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1999年(平成11年)

平成10年神審第77号
    件名
漁船睦丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成11年2月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、山本哲也、清重隆彦
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:睦丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底外板に破口及び亀裂など、プロペラ、舵を損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航防止の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月27日03時10分
能登半島西岸高岩岬
2 船舶の要目
船種船名 漁船睦丸
総トン数 9.92トン
登録長 12.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
睦丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成9年12月27日00時00分石川県富来漁港を発し、海士埼西方10海里付近の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、平素03時ごろ出漁して夜間操業を行い、16時ごろに帰港するようにしていたところ、前日のテレホンサービスの気象情報を聞き、遅くなると時化(しけ)模様となることが予想されたので、いつもより3時間早く出港することとし、自宅で6時間ほど睡眠をとったのち出漁したものであった。
A受審人は、発航後、単独で船橋当直に当たり、01時30分ごろ目的の漁場に到着したものの、思ったより時化気味で操業が困難であったので、やむなく富来漁港に引き返すこととし、同時45分海士埼灯台から263度(真方位、以下同じ)9.1海里の地点を発進し、帰港の途についた。
発進時、A受審人は、針路をGPSプロッターで高岩岬付近に向く089度に定めて自動操舵とし、漁獲物がなく急いで航行する必要もなかったことから、機関を全速力より減じた回転数毎分1,300にかけ、7.0ノットの対地速力で、他の乗組員を船員室で休息させ、引き続き単独で当直に就いて進行した。
その後、A受審人は、舵輪の後ろにあるいすに腰を掛けて前路の見張りに当たっていたところ、高岩岬沖の富来漁港に向けての予定転針地点に近づいたころ、せっかく出漁したのに操業できずに気落ちしたことに加え、同漁港を目前にしたことから、気が緩み眠気を催すようになった。しかし、同人は、あと少しで富来漁港に着くので、まさか居眠りすることはないものと思い、居眠り運航とならないよう、早めに乗組員を起こして見張りに就けるなど居眠り運航防止の措置をとることなく、引き続きいすに腰を掛けて当直を続けた。
03時08分A受審人は、能登富来港風無第3防波堤灯台から222度650メートルの地点に達し、富来漁港まで1海里ばかりに接近したとき、いつものように手動操舵に切り換え、同漁港に向ける057度の針路に転じたのち、いすに腰を掛けたまま左手で舵輪を握って操舵を続けていたところ、間もなく舵輪に左手を置いた状態で居眠りに陥った。
こうして睦丸は、単独の当直者が居眠りしたのち、わずかに左舵がとられて徐々に左回頭しながら、高岩岬付近の海岸に向かう状況となって続航中、03時10分能登富来港風無第3防波堤灯台から257度300メートルに存在する岩礁に、335度を向いて、ほぼ原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船底外板に破口及び亀裂などを生じたほか、プロペラや舵を損傷したが、僚船により引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、能登半島海士埼西方沖合の漁場から富来漁港に向けて帰港中、居眠り運航防上の措置が不十分で、高岩岬付近の海岸に左転しながら進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、能登半島海士埼西方沖合の漁場から富来漁港に向けて帰港中、予定転針地点である高岩岬沿岸に近づいたころ眠気を催すようになった場合、間もなく入港態勢をとる時期であったから、居眠り運航とならないよう、早めに休息中の乗組員を起こして見張りに就けるなど居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、あと少しで富来漁港に着くので、まさか居眠りすることはないものと思い、早めに休息中の乗組員を起こして見張りに就けるなど居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、予定転針地点に達し、手動操舵に切り換えて同漁港に向ける針路に転じたのち居眠りに陥り、わずかに左舵がとられ、高岩岬付近の海岸に左転しながら進行して同岬付近の岩礁に乗り揚げ、船底外板に破口及び亀裂などを生じさせたほか、プロペラなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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