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1999年(平成11年)

平成11年門審第11号
    件名
漁船健康丸漁船秀丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海灘審判庁

宮田義憲、阿部能正、平井透
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:健康丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:秀丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
健康丸・・・左舷船首外板亀裂
秀丸・・・マスト倒壊、操舵室及び船尾部損壊、舵曲損、船長が、約1箇月の入院加療を要する腰部、左肩、頸椎、左肘及び骨盤打撲

    原因
健康丸・・・針路保持不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
秀丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、健康丸が、針路の保持が不十分で、漂泊中の秀丸を避けなかったことによって発生したが、秀丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月4日06時30分
鹿児島県串木野漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船健康丸 漁船秀丸
総トン数 7.3トン 2.0トン
登録長 13.07メートル 7.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 45
3 事実の経過
健康丸は、一本釣り及び刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び同人の父親が乗り組み、かじき旗魚流し網漁の目的で、船首0.50メートル船尾0.90メートルの喫水をもって、平成10年9月3日17時30分鹿児島県手打漁港を発し、同漁港南方沖合6.0海里ばかりの漁場に向かい、同時40分ごろ到着して同漁場付近において操業を行い、かじきまぐろ210キログラムを獲て操業を打ち切り、翌4日05時30分釣掛割埼灯台から172度(真方位、以下同じ。)5.6海里の地点を発進し、水揚げのため串木野漁港へ向かった。

ところで、A受審人は、健康丸の高速航走中の船首浮上による船橋からの見通し状況を良好にするため、同船購入時に仕様変更を行い、船橋天井の周縁に高さ約50センチメートルのFRP製側板及び風防ガラスを取り付け、同所にコンパス、舵輪等を増設し、通常航海においては、船橋の天窓から天井に出て、天井板に腰掛け、天窓部分から操舵室に足を下ろし、同所から操舵室のレーダーを見ながら操舵、操船にあたっていた。
A受審人は、発航とともに、針路を069度に定めて機関を5.2ノット(対地速力、以下同じ。)の微速力前進にかけ、同人の父親に操船を任せ、自らは漁獲物の整理、網の手入れ等の作業を行い、同時45分釣掛埼灯台から158度5.5海里ばかりの地点で、同作業を終了して父親と操船を交代し、いつものように操舵室の天井板に腰掛け、手動操舵とし、同針路のまま、機関を20.0ノットの全速力前進として続航した。

A受審人は、06時24分釣掛埼灯台から092度14.2海里の地点に達したとき、レーダーで正船首わずか左方2.0海里のところに秀丸の映像を探知し、間もなく同船を初めて視認した。
A受審人は、06時27分秀丸に1.0海里に接近して同船が漂泊していることを知ったとき、操舵室に設置された無線電話の呼び出し音が鳴ったところから、右転して針路を072度として舵を中央に戻し、秀丸を左舷側近距離に替わす針路に転じたが、短時間なら舵輪から離れてもこのまま直進するはずだから大丈夫と思い、同船を安全に替わすまで針路の保持に努めることなく、手動操舵としたまま、舵輪を放置して操舵室に降り、無線電話で後続する僚船と入港時刻や漁獲量についての通話を始めた。
A受審人は、折からの風潮流の影響で自船の船首が徐々に左転し、秀丸に向かって接近するようになり、06時28分半069度に向首して同船が800メートルとなったものの、依然として通話を続け、このことに気付かず、同船を避ける措置がとられないまま続航し、同時30分少し前ふと前方を見たとき、ほぼ正船首に秀丸のマストの頂部を認め、驚いて機関を全速力後進としたが及ばず、06時30分釣掛埼灯台から090度16.0海里の地点において、健康丸は、069度に向首し、15.0ノットの速力で、その船首が秀丸の船尾右舷に後方から15度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、秀丸は、串木野漁港及び甑島列島間の水域において、一本釣り及びはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たい一本釣りの目的で、船首0.25メートル船尾0.98メートルの喫水をもって、同月4日04時50分串木野漁港を発し、前示衝突地点付近の漁場に向かった。
B受審人は、06時00分漁場に到着し、衝突地点において、スパンカを展張し、船首を風に立てて054度に向首し、機関のクラッチを適宜嵌脱(かんだつ)して位置を保持しながら操業したものの、釣果が得られず、休憩をかねて朝食をとることとし、同時28分半弁当を持って操舵室から船尾に向かったとき、左舷船尾15度800メートルのところに自船に向かって接近する健康丸を初めて視認した。

B受審人は、健康丸の動静を見守るうち、同船が自船に向首したまま、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、自船は漂泊しているからいずれ健康丸が避けてくれるものと思い、機関を始動するなと衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊したまま更に同船を見ているうち、06時30分少し前避航の気配がないまま60メートルばかりに接近したのを認め、あわてて機関を全速力前進とし、右舵一杯としたが効なく、054度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、健康丸は左舷船首外板に亀裂を生じ、秀丸はマストを倒壊して操舵室及び船尾部を損壊し、舵を曲損したが、のちいずれも修理され、B受審人は、衝突の衝撃で転倒して約1箇月の入院加療を要する腰部左肩、頸椎、左肘及び骨盤打撲を負った。


(原因)
本件衝突は、健康丸が、漁場から串木野漁港向け東行中、針路の保持が不十分で、漂泊中の秀丸を避けなかったことによって発生したが、秀丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、串木野漁港向け東行中、前路で漂泊中の秀丸を近距離に替わす針路に転じた場合、同船を安全に替わすまで針路を保持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間なら舵輪から離れてもこのまま直進するはずだから大丈夫と思い、手動操舵としたまま、舵輪を放置して針路を保持しなかった職務上の過失により、秀丸との衝突を招き、健康丸の左舷船首外板に亀裂を生じさせ、秀丸のマストを倒壊し、操舵室及び船尾部を損壊して舵を曲損させ、B受審人に約1箇月の入院加療を要する腰部、左肩、頸椎、左肘及び骨盤打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、串木野漁港西方沖合の漁場で漂泊中、健康丸が自船に向首したまま、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は漂泊しているからいずれ健康丸が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、漂泊を続け、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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