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1999年(平成11年)

平成11年神審第2号
    件名
貨物船第二十五すみせ丸貨物船かづさ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、西林眞
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第二十五すみせ丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:かづさ丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
すみせ丸・・・左舷船首ブルワークに曲損、同舷側の中央部荷役装置及び船橋楼居住区囲壁が圧壊
かづさ丸・・・船首部左舷側バウチョック及び同舷船首部外板に亀裂を伴う凹損

    原因
かづさ丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、かづさ丸が、見張り不十分で、錨泊中の第二十五すみせ丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月6日07時00分
高知県須崎港沖合
2 船舶の要目

船種船名 貨物船第二十五すみせ丸 貨物船かづさ丸
総トン数 749トン 697.35トン
全長 70.00メートル 76.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 1,323キロワット

3 事実の経過
第二十五すみせ丸(以下「すみせ丸」という。)は、船尾船橋型セメント運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま船首1.60メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成9年9月5日13時20分神戸港を発し、高知県須崎港に向かった。
翌6日01時50分A受審人は、須崎港沖合の、一子碆灯標から268度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に至り、夜が明けてから入港するため仮泊することとし、右舷錨を投じ錨鎖5節を延出して錨泊中を示す全周灯2個と黒色球形形象物1個を掲げ、早朝からの入港及び荷役作業に備えて乗組員全員に休息をとらせた。
ところで、すみせ丸が錨泊した海域は、当地の漁業協同組合の要請で、須崎港外で沖待ちする船舶用として、一子碆灯標から268度1.1海里の地点を中心とする半径800メートルの円内に設定された通称「沖待ち錨地」で、すみせ丸以外に同船より大型の船舶が4隻錨泊していた。

こうして、すみせ丸が一子碆灯標から266度1.4海里の地点において船首を030度に向けて錨泊中、07時00分その左舷船首付近にかづさ丸の左舷船首部が前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力1の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、衝突地点付近の視程は約3海里であった。
A受審人は、朝食をとるため食堂に入ったとき、強い衝撃を感じて衝突を知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また、かづさ丸は、主に砕石や水砕スラグを須崎港に運ぶ船尾船橋型貨物船で、船長C及びB受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま船首1.62メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、同日06時30分須崎港港奥の専用岸壁を発し、山口県仙崎港に向かった。
C船長は、船橋において、機関長を機関の遠隔操作に当たらせて発航操船を行い、06時46分一子碆灯標から330度2.6海里の地点で、針路を須崎湾の湾口部に向かう185度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。

06時50分C船長は、船首配置を終えたB受審人が昇橋したとき、船橋前窓が雨に濡れて前方の見通しが悪かったので、6海里レンジに設定したレーダーを見ながら同人に当直を引き継いで降橋した。
単独で当直に就いたB受審人は、須崎港の入出港経験が豊富で、前路の須崎港沖合にはいつも錨泊船がいることを知っていたが、雨滴が付着した前窓からの見通しが悪かったにもかかわらず、中央部窓ガラスに装備されているワイパーや左舷側前窓に設けられていた回転窓を動かして前方の見張りを十分に行うことなく、引き続き同一針路及び速力で航行した。
そして、B受審人は、使用海図に180度の針路線が引かれているのに針路185度で航行しているので、右方に寄りすぎるのではないかと不安を覚え、レーダーで船位を確認しようとしたが、画面が白っぽくなって右舷側の小島などが明確に映っていないので、感度やFTCの調整を行っていたところ、06時54分一子碆灯標から123度1.6海里の地点に達したとき、正船首方向1.0海里に錨泊中のすみせ丸やその周辺で錨泊中の他船を視認できるようなったが、これに全く気付かなかった。

06時58分B受審人は、07時の船位を求めるため、調整を終えたレーダーで右舷側の島や岬などの距離を測定したが、依然前方の見張りを十分に行わず、正船首方600メートルのすみせ丸に気付かないで、これを避けることなく、船橋内右舷後部に設置されている海図台に赴き、後方を向いて海図に船位を記入していたところ、かづさ丸が原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
食堂で朝食をとっていたC船長は、衝撃を感じて衝突を知り、昇橋して事後の措置に当たった。
衝突の結果、すみせ丸は、左舷船首ブルワークに曲損を生じたほか、同舷側の中央部荷役装置及び船橋楼居住区囲壁が圧壊し、また、かづさ丸は、船首部左舷側バウチョック及び同舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、須崎港沖合を航行中のかづさ丸が、見張り不十分で、法定の形象物を表示して錨泊しているすみせ丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
B受審人は、須崎港発航後、発航操船を終えた船長と交替して単独の船橋当直に従事し、雨模様のなか同港沖合を須崎湾の湾口部に向けて南下する場合、同海域は沖待ちのための船舶が錨泊していることが多かったから、これらを見落とすことがないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、6海里レンジに設定されたレーダーの調整や船位の確認に気をとられて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のすみせ丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、すみせ丸の左舷船首ブルワーク、同舷側の中央部荷役装置及び船橋楼居住区囲壁にそれぞれ損傷を、かづさ丸の左舷船首部外板等に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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