日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成11年門審第59号
    件名
掃海艇もろしま貨物船第一長栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、供田仁男、清水正男
    理事官
喜多保

    受審人
C 職名:第一長栄丸船長 海技免状:六級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
もろしま・・・右舷艦橋横外板に破口を伴う凹傷
長栄丸・・・・左舷船首上部に亀裂を伴う凹傷

    原因
もろしま・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
長栄丸・・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、もろしまが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第一長栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第一長栄丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月22日05時10分
周防灘
2 船舶の要目
船種船名 掃海艇もろしま 貨物船第一長栄丸
排水量 440トン
総トン数 196トン
全長 55メートル 46.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 588キロワット
3 もろしま
(1)主要寸法等
もろしまは、昭和62年6月に進水し、同年12月に竣工(しゅんこう)して平成8年3月に海上自衛隊佐世保地方隊沖縄基地隊第46掃海隊に配属された掃海艇で、その主要目は次のとおりである。
全長 55メートル
最大幅 9.4メートル
深さ 4.2メートル
排水量 440トン
喫水 2.5メートル
機関 ディーゼル機関(2基)
出力 1,029キロワット
推進器 可変ピッチプロペラ
最大搭載人員 45人
(2)艦型及び溝造等
もろしまは、長船首楼甲板を有する木造船で、艇首から16メートル後方の同甲板上に戦闘情報中枢室(以下「CIC室」という。)があって、その上部の艦橋甲板に艦橋が設置されてあり、また、同甲板の後端部に高さ14メートルのメインマストが設置されていた。

(3)艦橋及び航海関係機器
艦橋は、長さ約4.5メートル幅約5.0メートル高さ約2.0メートルで、両舷ドアの外側にウイングが設置され、前面上部中央に旋回窓付3個を含む合計7個、両舷ドアから船首側の側面上部にそれぞれ2個のガラス窓があり、左舷側後部に海図テーブルが置かれ、中央から少し左舷側前部に指令いすが備えられていた。
航海関係機器は、中央部に操舵コンソール、その船首側に磁気コンパスと更にその前の窓際に操艦者用ジャイロ・レピータ、右舷側に主機遠隔操縦装置スタンド、左舷側前部にレーダーが、また、両ウイングにジャイロ・レピータが備えてあり、海図テーブル右舷側にあるテーブルの上部囲壁にVHF無線電話設備(以下「VHF」という。)が設置されていた。
4 掃海訓練
(1)掃海訓練の規模及び期間
掃海訓練は、海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が合同で行う平成10年度機雷戦訓練(周防灘)及び掃海特別訓練(MINEX/EODEX99−1JA)と称するもので、掃海母艦ぶんごのほか掃海艇など23隻、航空機17機及びヘリコプター6機並びにアメリカ合衆国海軍掃海艦2隻及び同航空機2機により、平成11年2月15日00時00分から同月27日24時00分の間周防灘で行われることになっていた。

(2)掃海訓練海面
掃海訓練海面は、中津港北防波堤灯台から044度(真方位、以下同じ。)11.7海里にあたる、北緯33度45分10秒東経131度24分52秒の地点(以下「アルファー地点」という。)を基点に、北緯33度41分12秒東経131度25分42秒(ブラボー地点)、北緯33度39分48秒東経131度16分16秒(以下「チャーリー地点」という。)、北緯33度43分46秒東経131度15分26秒(以下「デルタ地点」という。)の各地点により囲まれる区域毎面であった。
(3)掃海訓練の周知
掃海訓練の周知は、第七管区海上保安本部七管区通報第4号(平成11年1月29日)及び海上保安庁水路通報第5号(平成11年2月5日)によって訓練期間及び訓練海面が通報されていた。
(4)掃海訓練海面警戒
掃海訓練海面警戒(以下「海面警戒」という。)は、掃海訓練中、同訓練を行っていない掃海艇が、警戒担当区域を分担して同訓練海面外側周辺を移動したり停留したりしながら監視に当たり、外から掃海訓練海面に進入するおそれのある船舶が存在するとき、これに接近しながら、活用できる可能な限りの方策(VHF、発光、信号拳銃、ラウドスピーカー、メガホン、船舶電話等)を全幅活用して警告を与え、同訓練海面への進入回避に努めるものであった。

もろしまは、2月20日から22日にかけてチャーリー地点とデルタ地点とを結ぶ線以西の水域(以下「C区」という。)及びアルファー地点とデルタ地点とを結ぶ線以北の水域(以下「D区」という。)の海面警戒を担当していた。
(5)もろしまにおける海面警戒中の艦橋当直士官
海面警戒中の艦橋当直士官は、船務長兼補給長Dが00時00分から02時00分まで、掃海長Eが02時00分から04時00分まで及びB指定海難関係人が04時00分から06時00分までの3直輪番制で、それぞれ任務に就いていた。
(6)もろしま型掃海艇機関部士官に艦橋当直を行わせるに当たっての教育
海上自衛隊は、海上自衛隊幹部候補生学校において運航に係る教育を行い、外洋練習航海を約1箇月間行って実務上の知識技能を修得した機関部士官をもろしま型掃海艇に乗艦させて艦橋当直を行わせ、その後も当直士官講習を年2回行い、また、集中的基礎訓練を年2回行って海事法規に関する知識を再確認させ、その他艦長等の各指揮官が艦艇その他の場所において教育を実施していた。

(7)もろしまの海面警戒任務に就くまでの行動
もろしまは、A指定海難関係人及びB指定海難関係人のほか38人が乗り組み、第46掃海隊隊司令及び隊勤務4人を乗せ、掃海訓練を行う目的で、2月11日07時45分沖縄県金武中城港を発し、集結地の広島県呉港に向かい、翌々13日10時36分同港に入港したのち、14日15時15分呉港を発航して、掃海訓練海面に向かい、15日06時17分同海面において、掃海訓練を実施し、19日07時04分掃海訓練海面を発進して補給を行う目的で山口県徳山下松港に向かい、11時13分同港に入港した。
5 第一長栄丸
(1)主要寸法等
第一長栄丸(以下「長栄丸」という。)は、昭和58年9月に進水し、同月に竣工して平成10年6月に株式会社R所有となり、航行区域を限定沿海区域とする砂利石材運搬船で、その主要目は次のとおりである。
全長 46.70メートル

幅 9.30メートル
深さ 4.70メートル
総トン数 196トン
喫水 3.30メートル
機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット
推進器 固定ピッチプロペラ
最大搭載人員 5人
(2)船型及び構造等
長栄丸は、船尾船橋型全通船楼2層甲板船で、上甲板船首部に長さ17メートルのジブクレーンを備えた運転室が置かれ、船首から34メートル後方に船橋が設置されていた。
(3)操舵室及び航海関係機器
操舵室は、船尾部の3層甲板の最上部にあり、長さ3.5メートル幅4.9メートル高さ2.0メートルで、両舷ドアの外側にウイングが設置され、左舷側後部に海図テーブルが置かれてあり、操舵輪後方に見張り用いすが備えられていた。
航海関係機器は、中央部に各機器を集合したコンソールが備えられてあり、右舷側から順に主機遠隔操縦装置、汽笛用ボタン、ジャイロコンパス、操舵輪及びレーダーを装備し、海図テーブルの右舷側端に配電盤が設置され、船橋上部に備えた500ワットの探照灯用のスイッチが組み込まれてあり、また、VHFが備えてあった。

6 衝突に至る経過
もろしまは、A及びB両指定海難関係人ほか前示乗組員及び掃海隊々員を乗せ、掃海訓練及び海面警戒任務に就く目的で、艇首2.8メートル艇尾3.2メートルの喫水をもって、2月20日12時27分徳山下松港を発し、周防灘のC区に向かった。
A指定海難関係人は、15時45分C区に至って海面警戒を行い、23時05分D区に移動して引き続き同警戒に当たり、翌21日11時30分同区を離れて掃海訓練に参加したのち、15時54分再びC区に戻って海面警戒に当たり、22日03時45分中津港北防波堤灯台から003度5.8海里の地点において停留したのち、掃海訓練海面に接近する船舶がないことから、しばらく休息することとし、艦僑当直中のE掃海長に一時操船を委ねて降橋し、自室で休息した。
B指定海難関係人は、04時00分E掃海長から艦橋当直を引き継ぎ、停留中風潮流の影響を受けることから、C区内で小きざみに移動と停留を繰り返しながら当直に当たっていたところ、同時57分中津港北防波堤灯台から353.5度7.5海里の地点において、自船の船首が307度を向いて停留中、指揮艦ぶんごから警戒目標船が接近中であり、警戒するよう命を受け、前方を見たところ、左舷船首2度2.6海里のところに、接近する長栄丸の白、白、紅3灯を初めて視認し、A指定海難関係人に報告するとともに、同船の監視に当たった。

A指定海難関係人は、04時58分昇橋し、船首方に長栄丸を認めたことから、発進して同船に接近する旨をB指定海難関係人に指示し、法定灯火を表示し、メインマスト頂部に航空障害灯と称する紅色全周灯1個を掲げ、同人を操艦者用ジャイロ・レピータの右横に、艦橋当直中の操舵員Fを操舵に、同レーダー員Gをレーダーに、同リモート員Hを主機遠隔操縦装置スタンドに配置し、同航海員Iを右舷前部に、同見張員Jを右舷側に、同見張員Kを左舷側に配して見張りに当て、自らは指令いすに腰を下ろして指揮に当たった。
B指定海難関係人は、04時59分長栄丸の白、白、紅3灯を左舷船首5度2.3海里のところに視認する状況となったとき、もろしまにおいては、艦橋当直士官がそのつど艇長の承認を得て針路及び速力を定めて直接艦橋当直員に命じる操船法をとっていたところから、A指定海難関係人の承認を得て、針路を307度に定め、機関を微速力前進にかけ、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)として進行した。

一方、CIC室において、当直中の電測員Lは、定針したのち、レーダーによって長栄丸の映像を探知して航跡をトレーシングペーパーに記入し、同船との距離を適宜マイクで艦橋に報告していた。
A指定海難関係人は、05時04分B指定海難関係人に速力を12.0ノットの第一戦速に増速するよう指示し、長栄丸に接近する状況にあったが、同船とVHFで交信することを思い立ち、長栄丸の動静を直接把握して操船の指揮をとらないまま指令いすから立ち上がり、艦橋後部に赴き、VHF16チャンネルで呼びかけたところ、ダイニシンセイマルと称する船舶から応答が有り、同船を長栄丸と思い込んで交信を続けた。
B指定海難関係人は、05時04分半少し前長栄丸の白、白、紅3灯を左舷船首35度1.0海里のところに視認する状況となったとき、反転して同船に接近することとし、A指定海難関係人の承認を得て、左舵一杯としたのち、同時05分中津港北防波堤灯台から350度7.9海里の地点で、針路を200度としたとき、長栄丸の白、白、紅3灯を右舷船首66度1,550メートルに視認する状況となり、同船の前路を右方に横切る態勢となったが、衝突のおそれの有無をコンパスの方位変化で確かめるなど、その動静監視を十分に行わないまま進行した。

B指定海難関係人は、その後、長栄丸の方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然動静監視不十分で、これに気付かず、長栄丸の進路を避けないまま続航し、05時07分同船が右舷船首69度900メートルとなったとき、近距離に接近するので、速力を全速力の10.0ノットに減じ、次いで同時08分速力を半速力の8.0ノットに減じて進行した。
このころ、A指定海難関係人は、VHFでの交信を終えて指令いすの右横に立ったところ、右舷船首71.5度580メートルに迫った長栄丸から探照灯の照射を受けたものの、衝突のおそれがあることに気付かないまま、VHFで交信をしたと思った相手からの探照灯の照射に不審を感じながら続航するうち、05時09分CIC室から同船が約270メートルに接近中であり、同一針路で航行すれは掃海訓練海面に進入しない旨の報告を受けたことから、発進地点付近に引き返すこととし、同時09分半少し前長栄丸が右舷船首74度200メートルに迫ったとき、左舵一杯を令したところ、右舷側の見張員が近いと叫んだので、ようやく衝突の危険を感じ、第一戦速の12.0ノットに増速して右舵一杯を令したけれども、05時10分中津港北防波堤灯台から346.5度7.1海里の地点において、もろしまは、原針路のまま10.1ノットの速力となったとき、その右舷艦橋横外板に、長栄丸の左舷船首が後方から38度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、視界は良好であった。
また、長栄丸は、C受審人ほか2人が乗り組み、砕石552トンを載せ、船首2.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同日03時30分関門港田野浦区太刀浦ふ頭を発し、大分県中津港に向かった。
C受審人は、03時50分部埼灯台から126度1.1海里の地点で、釧路を150度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.6ノットの速力で、法定灯火を表示したうえ、見張り用いすに腰を下ろして見張りに当たり、VHFのスピーカーの音量を下げたまま進行し、04時30分少し過ぎ苅田港北防波堤灯台から070度5.8海里の地点に達したとき、中津港沖合に拡延する中津平州を避けることとし、一旦針路を130度に転じたのち、同時42分わずか過ぎ同灯台から086度7.2海里の地点で、147度の針路として続航した。

C受審人は、05時04分中津港北防波堤灯台から344度8.2海里の地点に達したとき、もろしまの白、白、紅3灯を左舷船首51度1,950メートルのところに初めて視認し、やがて同船が左転して両舷灯を見せ、同時05分もろしまの白、白、緑3灯を左舷船首61度1,550メートルに視認する状況となり、同船が前路を右方に横切る態勢で接近したものの、急に反転して接近したもろしまが自船を避けるものと思いつつ、その動静を見守りながら進行した。
C受審人は、その後、もろしまの方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれがある態勢で接近し、同時08分左舷船首55.5度580メートルに迫ったが、警告信号を行わずに、念のため探照灯で数回点滅を繰り返したのち同灯を点灯し続けて続航し、同時09分280メートルに接近したものの、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行し、同時10分少し前同船が間近に迫ったとき、ようやく衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて右舵一杯を取り、機関を後進にかけたけれども、時既に遅く、長栄丸は、162度を向いて8.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。

衝突の結果、もろしまは右舷艦橋横外板に破口を伴う凹傷を生じ、長栄丸は左舷船首上部に亀裂を伴う凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。
7 事後の措置
(1)発生直後の措置
A指定海難関係人は、もろしまを衝突地点付近の水域に錨泊させ、救命艇を派遣して長栄丸の損傷調査に当たったのち、門司海上保安部の指示によって山口県宇部港に入港させた。
C受審人は、長栄丸を衝突地点付近の水域に錨泊させ、損傷調査に当たったのち、門司海上保安部の指示によって中津港に入港させた。
(2)その後の措置
A指定海難関係人は、その後海上自衛隊から指導を受け、事故防止対策実施状況報告を行い、艦艇の安全運航に関する指針と称する艦橋命令を発して事故再発防止に努めた。
B指定海難関係人は、その後海上自衛隊から指導を受け、佐世保地方隊の陸上勤務となり、平成11年10月20日退職した。


(原因)
本件衝突は、夜間、周防灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、もろしまが、動静監視不十分で、前路を左方に横切る長栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
もろしまの運航が適切でなかったのは、艇長が自ら直接長栄丸の動静を把握して操船の指揮をとらなかったことと、艦橋当直士官が動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
C受審人が、夜間、周防灘を南下中、もろしまが、前路を右方に横切る態勢で、方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた際、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のC受審人の所為は、もろしまが海面警戒という特殊な任務に就き、掃海訓練海面への船舶の進入防除の目的から、至近距離に接近して警告を与えるため、しいて長栄丸の前路に向かって進行し、動静監視不十分のまま同船に著しく接近した理由に徴し、職務上の過失とするまでもない。
A指定海難関係人が、掃海訓練海面への接近を警告するため長栄丸に接近する際、自ら直接長栄丸の動静を把握して操船の指揮をとらなかったことは、本件発生の原因となる。

A指定海難関係人に対しては、事後海上自衛隊から指導を受け、事故再発防止に努めていることに徴し、勧告しない。
B指定海難関係人が、海面警戒の目的で長栄丸に接近する際、動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、事後海上自衛隊から指導を受け、陸上勤務となり、その後退職したことに徴し、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図1


参考図2






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION