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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月17日19時25分 京都府久美浜港北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
遊漁船白富士丸 プレジャーボート紅葉丸 総トン数 6.73トン 登録長 11.82メートル 6.58メートル 機関の種類
ディーゼル機関 電気点火機関 出力 308キロワット
55キロワット 3 事実の経過 白富士丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客3人を乗せ、たい釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年5月17日06時30分京都府久美浜港を発し、同港北方7海里付近の釣場に至り、その後釣場を適宜移動して日没過ぎまで釣りを行い、19時10分浅茂川港東内防波堤灯台(以下「東内防波堤灯台」という。)から025度(真方位、以下同じ。)3.7海里の地点を発進して帰途についた。 ところで、白富士丸は、速力が10ノット以上になると船首が浮上し、操舵室の右舷側に設けられた台に腰を掛けて見張りに当たると、正船首から右舷約8度及び左舷約15度の範囲に死角を生じるので、A受審人は、平素は台の上に立ち上がって見張りを行ったり、船首を左右に振るなりして死角を補う見張りを行っていた。 A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示し、発進と同時に針路を242度に定め、機関を全速力前進からやや減じた回転数毎分1,700にかけて17.0ノットの対地速力とし、台の上に立って前方の見張りに当たり、自動操舵によって進行した。 19時15分A受審人は、左右前方遠距離のところに停留状態の明るい集魚灯の灯火を視認したほかに何も認めなかったので、前路に支障となる船はいないと思い、台に腰を掛けた見張りでも十分と考え、それに腰を下ろし、船首方に死角のある状態で続航した。 19時22分A受審人は、東内防波堤灯台から320度2.2海里の地点に達したとき、正船首方向1,600メートルのところに、船尾を向けた状態の紅葉丸が存在してその錨泊灯を視認でき、その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めることができる状況にあったが、依然、前路に支障となる船はいないものと思い、台の上に立ち上がるなど船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、そのことに気付かず、紅葉丸を避けないで進行した。 A受審人は19時25分、東内防波堤灯台から301度2.6海里の地点において、船首部に衝撃を感じ、白富士丸は、原針路、原速力のまま、その船首が紅葉丸の左舷船毛部に左舷後方から15度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期に当たり、視界は良好で、日没は19時00分であった。 また、紅葉丸は、船体中央部右舷側に操縦席を有し、船内外機を装備したFRP製プレジャーモーターボートで、専ら魚釣り用に使用されていたところ、B受審人が1人で乗り組み、同人の息子と知人の2人を乗せ、あじやたい釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日16時00分係留地の久美浜港を発し、同時30分同港北東方沖合の、前示衝突地点付近の釣場に到着した。 B受審人は、機関を停止し、水深約55メートルのところに、船首から7キログラムのダンホース型の錨を入れ、直径10ミリメートル全長200メートルの化学繊維製の錨索を60メートル延出したところで船首部のクリートに係止し、折からの潮流により船首を南西方に向けた状態で錨泊して釣りを始めた。 19時20分B受審人は、船首を227度に向けて右舷船尾部で右舷方を向いて竿を出していたところ、ふと船尾方に目を向けたとき、左舷船尾15度1.4海里のところに、白富士丸の黒い船影と同船が立てる白波を初めて視認した。 19時22分B受審人は、白富士丸との距離が1,600メートルとなったとき、同船から自船の存在が分かりやすいようにと、それまで点灯していなかった錨泊灯を直ちに表示したうえ、マスト灯及び舷灯も点灯し、その後白富士丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めたが、そのうち自船を避けていくものと思い、白富士丸の動静を見守りながら釣りを続けた。 19時24分B受審人は、避航の気配が見られないまま白富士丸が500メートルに接近したが、なおも同船が避けてくれることを期待し、有効な音響による信号を行うことができる手段を備えていなかったものの、始動キーを回せば直ちに機関がかかる状態のうえ、錨索が比較的短く、機関を前進にかけると錨が容易に海底を離れて移動できることが分かっていたのに、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかった。 こうしてB受審人は、白富士丸が至近に迫って衝突の危険を感じ、手を振りながら大声を上げたが効なく、海中に飛び込んだ直後、紅葉丸は、その船首を227度に向けたまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、白富士丸は、左舷船首に破口を生じたが、のち修理され、紅葉丸は、左舷船尾部を圧壊し、白富士丸に久美浜港まで曳航されたが、のち新船に取り替えられた。また、B受審人が海中に飛び込む際に打撲傷を、紅葉丸の同乗者1人が衝突の衝撃で頚椎捻挫等を負った。
(原因) 本件衝突は、日没後の薄明時、京都府久美浜港北東方沖合において、白富士丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の紅葉丸を避けなかったことによって発生したが、紅葉丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、日没後の薄明時、京都府久美浜港北東方沖合を西行する場合、操舵室右舷側に設けられた台に腰を掛けて見張りに当たると、船首浮上によって前方の広い範囲に死角が生じる状況であったから、前路で錨泊している紅葉丸を見落とすことのないよう、台の上に立ち上がるなど船首方の死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、台に腰を下ろすに当たり、左右前方遠距離のところに停留状態の明るい集魚灯の灯火を視認したほかに何も認めなかったので、前路に支障となる船はいないと思い、船首方の死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、紅葉丸の存在に気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、白富士丸の左舷船首に破口を生じさせ、また、紅葉丸の左舷船尾部を圧壊させ、B受審人及び紅葉丸の同乗者1人を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、日没後の薄明時、京都府久美浜港北東方沖合において、魚釣りのため錨泊中、自船に向首して接近する白富士丸に避航の気配が見られないまま間近に接近したのを認めた場合、有効な音響による信号を行うことができる手段を備えていなかったものの、始動キーを回せば直ちに機関がかかる状態のうえ、錨索が比較的短く、機関を前進にかけると錨が容易に海底を離れて移動できることが分かっていたのであるから、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、なおも白富士丸が避けてくれることを期待し、速やかに機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身が負傷するとともに紅葉丸の同乗者1人を負傷させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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