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1999年(平成11年)

平成10年横審第73号
    件名
漁船久丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年4月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、勝又三郎、川原田豊
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底外板に破口を伴う亀裂を生じて大破、全損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月8日21時00分
静岡県焼津港北方陸岸
2 船舶の要目
船種船名 漁船久丸
総トン数 6.6トン
登録長 11.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
久丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が一人で乗り組み、かつお漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成10年5月7日22時00分和歌山県串本港を発し、翌8日11時ごろ静岡県沖合に至って操業を開始した。
これより先、A受審人は、同年3月上旬徳島県徳島港から出漁して、串本港を基地として和歌山県沖合でかつお漁を行っていたところ、同年4月下旬より静岡県沖合に漁場を移動し、それにつれて基地も静岡県焼津漁港として、操業を続けた。操業中の運航状況は、沖泊りすることもあったが、久丸には冷凍設備がないので、漁獲があれば日帰り操業となり、通常01時ごろ基地を出て、21時ないし22時ごろ帰着するもので、帰港の翌日及び天候の悪い日を休業日としており、この度は2日間の休養を済ませての出漁であった。
こうしてA受審人は、静岡県沖合で操業を行い、約80キログラム漁獲したところで基地に帰ることとし、同月8日18時35分御前埼の南東方20海里ばかりのところを発し、焼津漁港に向かい、同日20時34分大井川港南防波堤灯台から。90度(方位、以下同じ。)4.5海里の地点において、針路を335度に定め、機関を引き続き全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、舵輪後方の椅子(いす)に腰掛け、その左前にあるレーダーを3海里レンジとして時折のぞき、前方に視認していた焼津港小川外港南防波堤灯台(以下小川灯台」という。)や焼津港沖南防波堤灯台(以下「焼律灯台」という。)の灯火を見ながら見張りを続けているうち、20時50分小川台から120度1.6海里の地点に達したころ、基地に近づいたという安堵(ど)感に長時間操業の疲労も重なって、眠気を催したが、間もなく入航できるから大丈夫と思い、椅子から立ち上がって外気に当たるなり、操舵室内を移動するなどして居眠り運航の防止措置をとらず、椅子に腰掛けたまま見張りを続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
20時55分A受審人は、小川灯台を左舷側に航過したことも、同時57分半焼津灯台を過ぎて前方陸岸まで1,200メートルに迫っていることにも気付かずに居眠りを続けていたところ、たまたま1海里レンジで設定していたレーダーの警報ブザーで目覚めたが、船位不明でどうすることもできず、21時00分焼津灯台から355度1,300メートルの地点において、久丸は、原針路、原速力のまま陸岸に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力7の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果船底外板に破口を伴う亀(き)裂を生じて大破し、全損となった。

(原因)
本件乗揚は、かつお漁の日帰り操業に従事し、夜間、御前埼南方沖合から焼津漁港に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同漁港北方の陸岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、かっお漁の日帰り操業に従事し、夜間、御前埼南方沖合から基地である焼津漁港に向け航行中、基地に近づいたという安堵感に長時間操業の疲労も重なって、眠気を催した場合、椅子から立ち上がって外気に当たるなり、操舵室内を移動するなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は間もなく入航できるから大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置をとらずに椅子に腰掛けたまま見張りを続けているうち居眠りし、陸岸に向首進行して乗り揚げ、船底外板に破口を伴う亀裂を生じさせ、全損に至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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