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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月6日04時40分 瀬戸内海愛媛県興居島 2 船舶の要目 船種船名
油送船第参拾五宏昇丸 総トン数 386トン 登録長 52.21メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 588キロワット 3 事実の経過 第参拾五宏昇丸(以下「宏昇丸」という。)は、国内各港間の液体化化学薬品の輸送に従事する船尾船橋型のケミカル兼油タンカーで、船長B及びA受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成9年8月5日14時10分大阪港を発し、山口県徳山下松港に向かった。 ところで、A受審人は、B船長と同種、同級の海皮免状を受有し、平成元年まで60トン型沖合底引き網漁船に乗船していたときには、ほぼ2年間船長職を執った経験があった。 A受審人は、8時間ばかり休息し、07時50分港内へのシフト作業に引き続き揚荷作業の指揮に当たり、大阪港出港作業後約1時間のタンク洗浄作業に従事したのち16時から20時まで船橋当直に当たり、22時ごろに就寝した。 A受審人は、翌6日03時45分ごろ安芸灘南航路第3号灯浮標(以下、同航路の灯浮標については「安芸灘南航路」を省略する。)の手前1海里の地点に達したとき単独で船橋当直につき、このとき、さして疲労を覚えるといった状況ではなかったが、船橋の左舷前部に置いた椅子に腰掛けて操船に当たり、安芸灘南航路の海図記載の推薦航路に沿って自動操舵により航行した。 A受審人は、04時17分頭埼灯台から024度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点に達したとき、針路を興居島北端に向首する208度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて12.5ノットの対地速力で進行中、周囲に船舶も少なくなったことから気が緩み、軽い眠気を感じたものの、居眠りすることはないと思い、椅子から立ち上がって外気に当たり、手動で操舵するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に腰掛けたまま続航するうちいつしか居眠りに陥り、04時29分第1号灯浮標に並航し転針地点に達したが、居眠りしていて、このことに気付かず、転針することなく進行中、宏昇丸は、04時40分頭埼灯台から265度770メートルの興居島北部の浅所に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は曇で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には約2.3ノットの南南西への潮流があった。 B船長は、曲室で休息中、衝撃を受けて昇橋し、事後の措置に当たった。 乗揚の結果、船首部船底外板及びビルジキールに凹損を生じ、自力で離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、安芸灘南航路を釣島水道に向け西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、興居島に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独の船橋当直に当たり安芸灘南航路を釣島水道に向け西行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、椅子から立ち上がって外気に当たるなど居眠りの防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、興居島北端に向首進行して乗揚を招き、船首部船底外板に凹損等の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |