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1999年(平成11年)

平成11年門審第48号
    件名
貨物船新日化富士丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、阿部能正、平井透
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:新日化富士丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
富士丸・・・船首に破口を伴う凹損及び右舷側後部外板に凹損
防波堤・・・上端部を損傷

    原因
風潮の影響に対する配慮不十分

    主文
本件防波堤衝突は、風潮の影響に対する配慮が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月1日23時33分
長崎県平戸瀬戸
2 船舶の要目

船種船名 貨物船新日化富士丸
総トン数 1,960.44トン
全長 78.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,544キロワット

3 事実の経過
新日化富士丸(以下「富士丸」という。)は、船尾船橋型石灰石専用船で、A受審人ほか9人が乗り組み、空倉で、船首1.75メートル船尾3.65メートルの喫水をもって、平成10年4月1日13時55分長崎県島原新港を発し、山口県仙崎港に向かった。
A受審人は、16時00分から4時間の航海当直を行い、20時00分次直の一等航海士と三等航海士に当直を引き継ぎ、平戸瀬戸を通航する予定であること及び同瀬戸南方の指定した地点で報告することを指示して降橋した。
23時00分A受審人は、青砂埼灯台から201度(真方位、以下同じ。)3.8海里の地点で平戸瀬戸南方に達した旨の報告を受けて昇橋し、自ら操船の指揮を執り、一等航海士を操舵に、三等航海士を見張りに、一等機関士を機関操作にそれぞれ就け、同時11分同灯台から204度2.0海里の地点に達したとき、同瀬戸通航に備えて機関用意を令し、港内全速力の回転数毎分275として10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により北上した。

ところで、平戸瀬戸は、長崎県平戸島と九州本陸との間の水道で、北航する場合、同瀬戸の南部においては水路が北東方向から北西方向に屈曲し、10メートル等深線で挟まれる可航幅は平戸大橋付近で約350メートル、同橋の北方600メートルの地点に当たる田平港の防波堤とその西方に位置する大田助瀬及び茶臼瀬で挟まれる最狭部付近では約300メートルに狭められていた。
また、A受審人は、外航船の船長として長い経験を有していたものの内航船の船長としての経験は少なく、平戸瀬戸は南流時に1回南航したのみであったが、本件発生当日は九州西方海域は強風で時化模様であったことと、仙崎港における荷役予定が迫っていたことから同瀬戸を通航することとした。
23時23分少し前A受審人は、青砂埼灯台から288度400メートルの地点において、針路を平戸大橋に向く026度に定め、折からの潮流に乗じて11.5ノットの速力で進行した。

A受審人は、23時28分田平港南防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から209度1,980メートルの地点でアサマ灯浮標に並航し、針路を平戸大橋の中央部に設置された平戸大橋橋梁灯(C1灯)に向く031度に転じ、同時31分平戸瀬戸大橋の手前270メートルの地点に差し掛かるころから流速の増した潮流に乗じて13.0ノットの速力で続航し、同時32分少し前同橋の中央部下を通過した。
23時32分A受審人は、南竜埼北瑞を左舷正横に見て航過し、左舷船首9度に防波堤灯台、同60度に大田助瀬灯標及びその左方に小田助瀬灯標の各灯火並びに船首方に田平港南防波堤(以下「南防波堤」という。)を視認し、次の針路321度に向かう転針予定地点に達したことを知り、転針の際に常用舵角としていた左舵10度を令し、操舵に当たっていた一等航海士から左舵10度とした旨の報告を受けて進行した。

A受審人は、23時32分わずか過ぎ左に回頭する気配がないことを認め、順潮流の影響で舵効が悪いことと、南竜埼を替わって強まった平戸瀬戸を吹き抜ける北北西風を左舷前方から受けることによって左回頭する気配がないことを知ったが、大舵角による急激な回頭によって同瀬戸の最狭部に存在する瀬への接近を避けることに注意を奪われ、直ちに風潮の影響に抗して十分な舵効を得られる舵角をとるなど、風潮の影響を十分に配慮することなく、左舵10度を保ち、風潮の影響によって回頭惰力を得られないまま、ほぼ同じ針路で続航した。
23時32分少し過ぎA受審人は、依然として左回頭しないことを認めて左舵15度を令し、同時32分半なお左回頭しないまま南防波堤に接近したとき、同防波堤との衝突の危険を感じ、左舵一杯を令し、続いて全速力後進を令したものの効なく、23時33分防波堤灯台から138度80メートルの地点において、富士丸は、原針路、原速力のまま、南防波堤のほぼ中央部南面に70度の角度で衝突した。

当時、天候は雨で風力5の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には北に流れる約3ノットの潮流があった。また、3月31日23時35分長崎海洋気象台から九州西方海上全域に海上強風警報が発表されて翌4月1日に継続され、1日17時30分長崎西海上に同警報が発表されていた。
防波堤衝突の結果、富士丸は船首に破口を伴う凹損及び右舷側後部外板に凹損を生じ、南防波堤上端部を損傷したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、長崎県平戸瀬戸を北航する際、風潮の影響に対する配慮が不十分で、南防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸を北航中、平戸大橋下を通過したのち同瀬戸に沿って左転する際、通常の舵角をとっても回頭する気配がないことを知った場合、北に向かう強い潮流があり、また、強い北北西風を左舷前方から受ける状況であったから、直ちに風潮の影響に抗して十分な舵効を得られる舵角をとるなど、風潮の影響を十分に配慮すべき注意義務があった。しかるに、同人は、大舵角による急敷な回頭によって同瀬戸の最狭部に存在する瀬への接近を避けることに注意を奪われ、風潮の影響を十分に配慮しなかった職務上の過失により、南防波堤に向首したまま進行して同防波堤との衝突を招き、富士丸の船首に破口を伴う凹損及び右舷側後部外板に凹損を、南防波堤上端部に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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