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1999年(平成11年)

平成10年長審第30号
    件名
旅客船マリンビュー乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年1月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:マリンビュー船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
左舷船底外板と右舷船首部スタビライザーに擦過傷、右舷ウォータージェットポンプのインペラ曲損

    原因
速力不適切、針路の確認不十分

    主文
本件乗揚は、安全な速力としなかったばかりか、針路の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月14日21時25分
熊本県本渡港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船マリンビュー
総トン数 154トン
全長 30.00メートル
幅 8.68メートル
深さ 3.22メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,998キロワット
3 事実の経過
マリンビューは、平成9年7月11日に就航した旅客定員140人の双胴型軽合金製旅客船で、両舷にウォータージェット推進装置を備え、上甲板のほぼ中央部に設けた操縦室でジョイスティックにより同装置を操作するようになっており、就航以来、R株式会社(以下「R社」という。)が運航し、乗組員4人で熊本県本渡港と熊本港間の旅客輸送を1日に5便行っていたところ、同年8月13日から17日までの繁忙期には1日1便を増便することとし、A受審人ほか3人が乗り組み、増便として同月14日19時20分本渡港を発し、20時20分熊本港に到着したのち、一等航海士が体調不良で同港において下船したため、その後3人で運航に当たり、旅客16人を乗せ、船首1.10メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、20時30分同港を発し、本渡港に向かった。
ところで、本渡港は、天草上島と天草下島間の幅100メートルばかりの本渡瀬戸を含み、同瀬戸の北側が島原湾に、南側が八代海にそれぞれ接続し、旅客船浮桟橋などの主たる港湾設備が天草下島側にあって島原湾に面し、本渡港灯標から309度(真方位、以下同じ。)190メートルの地点を基点としてこれから062度の方向に延びる長さ約670メートルの防砂堤が築かれ、その先端部に本渡港防砂堤灯台(以下「防砂堤灯台」という。)が存在し、防砂堤の南側には、同堤に沿って干潟を掘削した可航幅70ないし80メートルの島原湾と旅客船浮桟橋を接続する水路(以下「接続水路」という。)を設け、防砂堤の北側と接続水路の南側には干潟が拡がっていた。
また、防砂堤は、捨石をその断面が台形状となるように積み上げて基礎とし、基点から約250メートルまでは、基礎の上にケーソンを防波堤状に設置してあったが、それから先の部分は、基礎部のみとなっているうえ、基点付近の基礎部より幅が狭く、かつ、基本水準面上の高さが約2メートルと低く、満潮時には水面下に没して視認することができなかった。そして、熊本フェリーでは、本渡港進入のための基準経路として、右舷側に防砂堤灯台と並航するまでは約212度、その後接続水路を航行する際には約242度とそれぞれ針路を定めていた。
一方、A受審人は、同年1月1日付けでR社に入社し、マリンビューの就航に先立って半月間ばかりの習熟運転に携わり、就航後、一等航海士をジョイスティックの操作に、機関長を機関の遠隔監視などにそれぞれ就かせ、自らはレーダーや他の航海計器などの監視に当たって見張りを行いながら操船指揮をとり、平素、接続水路を本渡港奥に向けて航行するときには、市街地に架かる平成橋北端付近を船首目標とし、夜間の出入航は4回ばかりとまだ経験が少なかったが、夜間も昼間と同じように同橋北端付近を船首目標としていた。
熊本港を発航後、A受審人は、機関を全速力前進にかけて31ノットの速力とし、一等航海士を下船させていたので、自らジョイスティックの操作に当たり、機関長を機関の遠隔監視と見張りの補助に就かせ、数日前からマグネットコンパスのデジタル針路表示器が故障していたことから、GPSプロッターの画面で、航跡や記憶させている、針路線を見ながら進行し、同年8月14日21時03分ごろ湯島灯台から270度1,000メートルばまかりの地点で、針路を接続水路入口に向かう212度に定め、やがて本渡港に接近したものの、1.5海里レンジとしたレーダーを十分に見る余裕のないまま、同一の針路、速力で続航した。
21時21分半A受審人は、防砂堤灯台から035度1.820メートルの地点に達したとき、前路の本渡港港界付近一帯に5隻ばかりの漁船が注方にゆっくり移動しているのを認め、漁船群の船尾方を替わすつもりで右転し、同時22分半防砂堤防台から007度1,050メートルの地点で、基準経路から右舷側に500メートばかり外れたとき、折からもやがかかって市街地の灯火などがにじんで識別しずらいなか測深儀で水深が5メートルであることを認めて気が動転し、とりあえず基準経路に戻ることとして平素と異なる進入角度で接続水路に向かう状況となったが、周囲の状況を十分に把握できるよう、速やかに安全な速力とせず、速力を25ノットとして左転し、その後接続水路入口に向けていつもと同じように徐々に速力を減じながら進行した。
こうして、A受審人は、21時24分わずか過ぎ、速力が17ノットとなったとき、防砂堤灯台から152度55メートルの接続水路入口まで達し、依然として前路の市街地の灯火などが識別しずらい状況下を同水路に進入することとなったが、市街地の平成橋北西方の物標を同橋北端と思い、目標となる防砂堤防台や本渡港灯標の相対位置を確かめるなど、針路の確認を十分に行うことなく、船首目標を見誤って本渡港灯標の灯火も確認しないまま、針路を253度に転じ、速力を更に減じながら接続水路を続航した。
マリンビューは、A受審人が防砂堤に向首していることに気付かないまま進行中、21時25分防砂堤灯合から242度350メートルの水面下に没した防砂堤に、同一の針路、10ノットの速力となった状態で乗り揚げた。
当時、天候は晴であったが、薄いもやがかかって風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で潮高が2.5メートルばかりであり、日没時時刻が19時05分、月出時刻が15時14分で、月齢は約10日であった。
乗揚の結果、旅客は、漁船などに移乗して旅客船浮桟橋に着き、船体は、タグボートの来援を受けて離礁したが、左舷船底外板と右舷船首部スタビライザーに擦過傷を、右舷ウォータージェットポンプのインペラに曲損をそれぞれ生じ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、折からもやがかかって市街地の灯火などが識別しずらい状況下、本渡港沖合から同港旅客船浮桟橋に向けて入航中、基準経路から外れた際に安全な速力としなかったばかりか、防砂堤灯台付近でほぼ基準経路に戻った際、針路の確認が不十分で、防砂堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、折からもやがかかる状況下、本渡港旅客船浮桟橋に向けて入航操船中、前路の漁船群を替わすために基準経路から外れ、平素と異なる進入角度で接続水路入口の基準経路に戻ったのち、針路表示装置が故障した状態で接続水路を進行する場合、市街地の灯火などが識別しずらい状況にあったから、適切な針路を保持できるよう、目標となる本渡港灯標や防砂堤灯台との相対位置を確かめるなどの針路の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、市街地の平成橋北西方の物標を平素船首目標としている同橋北端と思い、針路の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、船首目標を見誤って防砂堤に向首していることに気付かないまま進行して乗揚を招き、ウォータージェット推進装置などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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