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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月18日22時28分 水島港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船かずりゅう 貨物船第七有徳丸 総トン数 498トン 199トン 全長 76.22メートル 58.46メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット
625キロワット 3 事実の経過 かずりゅうは、主に水島港と名古屋または千葉港間の鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成9年8月18日21時50分水島港玉島地区を発し、法定灯火を掲げて同港水島地区内奥の東鉄岸壁に向かった。 ところで、A受審人は、水島港玉島地区で初めてかずりゅうに乗船したもので、水島港には操舵手として何度も入港していたものの、自らの操船による入港経験がなかったことから、経験豊富なB受審人に任せておけばよいものと思い、自ら港内操船にあたることなく、出港当初からB受審人に操舵操船を行わせ、自らは同人の傍らで見張りに当たった。 B受審人は、出港操船ののち高梁川河口から川崎製鉄株式会仕水島製鉄所の南岸を操舵操船に当たって東進し、22時23分半水島信号所(以下「信号所」という。)から237度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、針路を港内航路に対しほぼ直角となる070度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵として進行し、まもなくA受審人は、入港配置に就くため下橋した。 B受審人は、左舷前方の港内航路西側に数隻の錨泊船を認めて続航したところ、22時26分少し前信号所から231度1,700メートルの地点に至ったとき、左舷船首63度1,100メートルに錨泊船の陰から現れた同航路を南下する第七有徳丸(以下「有徳丸」という。)の白白緑3灯を初認し、同時26分信号所から230度1,640メートルの地点に達したとき、同船のやや間隔の開いたせん光2回の発光信号を認め、汽笛は聞かなかったものの、これが同船の操船信号であり、まもなく大きく左転するものと予測し、自船も左転すれば有徳丸と右舷を対して航過しながら航路に入航できるものと操船信号を行わないまま小舵角の左転を開始した。 22時26分半B受審人は、自らの予測に反し、有徳丸が針路を変えずに南下するのを認め、同船と衝突のおそれのある状況となったことを知ったが、そのうち相手船が左転して自船を替わすものと思い、減速するなどして航路航行中の同船の進路を避けることなく、ゆるやかな左転を続けたところ、同時28分少し前有徳丸が正船首200メートルとなってようやく衝突の危険を感じ、左舷方の錨泊船への接近が気になったことから、とっさに右舵一杯としたが及ばず、22時28分かずりゅうは、信号所から239度1,100メートルの地点において、ほぼ原速力のまま058度を向首したその左舷中央部に、有徳丸の船首が、前方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 また、有徳丸は、専ら水島港と阪神地区各港間の鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、C受審人ほか2人が乗り組み、鋼材680トンを積載し、船首2.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同日22時05分水島港水島地区東鉄岸壁を発し、法定灯火を掲げて大阪港に向かった。 C受審人は、出港操船に引き続き船橋当直に当たり、微速力で港内航路を南下し、22時17分信号所から320度1.5海里の地点に達したとき、針路を航路に沿う163度に定め、機関を半速力前進にかけて8.5ノットの対地速力で手動操舵とし、航路中央より右側を進行した。 C受審人は、水島港港内航路第7号灯浮標(以下航路標識名については「水島港」を省略する。)南側の港内航路西側に数隻の錨泊船を認めながら南下中、22時26分信号所から266度1,130メートルの地点に達したとき、右舷船首25度1,000メートルに錨泊船の陰から現れた航路に入ろうとするかずりゅうの白白紅3灯を認め、同船が航路を北上するか南下するか不明であったため、注意喚起のためやや間隔の開いたせん光2回の発光信号を行い、かずりゅうの動静を監視するうち、徐々に同船のマスト灯の間隔が狭まるのを認め、同船が左転して航路を北上することがわかり、そのころ少し航路の右に寄りすぎていると感じたことから、同時26分半信号所から258度1,100メートルの地点で針路を158度に転じて続航した。 転針したころC受審人は、かずりゅうの左転を認めていたものの、確実に自船の進路を避けているのか明確ではなく、衝突のおそれのある状況であることを知ったが、そのうちに避けるものと思い、警告信号を行うことも、更に接近して衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。 22時28分少し前C受審人は、右舷船首24度200メートルに接近したかずりゅうの両舷灯が右舷灯に変わったのを認めて衝突の危険を感じ、同時28分わずか前機関を全速力後進、右舵一杯としたが及ばず、有徳丸は、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、かずりゅうは左舷中央部外板に破口を生じ、有徳丸は船首部が圧壊し、フォアピークタンクに浸水したが、のち両船とも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、水島港において、航路外から航路に入ろうとしたかずりゅうが、航路を航行中の有徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、有徳丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 かずりゅうの運航が適切でなかったのは、船長が自ら港内操船を行わなかったことと、当直者が航路航行船の進路を避けなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、水島港内を航行する場合、自ら港内操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、経験豊富な乗組員に任せておけばよいものと思い、自ら港内操船を行わなかった職務上の過失により、有徳丸との衝突を招き、自船の左舷中央部に破口を生じさせ、有徳丸の船首部に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、水島港において、航路外から航路に入ろうとした際、航路を南下する有徳丸の灯火を認め、同船と衝突のおそれのある状況となったことを知った場合、航路航行中の同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、相手船の発したやや間隔の開いたせん光2回の発光信号を操船信号と判断し、いずれ相手船が左転して自船を替わすものと思い、同船の進路を避けなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、夜間、水島港において、航路を南下中、航路に入るかずりゅうと衝突のおそれのある態勢で間近に接近した場合、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれかずりゅうが避けるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、両船に前不の損傷を生じさせるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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