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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月4日21時10分 広島県江田島沖 2 船舶の要目 船種船名
旅客船第五はつひ 土運船2203 総トン数 363トン 約1,988トン 全長 49.8メートル 80.0メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力
1,029キロワット 3 事実の経過 第五はつひ(以下「はつひ」という。)は、1日の始発・終着を広島県小用港とする同県宇品港と同県切串港間の定期運航に従事する両頭型の旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客5人を乗せ、船首尾とも2.8メートルの等喫水をもって、平成9年11月4日20時56分切串桟僑を発し、終着地小用港に向かった。 21時05分A受審人は、小用港中松田1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から023度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達したとき、針路を193度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ12.3ノットの対地速力で進行した。 ところで、小用港北東方にはしばしば無人で錨泊する土運船があり、北方海域から同港へ向け南下接近する場合、同船の灯火が同港南方の陸上の照明灯に紛れて識別しにくい状況となり、月明かりのない暗夜には、同船を見落とさないようレーダーを利用するなど前方の見張りを十分に行う必要のある海域であった。 A受審人は、このことをよく知っていたものの、始発時にこの付近に錨泊船を認めなかったことから見張りがおろそかになり、21時08分防波堤灯台から035度970メートルの地点に達したとき、正船首方760メートルのところに錨泊中の土運船2203(以下「2203号」という。)の白灯を視認できる状況となり、同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、前路を一瞥して支障となる他船はいないものと思い、レーダーを利用するなど前方の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かず、錨泊中の2203号を避けないで続航した。 21時09分A受審人は、ほぼ正船首380メートルとなった2203号の灯火に気付かないまま、右舷方の造船所の明かりと並んだことから、旅客への下船案内テープを作動させ小用港入港に備えようとしていたところ、同時10分少し前、突然、前方に視認した灯火に驚き、全速力後進、左舵一杯を取ったものの効なく、はつひは、21時10分防波堤灯台から079度380メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首部が錨泊中の2203号の右舷側後部に後方から65度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、月没時は20時19分で視界は良好であった。 また、2203号は、全長80.0メートル幅16.6メートル深さ5.3メートルの船首部に甲板構造設備を有する非自航型台船で、空船のまま曳航され、船首尾とも1.7メートルの等喫水をもって、同4日11時ごろ防波堤灯台から079度380メートル水深18メートルの地点において、船首錨を投じ錨鎖4節を伸出して錨泊した。 2203号は、船首及び船尾中央付近の甲板上5.3メートルの高さのところに、夜間になると、バッテリーにより自動点滅する公称光達距離2,000メートルの白色単閃光式簡易標識灯を装備して無人のまま錨泊中、船首が258度に向いたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、はつひは、船首部のエプロンが凹損し、2203号は右舷側後部に損傷を生じたが、いずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、月明かりのない暗夜、小用港沖合を南下中のはつひが、見張り不十分で、前路に錨泊している2203号を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、月明かりのない暗夜、小用港沖合を同港に向け南下する場合、船首方の陸岸の照明灯に紛れて錨泊船の灯火を識別しにくい状況にあったから、前路に錨泊している2203号を見落とすことのないよう、レーダーを利用するなと前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、始発時、この付近に錨泊船を認めなかったことから、前路を一瞥しただけで錨泊船はいないものと思い、レーダーを利用するなど前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、2203号に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、はつひの船首部のエプロンに凹損、2203号の右舷側後部に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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