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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月2日02時50分 福島県鵜ノ尾埼東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第十八明陽丸 貨物船カリフォルニア ルナ 総トン数 376トン 41,110.00トン 全長 67.307メートル
242.68メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット
21,881キロワット 3 事実の経過 第十八明陽丸(以下「明陽丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首2.1メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成9年6月1日23時50分宮城県石巻港を発し、京浜港川崎区に向かった。 A受審人は、発航とともに単独で操船に当たり、翌2日00時30分石巻港雲雀野(ひばりの)防波堤灯台から185度(真方位、以下同じ。)5.1海里の地点で、B受審人に船橋当直を引き継ぐことにしたが、出航時から霧模様であり、沿岸の海域に濃霧注意報が発表されていることを知っていたものの、視界が悪くなれば知らせてくれるものと思い、視界が悪化したときの報告について具体的に指示することなく、降橋して自室で休息した。 B受審人は、単独で操船と見張りに当たって仙台湾を南下し、02時02分鵜ノ尾埼灯台から042度14.5海里の地点において、針路を186度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.3ノットの対地速力で進行した。 B受審人は、定針したころ、霧により視界が急速に悪化して視程が150メートルになったことを認めたが、就寝したばかりのA受審人を起こすことがためらわれ、視界制限犬態になったことを同人に報告せず、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく続航した。 B受審人は、6海里レンジとしたレーダーで見張りに当たっていたところ、前方に10隻ばかりの漁船群を認め、左右に替わしたのち原針路に復して進行し、02時41分右舷船首13度4.1海里のところにカリフォルニア ルナ(以下「カ号」という。)のレーダー映像を初めて認めたが、同船の方位が右方に変わっていたことから、右舷を対して無難に航過するものと思い、その後レーダーによる動静監視を十分に行うことなく、同時42分鵜ノ尾埼灯台から073度9.2海里の地点に達したとき、更に前方に散在する漁船群を替わすため、針路を165度に転じて進行した。 02時44分B受審人は、カ号が右舷船首39度2.4海里に接近し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる動静監視が不十分でこの状況に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま続航中、同時49分半わずか過ぎ右舷正横後10度ばかりに同船の紅灯を間近に視認し、衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて左舵一杯としたが効なく、02時50分鵜ノ尾埼灯台から083度9.3海里の地点において、明陽丸は、船首が155度に向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部がカ号の左舷側後部に後方から30度の角度で衝突した。 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約150メートルであった。 A受審人は、自室で就寝中、衝突の衝撃に気付き、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。 また、カ号は、日本各港と上海及び北米西岸の定期航路に就航するコンテナ専用船で、C指定海難関係人と日本人機関長ほかフィリピン人20人が乗り組み、コンテナ貨物約17,452トンを積載し、船首8.44メートル船尾9.61メートルの喫水をもって、同月1日11時55分静岡県清水港を発し、宮城県塩釜港仙台区に向かった。 C指定海難関係人は、航海当直を一等航海士、二等航海士及び三等航海士にそれぞれ甲板手1人をつけた4時間3直制とし、犬吠埼沖合を航過して翌2日02時00分鵜ノ尾埼灯台から151度17.9海里の地点で、入港用意の時刻が近づいたので昇橋し、355度の針路及び機関を全速力前進とした21.7ノットの対地速力で、自動操舵により航行していることを認め、船位が予定針路線より左偏していたもののそのまま進行した。 C指定海難関係人は、02時30分ごろ霧により視界が急速に悪化して視程が150メートルに狭められたことから、二等航海士をレーダー見張りに、甲板手を手動操舵にそれぞれ就け、自ら操船の指揮を執り、霧中信号を開始したものの、安全な速力としないまま続航した。 C指定海難関係人は、02時35分鵜ノ尾埼灯台から112度8.0海里の地点に達したとき、前方に散在している漁船群を替わすため3回にわたってわずかずつ右転し、同時42分半同灯台から093度7.7海里の地点で、船首が023度に向いていたとき、左舷船首2度3.2海里に明陽丸のレーダー映像を初めて認めたが、引き続きレーダーによる動静監視を十分に行わないまま、二等航海士にレーダー監視を任せて進行した。 C指定海難関係人は、02時44分鵜ノ尾埼灯台から089度7.9海里の地点に達したとき、明陽丸がほぼ正船首2.4海里に接近したことから、左舷を対して替わすつもりで、右舵15度を令して間もなく舵中央とし、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる動静監視が不十分でこの状況に気付かないまま、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、腰に応じて行きあしを止めることもしないで、二等航海士にVHF無線電話で明陽丸の呼び出しに当たらせ、小角度の右舵を令して緩やかに右転しながら続航した。 C指定海難関係人は、続いて自らも呼び出しを行い、自船が右転中であることを告げたものの、応答が得られないでいるうち02時47分同船の映像が0.9海里となり、同映像が急速に接近するのを認めて衝突の危険を感じ、同時49分半右舵一杯を令して右回頭中、同時50分少し前左舷正横間近に明陽丸のマスト灯を視認し、船首が125度に向いたとき、16.0ノットの速力で前示のとおり衝突した。 衝突の結果、明陽丸は、右舷側船首部ブルワークに凹損並びに同中央部の外板及びハンドレールに一部亀裂を伴う凹損を生じ、カ号は、左舷側後部外板に凹損及び左舷船尾外板に小破口を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、明陽丸及びカ号の両船が、霧による視界制限状態の鵜ノ尾埼東方沖合を航行中、南下する明陽丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知したカ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上するカ号が、安全な速力とせず、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知した明陽丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。 明陽丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、船橋当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、霧模様の仙台湾において、部下に船橋当直を任せる場合、沿岸に濃霧注意報が発表されていたのであるから、視界制限状態となった際の報告について具体的に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、視界が悪くなれば知らせてくれるものと思い、視界制限状態となった際の報告について具体的に指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態となった際、自ら操船の指揮を執ることができずに進行してカ号との衝突を招き、明陽丸の右舷側船首部ブルワークに凹損並びに同中央部の外板及びハンドレールに一部亀裂を伴う凹損を生じさせ、カ号の左舷側後部外板に凹損及び左舷船尾外板に小破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、霧による視界制限状態の鵜ノ尾埼東が沖合を南下中、レーダーにより右舷前方に反航するカ号の映像を認めた場合、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷を対して無難に航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、カ号と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C指定海難関係人が、夜間、霧による視界制限状態の鵜ノ尾埼東方沖合を操船の指揮を執って北上中、レーダーにより左舷前方に反航する明陽丸の映像を認めた際、レーダーによる動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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