、魚群探知器の送受波器脱落、主機に濡損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月8日04時00分
熊本県牛深港奈都南西方沖合片島
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八漁栄丸
総トン数 19トン
登録長 19.40メートル
幅 4.35メートル
深さ 1.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190
3 事実の経過
第二十八漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)は、操業海域を専ら熊本県牛深港西方沖合とするまき網漁業船団付属のFRP製運搬船で、水揚げ地を同港もしくは鹿児島県阿久根港とし、A受審人ほか4人が乗り組み、平成10年5月7日18時50分牛深港を発し、僚船とともに同港西方沖合3海里ばかりの漁場に向かい、19時20分ごろから同漁場において第1回目の操業を行い、翌8日02時45分牛深大島灯台(以下「大島灯台」という。)から190度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、第2回目の操業を始めたが、折からの風潮流により、操業開始地点から0.5海里ばかり北方に圧流され、大島灯台から196度2.0海里の地点に至って操業を終え、漁獲したあじ約2トンを積み込み、船首0.95メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同地点を発進して阿久根港に向かうこととなった。
発進するにあたり、A受審人は、険礁が周囲に拡延する灯火の無い片島が付近に存在することを知っており、暗夜の悪天候で同島を視認することができなかったが、平素は第2回目の操業開始地点辺りから120度の針路で何事もなく阿久根港に達していたことから、いつもの針路で同港に向かえばよいものと思い、レーダーのレンジを切り替えて片島との相対位置を確かめるなどの船位の確認を十分に行うことなく、同港を捕捉(ほそく)するためにレーダーのレンジを12海里としていたので、画面中心輝点近くの海面反射で明るくなったところに片島の映像が入り、操業中に北方に圧流されていたことに気付かないまま、03時55分漁場を発進し、針路を120度に定め、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力とし、操舵室前面に立って手動操舵により進行した。
針路を定めたときA受審人は、片島が船首やや左前方0.8海里ばかりとなる態勢で、その後圧流により真針路117度で同島南西端に著しく接近する状況となったものの、依然として遠距離レンジのレーダーで阿久根港を捉(とら)えることに専心し、この状況に気付かないまま続航した。
こうして漁栄丸は、片島の南西端に著しく接近する態勢のまま進行中、04時00分大島灯台から177度2.2海里の同島周囲に拡延する暗礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には0.5ノットばかりの北流があった。
A受審人は、衝撃で乗揚に気付いて機関を停止し、僚船にその旨を通報した。
乗揚の結果、船底夕板に破口、亀(き)裂、凹損を、舵板及び推進器に曲損を、魚群探知器に送受波器の脱落を、主機に濡損などをそれぞれ生じたが、僚船の援助を得で離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、悪天候で見通しが悪い状況下、牛深港南西方沖合の漁場を阿久根港に向けて発進する際、船位の確認が不十分で、険礁が周囲に拡延する片島に著しく接近する針路として同島南西端付近の暗礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、険礁が周囲に拡延する灯火の無い片島が存在する牛深港南西方沖合の漁場で操業を終えたのち、阿久根港に向けて発進する場合、悪天候で見通しが悪く片島が視認できなかったから、同島に著しく接近しないよう、レーダーのレンジを切り替えて同島との相対位置を確かめるなどの船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、平素と同じ針路をとって阿久根港に向かえば大丈夫と思い、同港を捉えるためにレーダーを遠距離レンジのまま使用していて船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、発進地点が操業開始地点より北方となっていたことに気付かず、片島に著しく接近する針路としたまま進行して乗揚を招き、船底外板の破口、推進器の曲損などの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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