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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月13日14時30分 瀬戸内海大畠瀬戸 2 船舶の要目 船種船名 貨物船万栄丸 プレジャーボート神力丸 総トン数 188.12トン 1.30トン 登録長
35.08メートル 7.60メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 294キロワット
25キロワット 3 事実の経過 万栄丸は、主に、山口県徳山下松港と瀬戸内海諸港間の液体危険物輸送に従事する球状船首を装備した船尾船橋型の鋼製危険物搭載タンカーで、A受審人ほか2人が乗り組み、苛性ソーダ200立方メートルを載せ、船首2.5メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成9年8月13日10時20分徳山下松港を発し、同県岩国港に向かった。 A受審人は、港内操船を終えた後、船橋当直を一等航海士に任せ、その後同県牛島北方の海域で昇橋して船橋当直を交代し、佐合ノ瀬戸、上関海峡を経由して北上し、同県笠佐島の東方海域に至り、ここから大畠瀬戸西口に向けて航行した。 ところで、大畠瀬戸は、山口県本土の大畠町沿岸とその南側にある同県屋代島との間に狭まれた東西方向に約2,000メートルの長さをもつ、最狭可航幅約260メートルの狭い水道で、その水路の西側出入口南側一帯には険礁地が拡延し、その南端付近に大磯灯台が設置され、同灯台から320度(真方位、以下同じ。)340メートルのところには、同険礁の北西端を示す戒善寺礁灯浮標が、ここから東方に向かって約2,000メートルのところには同瀬戸東端を示す大畠瀬戸第4号灯浮標がそれぞれ設置され、この両灯浮標間が同瀬戸を航行する船舶の水路となり、この中央付近の最狭部には南北方にわたって大島大橋が架けられており、中央橋梁灯(C1灯)の北側及び南側130メートルのところには、それぞれ第3及び第4橋脚が設けられていた。 一方、同瀬戸は、告示により、水路を航行する総トン数5トン以上の船舶の経路が指定されており、同瀬戸を東航する船舶は、戒善寺礁灯浮標の北方の海域から、前示中央橋梁灯を通る084度の方位線(以下「C線」という。)の南側で、第4橋脚の北側の水域を航行して大畠瀬戸第4号灯浮標まで、また、西航する船舶は、同灯浮標から戒善寺礁灯浮標間まではC線の北側で、第3橋脚の南側の水域を航行することになっていた。 こうして、14時27分半A受審人は、戒善寺礁灯浮標北方で、大磯灯台から328度390メートルの地点に達したとき、針路を084度に定めて操舵を手動とし、折からの4ノットの潮流に乗じ、12.5ノットの対地速力となって東航経路に従い進行した。 14時29分半少し前A受審人は、大磯灯台から055度720メートルの地点に達したとき、左舷船首方に西航経路内を西行中の第三船のフェリーと、正船首よりわずか右280メートルのところの東航経路内を西行中の神力丸を初めて視認し、同船の動静を監視していたところ、船首が左右に振れて進路模様が若干不安定で、その動作を理解することできない状況であったが、いずれ同船が自船に気付いて適宜対処するものと思い、警告信号を行うことなく、また、同地点は潮流が強く、自船の右舷方水域に十分な余裕がなかったことから針路を右転できないまま続航した。 14時29分半A受審人は、機関をとりあえず半速力前進に減じ、8.0ノットの対地速力となって神力丸に対する動静監視を続けるうち、同船の船首方向が安定し、自船と約10メートルの航過距離をもって右舷側を対して無難に航過する態勢となったのを認め、そのままの針路速力で進行することとした。 14時30分少し前A受審人は、神力丸が自船の船首部の死角に入ったことから念のため機関を中立としたが、このころ同船が急激に右転を開始し、自船の前路に向けて進出する態勢となったことに気付かず続航中、14時30分大磯灯台から060度860メートルの地点の大島大橋橋下において、原針路ほぼ原速力のままの万栄丸の船首が神力丸の左舷中央部に直角に衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、大畠瀬戸付近には4ノットの東流があった。 また、神力丸は、主に、大畠瀬戸周辺の海域で一本釣りに従事する船尾に舵棒をもつプレジャーボートで、B(昭和13年9月4日生、一級小型船舶操縦士免状、平成10年12月31日病死)が船長として1人で乗り組み、縁者2人を乗せ、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時00分山口県大畠港の係船地を発し、大畠瀬戸の北側の釣り場に向かった。 B船長は、夏場の休日はほとんど周辺海域で釣りを行い、付近海域の航行には馴れており、同海域は水路幅が狭いうえ、潮流も強く、船舶の通航量の多い場所であることを知っていた。 B船長は、周辺海域を適宜移動して、12時ごろ大畠瀬戸南側の三蒲湾(みがまわん)に至り、ここで釣りのかたわら昼食をとり、14時20分ごろ大畠瀬戸第4号灯浮標の南東方約450メートルの釣り場を離れて帰途に就くこととした。 B船長は、その後三蒲湾を西行し、14時28分大磯灯台から075度1,220メートルの地点に達したとき、針路を西航経路に向かうべく300度に定めて機関を半速力前進にかけ、折からの東流に抗して9.0ノットの対地速力となり、船尾甲板で舵棒を操作して進行した。 14時29分B船長は、大磯灯台から064度1,050メートルの地点に達し、大島大橋の東方約190メートルの地点に差し掛かったとき、右舷後方に西航経路内を西行し、自船を追い抜く態勢の第三船のフェリーを認め、その船尾が航過した後右転して西航経路に入進することとし、針路を、一旦、東航経路と平行する264度に転じ、第三船のフェリーの航過を待つため機関を半速力前進より少し減じ、6.0ノットの対地速力となって続航したが、同船に気を奪われていたことと逆潮流の影響もあって、船首が左右に振れ進路が若干不安定な状況となって進行した。 14時29分半少し前B船長は、264度の針路のとき、正船首よりわずか右280メートルのところに自船に向首する万栄丸を視認し得る状況になったが、このころ船尾方に見る状況となった第三船のフェリーに気を奪われて、船首方の見張りを十分に行うことなく進行して、この状態に気付かなかった。 14時29分半B船長は、依然、船尾方の第三船のフェリーにのみ気を奪われ、その航過を窺(うかが)いながら航行し、このころ船首方向が安定し、万栄丸と約10メートルの航過距離をもって右舷側を対して無難に航過する態勢となって続航した。 14時30分少し前B船長は、第三船のフェリーの船尾が右舷正横を航過したのを認め、西航経路に入進するため舵を右一杯にとり右転を開始したところ万栄丸の前路に向け進出する態勢となったが、依然、見張り不十分で、同船に気付かず、345度を向首したとき、突然、衝撃を受け前示のとおり衝突した。 衝突の結果、万栄丸は船首部に擦過傷を、神力丸は左舷側中央部に亀裂を伴う凹損を生じて転覆し、B船長ら3人は付近の釣り船に救助され、船体は海上保安部の船舶に曳(えい)航されて西三蒲の岸壁に引きつけられたが、のち、いずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、大畠瀬戸の最狭部付近において、東航経路をこれに沿って東進中の万栄丸と同経路を西進中の神力丸とが互いに無難に航過する態勢で進行中、神力丸が右転して西航経路に入進する際、見張り不十分で、万栄丸の前路に進出したことによって発生したが万栄丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、大畠瀬戸の最狭部付近において、東航経路をこれに沿って東進中、同経路内の前路に、進路模様が若干不安定な状態で西進中の神力丸を視認した場合、同船に対し、直ちに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれ自船を認めて適宜対処するものと思い、直ちに警告信号を行わなかった職務上の過失により、神力丸との衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、神力丸の左舷側中央部に亀裂を伴う凹損を生じさせ同船を転覆させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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