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1999年(平成11年)

平成10年神審第115号
    件名
プレジャーボートなかむらプレジャーボートイルカ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、須貝壽榮、西林眞
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:なかむら船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:イルカ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
なかむら・・・・・右舷船首部に擦過傷
イルカ丸・・・・・船首部を圧壊、イルカ丸船長が頚椎捻挫

    原因
なかむら・・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、なかむらが、見張り不十分で、前路で錨泊中のイルカ丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月16日18時40分
石川県金沢港沖合
2 船舶の要目

船種船名 プレジャーボートなかむら プレジャーボートイルカ丸
全長 10.86メートル 5.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 180キロワット 11キロワット

3 事実の経過
なかむらは、船体後部に操縦室を設けたFRP製プレジャーモーターボートで、石川県金沢港を基地とし、釣りなどのレジャーに使用されていたところ、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、いか釣りの目的で、船首0.40メートル船尾0.55メートルの喫水をもって、平成9年8月16日18時10分同港内大野川の係留地を発し、同港南西方5海里ばかり沖合の釣り場に向かった。
A受審人は、操縦室右舷寄りに設けられた操縦席に腰をかけて操船に当たり、低速力で大野川を下航したのち、機関を港内全速力前進にかけ、金沢港の西防波堤東側沿いに北上し、18時28分金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から003度(真方位、以下同じ。)450メートルの地点で、針路を226度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で進行した。

ところで、A受審人は、なかむらが全速力前進に増速すると、船首部が浮上し、操網立置から前方を見ると、船首尾線から左右各15度の範囲に死角を生じ、この範囲を見通すことができないことを知っていたが、定針したとき、右方沖合に数隻の漁船を認めただけで、前路に他船はいないと思って続航した。
18時39分A受審人は、西防波堤灯台から229度3.1海里の地点に達したとき、正船首550メートルのところに、イルカ丸が船首を045度に向けた状態で錨索を出し、マストに集魚用の明かりを点灯して錨泊しているのを認めることができる状況で、その後、同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、なおも前路に航行の支障となる他船はいないものと思い、操縦室の左右各舷側の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを行うことなく、イルカ丸の存在にも、同船に向首したまま接近していることにも気付かず、速やかに転舵するなど同船を避けないまま進行した。

こうして、A受審人は、18時39分半少し過ぎイルカ丸との距離が200メートルとなったとき、同船からの注意喚起にも気付かずに続航し、同時40分少し前釣り道具の点検のため前部甲板に赴いた友人が振り返って手を振るのを見て何か異常を感じ、直ちに機関を停止したものの及ばず、18時40分西防波堤灯台から229度3.4海里の地点において、なかむらは、原針路のまま、10.0ノットの対地速力をもって、その右舷船首が、イルカ丸の船首にほぼ真正面から衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候はほぼ低潮時にあたり、日没は18時44分で、視界は良好であった。
また、イルカ丸は、船体中央部にマスト1本を設け、船外機を装備したFRP製プレジャーモーターボートで、金沢港を基地として釣りに使用されていたところ、B受審人が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、船首0.16メートル船尾0.21メートルの喫水をもって、同日18時00分同港内犀川の係留地を発し、同港沖合の水深約30メートルの釣り場に向かった。

やがて、B受審人は、前示衝突地点付近の釣り場に至り、船外機を停止したところ、折からやや強い北東風があったので錨泊することとし、18時30分船首から約5キログラムの鋳物製の錨を入れ、一端を船首部の係留用金具に固縛した直径10ミリメートル全長50メートルの化学繊維製の錨索をすべて延出し、他の船舶が通常航行する水域であったものの、球形形象物の備えがなかったのでこれを掲げずに錨泊した。
そして、B受審人は、マスト頂部のマスト灯からやや下方に集魚用に取り付けた蛍光灯を点灯したのち、船体中央部左舷側のいけすの蓋に腰を下ろして釣りの準備に取りかかり、18時39分船首が045度を向き1本目の釣り竿を伸ばしていたとき、正船首550メートルになかむらを初めて視認し、その後、衝突のおそれがある態勢で接近してきたものの、いずれ錨泊している自船の左右どちらかの舷側を替わすものと思い、同船を見守りながら釣りの準備を続けた。

18時39分半少し過ぎB受審人は、なかむらとの距離が200メートルとなり、同船に避ける気配が認められないので、避航を促すつもりで、呼子笛では伝わらないと判断して立ち上がり、手を振りながら大声で止まれと連呼したものの、依然として近づくので危険を感じ、船外機を後進にかけ、左舵一杯としたものの効なく、イルカ丸は、船首を045度に向けて錨泊したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、なかむらは、右舷船首部に擦過傷を生じただけであったが、イルカ丸は、船首部を圧壊し、B受審人は、頚椎捻挫を負った。


(原因)
本件衝突は、なかむらが、石川県金沢港沖合を釣り場に向けて南下中、見張り不十分で、前路で錨泊中のイルカ丸を避けなかったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、石川県金沢港沖合において、機関を全速力前進にかけて釣り場に向け南下する場合、船首方に死角を生じていたのであるから、前路で錨泊中のイルカ丸を見落とすことのないよう、操縦室の左右各舷側の窓から顔を出すなりして船首死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に航行の支障となる他船はいないものと思い、操縦室の左右各舷側の窓から顔を出すなりして船首死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、イルカ丸の存在にも、同船に向首したまま接近していることにも気付かないまま、これを避けずに進行して同船との衝突を招き、なかむらの右舷船首部に擦過傷を生じさせ、イルカ丸の船首部を圧壊させるとともに、B受審人に頚椎捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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