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1999年(平成11年)

平成11年門審第37号
    件名
貨物船吉招丸漁船第二十八千恵丸衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正
    理事官
蓮池力

    受審人
A 職名:吉招丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:吉招丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第二十八千恵丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
吉招丸・・・左舷前部に擦過傷
千恵丸・・・船首が破損

    原因
千恵丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
吉招丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二十八千恵丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る吉招丸の進路を避けなかったことによって発生したが、吉招丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Bを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び陽所
平成10年10月21日18時35分
宮崎県東岸沖合
2 船舶の要目

船種船名 貨物船吉招丸 漁船第二十八千恵丸
総トン数 513トン 4.98トン
全長 64.80メートル
登録長 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 70

3 事実の経過
吉招丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年10月21日17時45分宮崎県延岡港を発し、山口県仙崎港に向かった。
A受審人は、法定灯火を表示して、発航時から操船に当たり、18時10分島毛碆灯標から230度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、針路を090度に定めて自動操舵を使用し、機関を全速力前進にかけ、9.8ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)としたのち、船橋当直を自らと、B受審人との単独の6時間2直制に定めており、23時までが自らの当直となっていたが、視界も良好なことから、在橋中のB受審人に当直を任せて夕食を取るため降橋した。
B受審人は、単独で船橋当直に就いて同一針路、速力で進行し、18時19分半少し過ぎ島毛碆灯標から136度1.1海里の地点で、自動操舵のまま針路を050度に転じて続航したものの、東寄りのうねりを受けて船体が動揺することから、同時22分針路を060度に転じて進行したところ、同時30分同灯標から089度2.2海里の地点に達したとき、左舷船首27.5度1.6海里のところに白、緑2灯を表示して前路を右方に横切る態勢で接近する第二十八千恵丸(以下「千恵丸」という。)を初めて視認したが、一瞥しただけで、同船の灯火の見え具合から、左舷側船尾方を無難に替わるものと思い、衝突のおそれがあるかどうかをコンパスの方位変化を確かめるなどして、その動静監視を十分に行うことなく、続航した。

B受審人は、その後千恵丸の方位がほとんど変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、これに気付かず、18時33分千恵丸が避航動作をとらないまま1,200メートルに迫ったものの、警告信号を行わず、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行し、同時35分わずか前同船が左舷船首27.5度50メートルに迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、機関の回転数を減じながら手動操舵に切り替えて右舵一杯を取ったけれども、とき既に遅く、18時35分島毛碆灯標から080度3.0里の地点において、原針路、原速力のまま、吉招丸の左舷前部に、千恵丸の船首が前方から50度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、東寄りのうねりがあり、視界は良好であった。
衝突を知ったA受審人は、直ちに昇橋して事後の処理に当たった。

また、千恵丸は、まき網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、灯船として魚群を探索する目的で、同日17時45分宮崎県北浦港を発し、同県細島港東方沖合6海里付近の漁場に向かった。
C受審人は、18時14分島野浦島灯台から078度1.3海里の地点で針路を190度に定めて自動操舵を使用し、法定灯火を表示したうえ、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力とし、操舵室中央部の椅子に座わり、同室前面の左右に備えた魚群探知器とソナーによって魚群を探索しながら進行中、同時30分島毛碆灯標から064度3.5海里の地点に達したとき、右舷船首22.5度1.6海里のところに白、白、紅3灯を表示して前路を左方に横切る態勢で接近する吉招丸を視認し得る状況にあったが、魚群を探索することに気を取られ、見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま続航した。

C受審人は、その後吉招丸の方位がほとんど変わらないまま、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、その進路を避けないで進行し、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、吉招丸は左舷前部に擦過傷を生じ、千恵丸は船首が破損したが、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、宮崎県東岸沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある、態勢で接近中、千恵丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る吉招丸の進路を避けなかったことによって発生したが、吉招丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
C受審人は、夜間、単独で乗り組んで操船に当たり、宮崎県東岸沖合を漁場に向かって航行する場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚群を探索することに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、吉招丸の存在とその接近に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して、吉招丸との衝突を招き、同船の左舷前部に擦過傷を生じさせ、千恵丸の船首を破損させるに至った。
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、宮崎県東岸沖合を北上中、前路を右方に横切る態勢で接近する千恵丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、方位の変化を確かめるなど、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側船尾方を無難に替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、千恵丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

参考図






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