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1999年(平成11年)

平成10年神審第116号
    件名
漁船第五福栄丸岸壁衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明
    理事官
山本茂

    受審人
A 職名:第五福栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
左舷船首部外板等に凹損を伴う擦過傷

    原因
接岸予定の岸壁までの距離確認不十分

    主文
本件岸壁衝突は、接岸予定の岸壁までの距離確認が不十分で、行き脚低減措置が遅れたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月28日09時00分
石川県金沢港
2 船舶の要目

船種船名 漁船第五福栄丸
総トン数 99トン
全長 34.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
第五福栄丸(以下「福栄丸」という。)は、単暗車右旋式推進器を装備した中央船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか9人が乗り組み、かに篭漁の目的で、船首1.80メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成9年6月25日22時00分石川県金沢港を発し、同港北西方60海里ばかり沖合の日本海漁場に至って操業に従事したのち、越えて同月28日02時00分ずわいがに約20トンを漁獲して金沢港への帰途についた。
ところで、福栄丸は、凌波性(りょうはせい)を良くするため船首楼が高く設けられており、接岸する際など操舵室において単独で見張りを兼ねて操船に当たると、目的の岸壁付近が船首構造物の陰となって距離の確認が十分にできないので、A受審人は、船首に見張員を配置して同岸壁への接近模様を適宜報告させるようにしていた。
同日08時40分A受審人は、金沢港西防波堤先端付近の同港港口に達したとき、乗組員全員を船首見張りやその他の着岸配置につけ、自ら操舵室で手動操舵と操船に当たり、機関を半速力前進に減じて港奥にある水産埠頭の魚市場前岸壁に向かった。

水産埠頭は、港奥の南西部に設けられた、長さが約200メートル、先端部の幅が約110メートルの、北に向けて突出した埠頭で、大野灯台から129度(真方位、以下同じ。)730メートルの、同埠頭北西角(以下「北西角」という。)から189度方向の同埠頭西側基部までの間を魚市場前岸壁と称していた。
A受審人は、漁獲物水揚げのため魚市場前岸壁中央部付近に入船左舷付けで接岸する予定で、金沢港内を水路に沿って南下したのち、08時58分北西角から041度140メートルの、大野岸壁南端沖を通過したところで右転して針路を240度に定め、機関を引き続き半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で進行した。
平素、A受審人は魚市場前岸壁に接岸する際、北西角が左舷に並んだころ機関を微速力前進に減じて左転し、魚市場前岸壁に対して約20度の角度をもって予定の接岸地点に向かい、船首に配置した乗組員に手で合図させながら、船首が同地点の約60メートル手前となったとき、機関を中立として惰力進行し、船首と岸壁との距離が15メートルほどになったとき、機関を後進にかけて船尾を左舷側に振りながら接岸するようにしていた。

ところが、当日は北西角付近の魚市場前岸壁に2隻の水揚げを終えた漁船が互いに舷を接して係留されており、これらを迂回するため平素の入港時より対岸に近づいたところで大角度の左転を余儀なくされ、08時59分少し過ぎ北西角から260度80メートルの、接岸予定地点から約120メートルの地点で、針路を同地点に向首する150度とし、機関を微速力前進に減じたところ、岸壁に対して約40度の角度をもって接近する態勢となったが、そのまま5ノットの行き脚をもって続航した。
A受審人は、接岸予定地点に接近するにつれ、同岸壁が船首構造物に隠れて視認できないようになったが、慣れたところに接岸するので大丈夫と思い、船首の見張員にその接近模様を報告させ、岸壁との距離を十分に確認することなく、過大な行き脚のまま岸壁に接近していることに気付かず、機関を使用して行き脚の低減措置をとらないで前進中、09時00分わずか前、左舷側に見える岸壁の距離から、思ったより岸壁に接近していることを認め、あわてて機関を停止し、続いて全速力後進をかけて右舵一杯にとったが効なく、09時00分福栄丸は、大野灯台から136度780メートルの魚市場前岸壁に、原針路のまま約3ノットの速力で衝突した。

当時、天候は曇で風力3の北北東風が吹き、潮候は高潮時であった。
衝突の結果、左舷船首部外板等に凹損を伴う擦過傷を生じた。


(原因)
本件岸壁衝突は、金沢港水産埠頭の魚市場前岸壁中央部付近に入船左舷付けで接岸する際、岸壁までの距離確認が不十分で、行き脚低減措置が遅れたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、船首楼が高くて船首方向の見通しが悪い福栄丸を単独で操船し、金沢港水産埠頭の魚市場前岸壁中央部付近に入船左舷付けで接岸する際、目的地点の手前に係留している互いに接舷した2隻の漁船を迂回して岸壁に接近する場合、同岸壁が船首構造物の陰となって視認できなかったのであるから、船首配置の見張員に同岸壁への接近模様を報告させて同岸壁との距離を十分に確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、慣れたところに接岸するので大丈夫と思い、船首配置の見張員からの報告を求めず、接岸予定地点までの距離を十分に確認しなかった職務上の過失により、行き脚低減措置が遅れて同岸壁との衝突を招き、左舷船首部外板などに凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。






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