日本財団 図書館




1999年(平成11年)

平成10年神審第121号
    件名
貨物船第百十六鳳生丸貨物船高砂丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、米原健一
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第百十六鳳生丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:高砂丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
鳳生丸・・・機関室右舷側外板に凹損を伴う擦過傷及び居住区前部
右舷側のハンドレール等曲損
高砂丸・・・左舷船尾付近ブルワーク曲損

    原因
鳳生丸・・・見張り不十分、横切りの航去(避航動作)不遵守(主因)
高砂丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第百十六鳳生丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る高砂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、高砂丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月12日00時15分
土佐湾北部
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第百十六鳳生丸 貨物船高砂丸
総トン数 749トン 199トン
全長 81.73メートル 58.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第百十六鳳生丸(以下「鳳生丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、砕石2,050トンを載せ、船首3.90メートル船尾5.05メートルの喫水をもって、平成10年4月11日23時00分高知県須崎港を発し、京浜港に向かった。
A受審人は、発航操船に引き続き単独で船橋当直に当たり、23時40分半一子碆灯標から180度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点に達したとき、針路を室戸岬沖合に向ける099度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で航行中の動力船の灯火を表示して進行した。

定針したころA受審人は、GPSプロッターの表示する自船船位が一子碆灯標から大きく外れていることを認め、初期設定から再調整することとし、23時45分ごろ3海里レンジとしたレーダーで周囲を確認し、他船の映像が認められなかったのでしばらくは大丈夫と思い、操舵室前部のコンソールボックス左舷側に設置されたGPSプロッターの前にしゃがみこんで携帯電灯で照らしながら調整を始めた。
翌12日00時06分A受審人は、一子碆灯標から103度5.2海里のところで、右舷船首55度1.7海里に前路を左方に横切る高砂丸のマスト灯2個及び紅灯1個をそれぞれ視認し得る状況で、その後その方位が明確に変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、プロッターの調整に気を奪われて周囲の見張りを十分に行うことなく、高砂丸の存在に気付かないで早期に同船の進路を避けないまま続航した。

00時10分A受審人は、高砂丸が右舷船首58度1,500メートルに接近したが、依然プロッターの調整に気をとられて同船の存在に気付かないまま進行中、同時15分少し前ふと立ち上がって右舷側を見たところ、回頭しながら急速に接近する高砂丸の船体とマスト灯を初めて視認し、急いで操舵を手動に切り替えたものの、どうすることもできず、00時15分一子碆灯標から102度7.0海里の地点において、鳳生丸は、原針路、原速力のまま、その右舷後部が高砂丸の左舷船尾に後方から18度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は低潮時であった。
また、高砂丸は、船尾船橋型貨物船で、B受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま船首0.90メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同月11日10時25分山口県徳山下松港を発し、高知港に向かった。

同日23時55分B受審人は、一子碆灯標から133度6.6海里の地点において前直者と交替して単独の船橋当直に就き、引き続き自動操舵で針路を高知港港口に向く030度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
翌12日00時06分B受審人は、左舷船首56度1.7海里のところに鳳生丸のマスト灯2個及び緑灯1個を初めて視認し、その後その方位が明確に変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したので、同時10分一子碆灯標から108度6.5海里の地点において、鳳生丸が左舷船首53度1,500メートルとなったとき、同船を少し離すつもりで針路を050度に転じた。
B受審人は、その後も鳳生丸の方位が変化しないまま接近し、依然避航の気配が認められないので、00時11分探照灯で短閃光5、6回の点滅を2度繰り返したのち、探照灯を点灯したまま見守っていたところ、なお相手船が避航の動作をとらなかったが、同船のマスト灯2灯の間隔が広いことから、2人当直制をとっている大型船で、自船を見落とすことはなく、そのうち避航するものと思い、警告信号を行わず、さらに間近に接近したとき機関を使用して行き脚を止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、00時14分半ようやく衝突の危険を感じて右舵一杯をとったが及ばず、右回頭して船首が117度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。

衝突の結果、鳳生丸は機関室右舷側外板に深さ5センチメートルの凹損を伴う擦過傷及び居住区前部右舷側のハンドレール等に曲損を生じ、高砂丸は左舷船尾付近ブルワークが長さ約12メートルにわたる曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、土佐湾北部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行中の鳳生丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る高砂丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上中の高砂丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就いて土佐湾北部を東行する場合、右方から接近する他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、GPSプロッターの調整に気を奪われ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右方から衝突のおそれがある態勢で接近する高砂丸に気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、鳳生丸の機関室右舷側外板に凹損を伴う擦過傷及び居庄区前部右舷側のハンドレール等に曲損を、高砂丸の左舷船尾付近ブルワークに曲損を、それぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に就いて土佐湾北部を北上中、左舷前方に鳳生丸を視認し、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた場合、機関を使用して行き脚を止めるなと衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、相手船がそのうちに避航するものと思い、間近に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION