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1999年(平成11年)

平成10年広審第103号
    件名
漁船第1栄光丸遊漁船大勝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

横須賀勇一、杉崎忠志、織戸孝治
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:第1栄光丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:大勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
栄光丸・・・引き網用左舷張り出しビーム擦過傷
大勝丸・・・船首部ハンドレール及びマスト曲損、釣り客が2週間の加療を要する頸椎捻挫

    原因
栄光丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大勝丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第1栄光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で錨泊中の大勝丸を避けなかったことによって発生したが、大勝丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月25日11時30分
瀬戸内海伊予灘
2 船舶の要目

船種船名 漁船第1栄光丸 遊漁船大勝丸
総トン数 4.9トン 4.4トン
全長 13.0メートル
登録長 11.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 90

3 事実の経過
第1栄光丸(以下「栄光丸」という。)は、船体中央部に船橋を備えた小型機船底引き網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成9年8月24日13時ごろ山口県向島漁港を発し、伊予灘西部の操業海域に向かった。
ところで、A受審人は、長年、前示海域での底引き網漁業に従事してきたが、近年、短期問の操業では漁獲量が思わしくなく、2泊3日の連続操業を行うことが常態となり、就業時間も投網、曳網、揚網から再投網までの1回が約6時間の操業で、曳網中も漁獲物の選別作業を行い、これを終えて次の揚網まで短時間の休息しかとることができず、これを繰り返し行うことで疲労が蓄積し、睡眠時間が減少する状況にあった。
こうして、A受審人は、操業海域に至り曳網を繰り返し、翌25日09時50分佐田岬灯台から324度(真方位、以下同じ。)9.6海里の地点に達したとき、針路を353度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ折からの弱い北北東流に乗じて2.0ノットの曳網速力(対地速力)で進行した。

11時00分A受審人は、佐田岬灯台から329度11.7海里の地点に達したとき、疲労が蓄積し強い眠気を覚えたが、このころ周囲を一瞥しただけで、支障となる他船はいないものと思い、操業を中止し、航行船舶が少ない海域で錨泊して仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、間もなく船橋内後部に横たわり、その後、いつしか居眠りに陥った。
A受審人は、11時26分半佐田岬灯台から330度12.3海里の地点に達したとき、船首方220メートルのところに大勝丸が潮流に立ち遊漁して錨泊中で、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、居眠りに陥ったままこのことに気付かず、同船を避けないで続航中、栄光丸は、11時30分佐田岬灯台から331度12.4海里の地点において、原針路、原速力のまま左舷側から正横に張り出している引き網用ビームの中央部付近が、大勝丸の船首マストに前方から13度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力3の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、大勝丸は、船体中央部に操舵室及びその後部にキャビンを備えたFRP製遊漁船で、B受審人が単独で乗り組み、釣り客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月25日05時30分ごろ大分港津留泊地を発し、大分空港北東沖合に向かった。
B受審人は、釣り場に到着後、適宜、移動して10時50分ごろ前示衝突地点に至り、機関を停止し、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、水深約60メートルの海底に錨索を約100メートル延出して錨泊し、釣り客3人を船首部に、他の1人を右舷船尾部に配して、自らも左舷船尾部に位置し、魚釣りを再開した。
11時26分半B受審人は、大勝丸の船首が160度に向首していたとき、船首方220メートルのところに自船のわずか左方に向いた栄光丸を初めて視認し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、一瞥しただけで、同船は自船の左舷方を航過していくものと思い、その後動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき、機関を始動して衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続け、同時29分少し前釣り客から大勝丸が接近していることを知らされ、ようやく危険を感じモーターホーンを連吹するも効なく、大勝丸は、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、栄光丸は、引き網用左舷張り出しビームに擦過傷を、大勝丸は、船首部ハンドレール及びマストに曲損をそれぞれ生じ、のち修理され、釣り客のCが2週間の加療を要する頸椎捻挫を負った。

(原因)
本件衝突は、国東半島東方沖合において、漁労に従事して北上中の栄光丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路に錨泊して遊漁中の大勝丸を避けなかったことによって発生したが、大勝丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、国東半島東方沖合において、連続操業により疲労が蓄積した状態で、単独で曳網中、強い眠気を感じた場合、操業を中止し、航行船舶の少ない海域で錨泊して仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一瞥しただけで、支障となる他船はいないものと思い、曳網を続け、錨泊して仮眠をとるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って居眠り運航となり、錨泊中の大勝丸を避けずに進行して同船との衝突を招き、栄光丸の引き網用左舷張り出しビームに擦過傷を、大勝丸の船首部ハンドレール及びマストに曲損をそれぞれ生じさせ、同船の釣り客1人に頸椎捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、国東半島東方沖合において、錨泊中、船首方に栄光丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう動静監視を十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、一瞥しただけで、栄光丸は、自船の左舷を航過していくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、栄光丸が衝突のおそれのある態勢で接近する状況に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け、栄光丸との衝突を招き、両船に前示の損傷及び大勝丸の釣り客に負傷をさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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