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1999年(平成11年)

平成10年広審第44号
    件名
漁船天神丸プレジャーボート広丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、釜谷獎一、黒岩貢
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:天神丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:広丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
天神丸・・・ほとんど損傷なし
広丸・・・・右舷船尾、船側外板など破損、広丸船長が頭部、右肩などに10日間の入院加療を要する打撲傷

    原因
天神丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
広丸・・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、天神丸が、見張り不十分で、錨泊中の広丸を避けなかったことによって発生したが、広丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月31日10時50分
愛媛県西部 法花津(ほけず)湾
2 船舶の要目

船種船名 漁船天神丸 プレジャーボート広丸
総トン数 3.3トン
登録長 9.01メートル 3.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 7キロワット
漁船法馬力数 70

3 事実の経過
天神丸は、専ら愛媛県宇和島市北方の法花津湾内各地を回り、鮮魚類の販売を行うFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、平成9年5月31日07時ごろ宇和島市蛤の係留地を発し、途中宇和島港の魚市場で鮮魚類を仕入れ、法花津湾に至って各地で販売を行ったのち、船首0.2メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同日10時45分同湾北岸明浜町俵津の岸壁を発し、西方の陸岸沿いに南下して帰途に就いた。
10時48分少し前A受審人は、伊予水越島灯台(以下「水越島灯台」という。)から025度(真方位、以下同じ。)950メートルの地点に達したとき、針路を197度に定め、機関を半速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力で、操舵位置に立って手動操舵で進行した。
定針したころA受審人は、正船首900メートルのところに、南西方向に向首して所定の形象物を掲げないまま錨泊中の広丸を視認できる状況となり、その後方位に変化がなく衝突のおそれのある態勢で接近していたが、日頃この付近では、日中殆ど他船を見掛けなかったことから、他船はいないものと思い、前路を一瞥したのみで十分な見張りを行うことなく、広丸に気付かずに続航した。

10時49分少し過ぎA受審人は、広丸と300メートルに接近していたが、依然、同船に気付かず、同船を避けずに進行中、天神丸は、10時50分水越島灯台から095度130メートルの地点において、原速力のまま、その船首が広丸の船尾に後方から28度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、広丸は、レジャーに使用されるFRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日10時法花津湾北岸の明浜町大浦の係留地を発し、10時10分ごろ前示衝突地点付近に至って機関を停止し、水深約20メートルの地点に、錨索として直径約10ミリメートル長さ100メートルのクレモナ製ロープを使用して船首右舷から投錨し、錨泊中であることを示す形象物を掲げず釣りを開始した。

10時48分少し前B受審人は、225度に向首し、船尾部で右舷側に向き竿を出し釣りを行っていたとき、右舷船尾28度900メートルのところに、南下して自船に近づく態勢の天神丸を初めて視認し、その後同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していたが、そのころ魚が良く釣れていたことから、釣りに気をとられ、同船の動静監視を十分に行うことなく、このことに気付かずに釣りを続行した。
10時49分少し過ぎ、B受審人は、天神丸が300メートルのところに接近していたが、このことに気付かず、機関を使用し移動するなど衝突を避けるための措置をとらず、同時50分わずか前機関音を聞き、至近に迫った同船を認めたものの、どう対処することもできず、広丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天神丸は、ほとんど損傷はなかったが、広丸は、右舷船尾、船側外板などを破損し、B受審人が、頭部、右肩などに10日間の入院加療を要する打撲傷を負った。


(原因)
本件衝突は、法花津湾において、天神丸が、見張り不十分で、前路で錨泊している広丸を避けなかったことによって発生したが、広丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、帰港のため法花津湾を南下する場合、前路で錨泊している広丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、広丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、広丸の右舷船尾、船側外板などに破損を生じさせ、B受審人の頭部、右肩などに打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、法花津湾において、魚釣りをして錨泊中、南下して自船に近づく態勢の天神丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りに気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、天神丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらずに衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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