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1999年(平成11年)

平成10年門審第54号
    件名
油送船千祥丸漁船神正丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、供田仁男
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:千祥丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
C 職名:神正丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
千祥丸・・・右舷側船首部にペイント剥離
神正丸・・・左舷側前部外板を大破、のち廃船

    原因
千祥丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守、(主因)
神正丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、千祥丸が、前路を左方に横切る神正丸の進路を避けなかったことによって発生したが、神正丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月26日03時10分
山口県相島北方沖合
2 船舶の要目

船種船名 油送船千祥丸 漁船神正丸
総トン数 2,983トン 8.20トン
全長 105.04メートル
登録長 11.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,089キロワット
漁船法馬力数 80

3 事実の経過
千祥丸は、船尾船橋型の油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか10人が乗り組み、ガソリン約2,000キロリットル及び軽油約3,000キロリットルを積載し、船首5.5メートル船尾6.4メートルの喫水をもって、平成9年6月25日10時20分岡山県水島港を発し、石川県金沢港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及びB指定海難関係人にそれぞれ甲板手1人をつけた4時間3直制とし、関門海峡を通過したのち、23時45分蓋井島灯台の南東方4海里沖合の地点で、同指定海難関係人に当直を委ねることにしたが、航海当直の経験が十分にあることから特に指示しなくても大丈夫と思い、他船の動静を十分に監視し、他船が衝突のおそれがある態勢で接近するときには報告するよう十分に指示することなく、針路等を伝えて降橋し、自室で休息した。
B指定海難関係人は、当直交替時に航行中の動力船であることを示す灯火が点灯していることを確かめ、水島水道を通過して響灘を北上し、翌26日01時00分角島灯台から300度(真方位、以下同じ。)3.9海里の地点において、針路を053度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、14.6ノットの対地速力で進行した。

03時00分B指定海難関係人は、萩相島灯台から350度9.7海里の地点に達したとき、右舷前方3.3海里のところに神正丸の紅1灯を初めて視認し、その動静を監視するうち、同時05分右舷船首48度1.7海里に同船の白、紅2灯を認めるようになり、その後方位が変わらず、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、A受審人に報告せず、同船の進路を避ける措置がとられないまま続航した。
B指定海難関係人は、03時09分少し前神正丸が700メートルに接近したとき、探照灯を同船の操舵室に向けて照射して進行し、同時10分少し前衝突の危険を感じ、甲板手に手動操舵に切り替えさせ、左舵一杯を令したが及ばず、03時10分萩相島灯台から002度11.0海里の地点において、千祥丸は、船首が043度に向いたとき、原速力のまま、その右舷船首が神正丸の左舷前部に後方から63度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力3の南南東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の報告を受けて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
また、神正丸は、昭和55年7月に進水し、全長が12メートルを超える一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同月26日02時00分山口県大井漁港を発し、見島北方沖合の漁場に向かった。
ところで、C受審人は、発航時、両色灯及び船尾灯を点灯し、操舵室前方のマストに設置されているマスト灯については、後方に明かりが漏れて見張りの妨げになることから、その替わりに停泊灯を点灯した。また、平素から汽笛を取り付けないまま操業に従事していた。
C受審人は、大島東岸を替わったのち、02時17分萩相島灯台から091度6.9海里の地点において、針路を330度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、14.6ノットの対地速力で進行した。

C受審人は、操舵室後部の両舷に渡した板に腰掛けて操舵と見張りに当たり、03時05分萩相島灯台から006度10.0海里の地点に達したとき、左舷船首49度1.7海里のところに千祥丸の白、白、緑3灯を視認でき、その後方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、左舷方から接近する船舶は避航船なので避けてくれるものと思い、右舷前方のアカバ瀬付近で操業している漁船群の灯火を注視することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、千祥丸に気付かないまま続航した。
03時08分少し過ぎC受審人は、千祥丸と同方位1,000メートルに接近したが、依然見張り不十分で、汽笛不装備で警告信号を行わず、更に接近しても行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行し、同時09分千祥丸が照射した探照灯の光が操舵室に差し込んできたものの、これをまき網船の灯火と思って続航中、同時10分少し前左舷方を見たところ、千祥丸の白、白、緑3灯を至近に認め、同船の前路を航過するつもりで機関の回転数を上げて増速し、手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが効なく、船首が340度を向いて、ほほ原速力のまま、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、千祥丸は、右舷側船首部にペイント剥離を生じ、神正丸は、左舷側前部外板を大破したが、のち船齢及び修理費との関係で廃船処理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、山口県相島北方沖合に方いて、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の千祥丸が、前路を左方に横切る神正丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の神正丸が、見張り不十分で、汽笛不装備で警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
千祥丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格者に当直を行わせるに当たり、他船が衝突のおそれがある態勢で接近するときは報告するよう十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、他船が衝突のおそれがある態勢で接近したとき報告しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、山口県相島北沖合において、無資格者に船橋当直を行わせる場合、他船の動静を十分に監視し、他船が衝突のおそれがある態勢で接近するときは報告するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直者に航海当直の経験が十分にあることから特に指示しなくても大丈夫と思い、他船が衝突のおそれがある態勢で接近するときは報告するよう十分に指示しなかった職務上の過失により、同当直者から神正丸が接近した報告が得られず、同船の進路を避ける措置がとられないまま進行して衝突を招き、千祥丸の右舷側船首部にペイント剥離を生じさせ、神正丸の左舷側前部外板を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

C受審人は、夜間、山口県相島北方沖合を漁場に向け北上する場合、左舷方から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、左舷方から接近する船舶は避航船なので避けてくれるものと思い、右舷前方のアカバ瀬付近で操業している漁船群の灯火を注視することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、千祥丸に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、山口県相島北方沖合において、船橋当直に当たって東行中、神正丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、A受審人に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、会社において事故についての注意喚起と安全運航の指導が行われた点に徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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