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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月23日03時00分 瀬戸内海徳山下松港 2 船舶の要目 船種船名 貨物船海運丸 漁船秀栄丸 総トン数 498トン 4.83トン 全長 75.62メートル
13.65メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット 46キロワット 3 事実の経過 海運丸は、主に瀬戸内海西域において、石灰石などの輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成10年3月23日02時20分徳山下松港第1区を発し、呉港に向かった。 A受審人は、1人で出航操船にあたり、所定の灯火を表示して、同港第1区の出入口で徳山湾湾口にあたる洲島、岩島間の水路に向け港内を南進し、02時53分半同水路に差し掛かり、岩島灯台から296度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で、針路を港外に向け138度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。 02時55分少し前A受審人は、左舷前方に視認していた同航の第三船と近づくことから、右転して針路を167度とし、同船との間隔を隔てたのち、同時56分わずか前岩島灯台から233度500メートルの地点で、左転して原針路に復した。 原針路に復したときA受審人は、右舷船首11度2,000メートルのとこに、港内に向け北上する秀栄丸の灯火を初めて視認し、その後方位にほとんど変化がなく、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを認めたが、右舷側に漁船の灯火が点在するのを認めていたことから、それらが気になって右転できず、もう少しこのまま進行しても大丈夫と思い、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなどして秀栄丸の進路を避けることなく進行した。 02時59分A受審人は、秀栄丸と約400メートルに接近したとき、汽笛を吹鳴して機関を停止し、左舵一杯をとったが効なく、海運丸は、03時00分岩島灯台から160度1,200メートルの地点において、076度に向首したとき、その右舷中央部に秀栄丸の船首がほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 また、秀栄丸は、小型機船底引網漁業に従事する、船体中央部に操舵室を備えた木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、同月21日07時30分徳山市大津島漁港馬島地区を発し、国東半島東方沖合いの漁場に至り、いか、かれいなどを漁獲したのち、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、翌22日22時伊予灘西航路第1号灯浮標の南南東2海里ばかりの地点を発進し、水揚げの目的で、徳山下松港第1区に向け帰途に就いた。 B受審人は、伊予灘を北上し、途中、漂泊して漁網を洗浄したのち、所定の灯火を表示し、翌23日02時53分岩島灯台から163度1.5海里の地点に達したとき、入航の操舵目標として、当時、岩島南方沖に設置されていた水道管敷設工事用の標識灯を船首右舷に見るよう針路を346度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で、徳山湾湾口に向け自動操舵により進行した。 02時54分B受審人は、岩島灯台から163度2,500メートルの地点に達したとき、左舷船首13度1.6海里に海運丸の白、白、緑3灯を初認し、同船が前路に近づき、徳山下松港から東方に向かう出航船であることを知ったが、同時55分少し前ほぼ同方位1.4海里のところで同船が右転し、その紅灯を視認するようになったことから、同船はそのままの針路で続航し、自船の左方を替わって行くものと思い、その後同船に対する動静監視を行うことなく、操舵室後方の右舷側に寄り専ら右方の第三船と標識灯に注意を払って続航した。 02時56分わずか前B受審人は、岩島灯台から163度2,100メートルの地点に達したとき、海運丸が、左舷船首17度2,000メートルのところで左転し、その後前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然、動静監視を行っていなかったのでこのことに気付かず、警告信号を行わず、海運丸が発した汽笛の吹鳴も自船の機関音で聞き取ることができないまま、さらに間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることなく進行中、秀栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、海運丸は右舷中央部外板に凹損を、秀栄丸は船首部に破損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、徳山下松港において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、海運丸が、前路を左方に横切る秀栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、秀栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、徳山湾湾口を南下中、秀栄丸が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを知った場合、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、しばらくは大丈夫と思い、速やかに機関を後進にかけ行きあしを停止するなどして同船の進路を避けなかった職務上の過失により衝突を招き、海運丸の右舷中央部外板に凹損を、秀栄丸の船首部に破損を生じさせるに至った。 B受審人は、夜間、徳山湾湾口に向け北上中、左方から前路に近づく海運丸の灯火を認め、同船が東方に向かう出航船であることを知った場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海運丸が右転したことから、同船はそのままの針路で続航し、自船の左方を替わっていくものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後同船が左転して前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
参考図
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