|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月28日05時10分 瀬戸内海伊予灘 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第八福昇丸 漁船一栄丸 総トン数 198トン 4.9トン 登録長 52.51メートル
12.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 588キロワット 漁船法馬力数
15 3 事実の経過 第八福昇丸(以下「福昇丸」という。)は、鋼材等の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材541トンを積載し、船首2.3メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成9年12月27日16時45分姫路港を発し、博多港に向かった。 翌28日00時ごろA受審人は、備後灘を西行中、単独で船橋当直に就き、04時52分釣島水道を航過して、由利島灯台から024度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点に達したとき、平郡水道東口に向け針路を255度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 05時04分A受審人は、由利島灯台から341度2.2海里の地点に達し、左舷前方に認めていた第三船が前路に近づくように見えたので、同船との距離を離そうと針路を265度に転じたとき、ほぼ正船首方向1,600メートルのところに、トロールによる漁ろうに従事する一栄丸の緑、白2灯及び船尾灯を認め得る状況となり、このころから、ほとんど方位の変化なく、衝突のおそれのある態勢で接近したが、第三船の灯火に気を取られ、前路の見張りを十分に行うことなく、一栄丸に気付かず、操舵室後方の左舷側に設置された海図台に船尾方を向いて運航日誌の記入を始め、時折右舷船首方を振り返りながら船橋当直に従事した。 05時08分A受審人は、一栄丸がほぼ正船首方向500メートルとなり、その後、日誌記入に専念し、依然、見張り不十分で、同船に気付かず、同船の進路を避けることなく進行中、同時09分船首至近に一栄丸の白灯1個を初めて視認し、驚いて手動操舵に切り替えるとともに右舵一杯としたが及ばず、福昇丸は、05時10分由利島灯台から320度2.7海里の地点において、その船首が270度に向首して、原速力のまま、一栄丸の船尾端に、後方から12度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、衝撃を感じなかったことから、衝突したことに気付かないまま航行中、海上保安部から連絡を受けて衝突の事実を知った。 また、一栄丸は、小型機船底引き網漁に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月27日16時ごろ愛媛県松山港を発し、同県由利島南西方沖合の漁場に向かった。 ところで、一栄丸の底引き網漁は、曳網索として先端に奥行き60メートルの袋網を取り付けた直径7ミリメートル長さ260メートルの2本のワイヤーロープを船尾端両舷からそれぞれ延出し、潮流に乗じて約2ノットの速力で3時間ほど曳網したのち揚網するという方法で行われていた。 B受審人は、乗組員と共同で揚投網、魚の選別作業を行い、曳網の間は、乗組員を休息させ、1人で自動操舵により当直に当たったが、一栄丸は曳網中、自動操舵のまま放置すると徐々に左偏する傾向があったから、適宜、針路を修正する必要があった。 17時30分ごろB受審人は、漁場に到着し、トロールによる漁ろう中であることを示す緑、白全周灯及び船尾灯を表示して曳網を繰り返し、翌28日02時30分由利島の西南西方約5海里の地点から北東方に向けて3回目の曳網を開始し、04時10分由利島灯台から300度1.5海里の地点に達したとき、針路を020度に定め自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ1.7ノットの曳網速力で進行した。 定針後間もなくB受審人は、舵輪後方においた椅子に腰掛けて当直に当たり連続操業による疲労から眠気を催したが、揚網まであと少しだから我慢できると思い、休息中の乗組員を起こして2人で当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航するうち、いつしか居眠りに陥り、針路修正を行わないままゆっくり左回頭しながら進行した。 05時04分B受審人は、由利島灯台から321度2.6海里の地点に達して船首が270度に向いたとき、右舷船尾5度1,600メートルのところに、福昇丸の白、白、紅、緑4灯を認め得る状況となり、このころから、衝突のおそれのある態勢で接近したが、同船に気付かないまま続航した。 05時08分B受審人は、福昇丸がほぼ正船尾方向500メートルとなったが、依然、居眠りに陥って同船に気付かず、警告信号を行わないまま進行中、一栄丸は、258度に向首したとき、原速力で、前示のとおり衝突した。 B受審人は、衝突の衝撃で目が覚め、事後の措置に当たった。 衝突の結果、福昇丸は、船首手摺りの曲損、一栄丸は、船尾端外板の損傷、船尾やぐらの曲損、漁網の喪失等の損害をそれぞれ生じたが、のちいずれも修復された。
(原因) 本件衝突は、夜間、由利島北西方海域において、福昇丸が、見張り不十分で、トロールによる漁ろうに従事する一栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、一栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、由利島北西方海域において、平郡水道に向け南西進する場合、前路でトロールによる漁ろうに従事する一栄丸の灯火を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、第三船の灯火に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事する一栄丸に気付かず、同船の進路を避けずに衝突を招き、福昇丸の船首手摺りを曲損、一栄丸の船尾端外板損傷、船尾やぐら曲損及び漁網の喪失をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、単独で由利島北西海域において漁ろうに従事中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の乗組員を起こして2人で当直を行うなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚網まであと少しだから我慢できると思い、休息中の乗組員を起こして2人で当直を行うなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、福昇丸に気付かず、警告信号を行うことなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|