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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年3月17日03時30分 長崎県五島列島中通島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船第十八福寶丸 漁船第八千栄丸 総トン数 85トン 4.8トン 全長 42.15メートル 登録長
12.55メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 669キロワット 漁船法馬力数
80 3 事実の経過 第十八福寶丸(以下「福寳丸」という。)は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船2隻からなる大中型まき網船団所属の鋼製灯船で、長崎県野母漁港において、月夜間と称する満月前後の5日ばかりの休日を過ごしたのち、一等航海士兼漁ろう長のA受審人が臨時の船長としてほか3人と乗り組み、船団の乗組員10人を同乗させ、船首2.8メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、平成10年3月17日01時00分法定灯火を点灯して同漁港を発し、A受審人が1人で操船にあたり、昇橋してきた同乗者数人と雑談しながら船団の集合地である同県浜串漁港に向かった。 01時20分A受審人は、三ッ瀬灯台から025度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点で、針路を295度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、舵輪の左側に立って13.3ノットの対地速力で進行し、02時44分ごろほぼ正船首10海里ばかりのところに、レーダーで他船の映像を多数認め、03時15分半同映像に3海里ばかりまで接近したとき、集魚灯を点灯して操業中のまき網船団であることが分かったので、操舵を手動に切り替えて進行した。 03時22分少し過ぎA受審人は、ほぼ正船首方のまき網船団に1.5海里まで接近して黄色回転灯などを認め、同船団の動向に注意しながら続航し、同時28分少し前相ノ島灯台から177度5.8海里の地点に達し、同船団の網船に500メートルばかりまで接近したとき、前路の灯船を中心として前路左舷方から網船が右回りに投網を始めたのを視認したので、避航することにしたが、網船の動向に気をとられていて、周囲の見張りを十分に行うことなく、針路を325度に転じて進行し、そのころ左舷船首30度500メートルばかりのところで北上中の第八千栄丸(以下「千栄丸」という。)の作業灯などを見落としたまま続航した。 03時30分わずか前A受審人は、網船を安全に替わしたので、針路を浜串漁港に向く308度に転じたところ、前路至近に千栄丸の黄色回転灯を初めて視認し、慌てて右舵をとったが、及ばず、03時30分相ノ島灯台から176度5.4海里の地点において、ほぼ同一速力のまま、福寶丸の船首が揚錨中の千栄丸の右舷船尾に後方からほぼ平行に衝突した。 当時、天候は晴で風力2の東北東風が次き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。 また、千栄丸は、網船1隻、運搬船2隻、うらこぎ船1隻及び灯船3隻からなる中型まき網船団所属のFRP製灯船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同月16日15時00分僚船とともに長崎県小串漁港を発し、同時45分ごろ浜串漁港南東方6海里ばかりの漁場に至って操業にかかり、相ノ島灯台から179度5.7海里の水深70メートルばかりの地点において、魚群を探知したので自重約60キログラムの6本爪の錨を左舷船首から投錨し、錨索を80メートルばかり伸出して錨泊を開始し、20時ごろから1,000ワットの集魚灯3個を点灯して集魚を始め、網船が1回目の操業を終えるのを待った。 ところで、千栄丸は、シューピースが無く、投網した網を乗り越えることができなかったので、集魚を終えたのち、網船が投網を開始する前に他の灯船に集魚した魚群を引き渡し、錨を入れたまま、直ちに集魚地点から500メートルばかり離れて錨を巻き揚げ、次の探索を始めるという操業形態をとっていた。 翌17日03時過ぎB受審人は、網船が1回目の操業を終え、集魚を終えた自船を中心として2回目の投網を始めることになったので、他の灯船に魚群を引き渡して、集魚地点を離れることにし、集魚中に僚船間の無線連絡により、東方から自船に向けて接近中の他船がいることを知らされていたが、接近する他船は操業中の自船を避けて行くものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、同時28分少し前集魚灯を消して航海灯、黄色回転灯及び作業灯を点灯し、集魚した魚群を推進器の音で沈下させないよう、機関を極微速力前進にかけ、針路を352度に向けて航行を始め、そのころ右舷船尾57度500メートルばかりのところで右転し、紅、白2灯を掲げて北上中の福寶丸に気付かないまま、錨を引きずりながら50メートルばかり進行し、その後、速力を約8ノットに増速して2分ばかり続航し、相ノ島灯台から179.5度5.4海里の地点に達したとき、機関を中立として操舵室の前方左舷側で船首方を見ながら揚錨作業にかかり、錨を巻くことで船尾を右方に振りながら同作業を続けた。 B受審人は、錨索を巻くことに専念し、周囲の見張りを行っていなかったので、接近する福寶丸に気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための措置をとることもできないでいるうち、03時30分わずか前錨が海底を離れて間もなく、船首がほぼ浜串漁港を向いたとき、背後に接近する他船の気配を感じて振り向いたところ、至近に迫った同船を初めて認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、福寶丸は、左舷外板に擦過傷を生じ、千栄丸は、操舵室側壁を破損するなどの損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県五島列島中通島東方沖合において、福寶丸が、見張り不十分で、漁ろう中の千栄丸を避けなかったことによって発生したが、千栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、長崎県五島列島通島東方沖合において、浜串漁港に向けて航行中、前路に漁ろうに従事中のまき網船団を視認した場合、網船の周辺には運搬船などの他船が待機しているのであるから、これらの船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、網船の動向に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を北上中の千栄丸に気付かずに進行し、いったん行きあしを止めて揚錨中の同船との衝突を招き、自船の左舷外板に擦過傷を、千栄丸の操舵室側壁に破損などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、長崎県五島列島中通島東方沖合の漁場において、集魚した魚群を他の灯船に引き渡したのち、集魚灯を消して集魚地点を離れる場合、集魚中に僚船間の無線連絡により、東方から自船に向けて接近中の他船がいることを知らされていたのであるから、同船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船は操業中の自船を避けるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する福寶丸に気付かず、集魚地点を離れて揚錨中に同船との衝突を招き、前示損傷を生じるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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