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1999年(平成11年)

平成11年門審第54号
    件名
漁船第八喜栄丸漁船七福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、清水正男、西山烝一
    理事官
今泉豊光

    受審人
A 職名:第八喜栄丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:七福丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
喜栄丸・・・右舷中央部外板に破口、機関室に浸水して右舷側に転覆
七福丸・・・左舷船首に破口

    原因
七福丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
喜栄丸・・・注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、七福丸が、見張り不十分で、停留中の第八喜栄丸を避けなかったことによって発生したが、第八喜栄丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月25日02時50分
大分県鶴御埼南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八喜栄丸 漁船七福丸
総トン数 4.9トン 4.8トン
全長 15.70メートル
登録長 11.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 15
3 事実の経過
第八喜栄丸(以下「喜栄丸」という。)は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年8月24日17時45分大分県有明漁港を発し、鶴御埼南南東方4海里付近の漁場に向かい、19時30分ごろ漁場に至って投網したのち、航行中の動力船が表示する灯火を表示し、船橋上のマスト頂部に緑色全周灯と船尾に作業灯7個を点灯させ、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しないまま北方に向かって曳網を開始した。

ところで、曳網は、長さ18メートルの網口開口用張り竿が付いた、長さ48メートル幅18メートルの底びき網を長さ100メートルのまた綱と長さ450メートルの曳綱で、低速力で7時間ほど曳くものであった。
A受審人は、23時06分鶴御埼灯台から071度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点で、反転して南方に向けて曳網することとし、針路を205度に定め、主機の回転数を毎分2,200にかけ、折からの南方に流れる潮流に乗じ、1.7ノットの対地速力で、自動操舵を使用し、曳網しながら進行した。
A受審人は、翌25日02時10分鶴御埼灯台から154度3.8海里の地点に達したとき、水深93メートルばかりのところで網が海底に根掛かりしたことを知り、網を自力で外すことが出来ないことから、機関を中立運転として停留し、前示灯火を掲げたまま、後部マスト頂部に赤色回転灯を点灯させたのち、僚船に来援してもらうこととし、まもなく無線電話により付近海域で操業中の僚船を呼出し、その旨を告げて操舵室で待機した。

A受審人は、風潮流の影響を受けて船首を039度に向けて停留中、02時38分右舷船尾60度1.0海里のところに七福丸の白、紅、緑3灯を認め得る状況にあったものの、これに気付かず、同時47分少し前同方位500メートルに同船の同灯火を初めて視認し、その後七福丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知ったが、無線電話により応援を頼んだ僚船と思い、注意喚起信号を行うことなく、同船を見守っていたところ、同時50分わずか前七福丸が速力を減じないまま間近に迫ってくるので驚き、身の危険を感じて操舵室から出たが、02時50分前示停留地点において、喜栄丸は、船首を039度に向けて、その右舷中央部に、七福丸の左舷船首が後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期に当たり、衝突地点付近には南方に流れる1.0ノットの潮流があった。

また、七福丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月24日17時00分大分県大入島漁港を発し、鶴御埼南南東方6海里付近の漁場に至って操業し、20キログラムの漁獲を得て、翌25日02時25分鶴御埼灯台から156度5.9海里の地点を発進して帰途に就いた。
B受審人は、単独で船橋当直を行うこととし、法定灯火を表示したのち、発進直後、針路を339度に定め、機関を6.0ノットの全速力前進にかけ、潮流に抗して5.0ノットの対地速力で自動操舵を使用して進行した。
B受審人は、定針後間もなく、操舵室を出て船尾に赴き、作業灯を点灯したのち、船尾方を向いて甲板に座り、漁獲した魚を選別してとろ箱に詰める作業を行いながら続航したところ、02時38分鶴御埼灯台から155度4.8海里の地点に達したとき、正船首方1.0海里のところに喜栄丸の船尾灯のほか緑色全周灯、赤色回転灯及び作業灯を視認することができ、同船に動きがないことから停留していることが分かる状況にあったが、同作業を開始する前に周囲を一瞥し、他船が見当たらなかったことから、前方には航行の妨げとなる他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、その存在に気付かないまま進行した。

B受審人は、その後停留中の喜栄丸に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かず、同船を避けることなく、続航し、02時50分わずか前初めて同船の作業灯などを前方至近に認めたけれども、どうするいとまもなく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、喜栄丸は右舷中央部外板に破口を生じ、来援した僚船により曳航中、機関室に浸水して右舷側に転覆したが、僚船により大分県梶寄漁港に曳航され、七福丸は左舷船首に破口を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、鶴御埼南東方沖合において、漁場から帰航中の七福丸が、見張り不十分で、停留中の喜栄丸を避けなかったことによって発生したが、喜栄丸が、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、鶴御埼南東方沖合を漁場から大入島漁港に向かって航行する場合、停留中の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方には航行の妨げとなる他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、喜栄丸の存在に気付かず、停留中の同船を避けないまま進行して衝突を招き、喜栄丸の右舷中央部外板に破口を生じ、機関室に浸水させ、自船の左舷船首に破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、単独で乗り組んで操船に当たり、鶴御埼南東方沖合の漁場において、底びき網漁業に従事し、網が海底に根掛かりして停留中、七福丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った場合、注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が無線電話により応援を頼んだ僚船と思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、同信号を行わないまま停留を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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