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1999年(平成11年)

平成11年神審第48号
    件名
油送船第二星宝丸貨物船幸徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、西田克史、西林眞
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:第二星宝丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:幸徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
星宝丸・・・左舷中央部外板凹損
幸徳丸・・・船首部右舷側外板に破口を伴う凹損及び右舷居住区囲壁等凹損

    原因
幸徳丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
星宝丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、幸徳丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る第二星宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第二星宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月27日21時55分
大阪湾東部
2 船舶の要目
船種船名 油送船第二星宝丸 貨物船幸徳丸
総トン数 1,591トン 99.69トン
全長 84.91メートル 32.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 272キロワット
3 事実の経過
第二星宝丸(以下「星宝丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、船長C及びA受審人ほか8人が乗り組み、軽油1,300キロリットル及びガソリン1,800キロリットルを載せ、船首4.60メートル船尾6.10メートルの喫水をもって、平成10年8月27日21時11分大阪港堺泉北区第5区の興亜石油桟橋を発し、航行中の動力船の灯火及び危険物積載船の紅色閃光灯を表示して広島県福山港に向かった。
C船長は、船橋当直を航海士及び甲板員の2人当直による4時間3直制に決め、発航操船ののち、21時33分半堺浜北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から238度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、針路を明石海峡に向首する282度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力で進行した。

21時37分少し前C船長は、泉北大津南第1号灯浮標を左舷に通過したところで、錨泊船以外に漁船や航行船の灯火が見当たらなかったので、明石海峡航路の手前まで休息をとることとし、すでに出航配置を終えて昇橋していたA受審人に当直を委ねて降橋した。
A受審人は、甲板員1人とともに船橋当直に当たり、21時38分半左舷前方の2隻の錨泊船の間を通過するため針路を265度に転じ、同時46分半北防波堤灯台から260度3.8海里の地点に達したとき、錨泊船を替わし終えたので針路を再び282度に戻して続航した。
そのころA受審人は、左舷前方約2.5海里に幸徳丸の白、白、緑3灯を初めて視認し、念のため探照灯を点滅して自船の存在を示したのち、その動静に留意していたところ、21時48分少し過ぎ、北防波堤灯台から262度4.2海里の地点に達したとき、幸徳丸の灯火を左舷船首24度2.0海里に視認するようになり、その後その方位に明確な変化がなく、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った。

A受審人は、その後も幸徳丸の動静監視を続け、同船に避航の気配が認められないまま互いに接近し、21時53分左舷船首22度1,100メートルに近づいたが、そのうち右転して自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わず、その後更に間近に接近しても機関を使用して行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないで続航した。
21時54分少し過ぎA受審人は、ようやく衝突の危険を感じて自ら操舵を手動に切り替えて右舵10度をとり、甲板員に汽笛で短音を連吹させ、続いて右舵一杯をとって回頭中、21時55分北防波堤灯台から267度5.5海里の地点において、星宝丸は、原速力のまま、船首が000度を向いたとき、その左舷中央部外板に幸徳丸の船首が後方から43度の角度で衝突した。
C船長は自室で休息中に汽笛短音の連吹を聞き、急いで昇橋する途中、衝撃を感じて衝突を知り、事後の措置に当たった。

当時、天候は曇で風力2の東南東風が吹き、潮候は高潮時で、視界は良好であった。
また、幸徳丸は、船尾船橋型貨物船で、B受審人と同人の父親である機関長とが2人で乗り組み、雑貨50トンを載せ、船首1.20メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、同日16時35分徳島県徳島小松島港を発し、大阪港に向かった。
ところで、幸徳丸は、専ら徳島小松島港と大阪港との間を定期運航する貨物船で、日、火及び木曜日のそれぞれ16時ごろ徳島小松島港を発し、同日の23時ごろ大阪港大正内港の岸壁に着け、翌日08時から業者が揚荷役及び積荷役を行ったのち、同様に月、水及び金曜日のそれぞれ16時ごろ大阪港を発して23時ごろ徳島小松島港に入港し、翌日08時から荷役を行うという航海を繰り返していた。そして、金曜日の深夜に徳島小松島港に入港した場合に限り、翌土曜日に荷役を済ませたのち日曜日の夕方までの間は停泊することにしており、B受審人及び機関長は、十分に休息と睡眠がとれる状況であった。

こうして、B受審人は、発航操船に引き続いて単独の船橋当直に当たり、19時30分ごろ友ケ島水道を通過したところで機関長に当直を任せて食堂で食事をとり、20時00分ごろ再び昇橋して船橋後部ソファーに座って休息し、21時00分関西国際空港飛行場灯台から320度2.5海里の地点に達したとき、機関長と交替して船橋当直に就き、釧路を043度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ8.5ノットの対地速力で航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
B受審人は、操舵室中央前部に置いたいすに腰を掛けたり、立ったりしながら見張りに当たり、やがて、左舷船首方から接近していた大型旅客船が無難に替わり、大阪港入り口の灯台の灯火が確認できたので21時45分ごろからいすに腰を掛けたまま前方の見張りに当たった。
B受審人は、21時46分半右舷前方2.5海里ばかりの星宝丸が行った探照灯の点滅に気付かず続航するうち、同時48分少し過ぎ、北防波堤灯台から259.5度6.2海里の地点に達したとき、右舷船首35度2.0海里に接近した同船の白、白、紅3灯及び紅色閃光灯を視認できる状況となり、その後その方位が明確に変化せず、衝突のおそれがある態勢で接近していたが、この時間帯に右舷側の大阪港堺泉北区から出航する船舶が少ないことや食事のあとの満腹感などで気が緩み、眠気を催すとともに見張りが不十分になり、星宝丸の存在に気付かなかった。

眠気を感じていたB受審人は、大阪港への入航が間近であり、操舵室内のソファーに座っていた機関長に声をかけて2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、缶入りコーヒーを飲めば居眠りをすることはあるまいと思い、これを1口か2口飲んでいるうちにいつしか居眠りに陥り、速やかに星宝丸の進路を避けないまま進行した。
21時54分少し過ぎB受審人は、星宝丸の汽笛による短音連吹を聞いて目が覚め、いすから立ち上がったとき右舷前方間近に迫った相手船の灯火を視認し、切替えスイッチによって自動操舵から押しボタン式操舵に切り替えようとしたが、あわてていてその操作ができないまま、汽笛音を聞いた機関長が機関を停止し、続いて後進にかけたものの効なく、幸徳丸は原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、星宝丸は左舷中央部外板に深さ0.2メートルの凹損を生じ、幸徳丸は船首部右舷側外板に破口を伴う凹損及び右舷居住区囲壁等に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、大阪湾東部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の幸徳丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る星宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の星宝丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、大阪湾東部を大阪港大阪区に向けて北上中に眠気を催した場合、入航間近であり、機関長が操舵室内のソファーに腰を掛けて休んでいたのであるから、居眠り運航の防止措置として機関長に声をかけて2人で当直に当たるべき注意義務があった。ところが、同人は、缶入りコーヒーを飲めばしばらくは大丈夫と思い、機関長に声をかけて2人当直を行わなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、自船の前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する星宝丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、星宝丸の左舷中央部外板に凹損を、幸徳丸の船首部右舷側外板等に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

A受審人は、夜間、明石海峡に向けて大阪湾東部を西行中、左舷前方に幸徳丸を視認し、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で間近に接近する状況となった場合、速やかに機関を使用して行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、相手船がそのうち避航するものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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