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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年6月21日17時45分 明石海峡航路 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第八宝栄丸 総トン数 498トン 全長 73.01メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
1,029キロワット 3 事実の経過 第八宝栄丸(以下「宝栄丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人及び一等航海士B(昭和12年2月11日生、五級海技師(航海)免状を受有し受審人に指定されていたところ、平成11年10月22日死亡したのでこれが取り消された。)ほか4人が乗り組み、鉱滓(こうさい)1,500トンを載せ、船首3.85メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、平成10年6月20日16時00分静岡県御前崎港を発し、福岡県苅田港に向かった。 翌21日17時ごろA受審人は、明石海峡の通航に備えて昇橋し、操舵装置前方に置かれたいすに腰をかけて操船の指揮に当たり、当直中のB一等航海士が自動操舵で大阪湾を明石海峡航路東方灯浮標(以下、灯浮標の名称については、「明石海峡航路」を省略する。)東側に向けて北止するのを見守り、同灯浮標東側に至ったとき、同人に対して明石海峡航路に向けるようにと指示した。 B一等航海士は、手動操舵に切り替えて徐々に左転し、17時25分平磯灯標から155度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点に達したとき、針路を明石海峡航路にほぼ沿う305度に定め、機関を9.5ノットの全速力前進にかけ、折からの西流を右舷後方から受けて11.8ノットの対地速力で進行した。 間もなくB一等航海士は、左舷船首方向に見える明石海峡航路東口の中央第3号灯浮標が徐々に正船首方向に寄るのを認め、自船が左方に圧流されていることを知り、17時35分平磯灯標から215度1.4海里の地点において、同灯浮標を左舷側100メートルばかりに通過したとき、A受審人に報告しないまま針路を右方に転じて310度とした。そして、そのころから急速に強まった西流によって299度の実航針路及び14.2ノットの対地速力で続航した。 A受審人は、当時明石海峡の潮流が西流のほぼ最盛期であることを知っていたが、B一等航海士が操舵をしており、航路に沿って進行しているものと思い、船位の確認を十分に行わず、自船が航路に沿う針路より5度右方に向首しているものの、強く左方に圧流されていることに気付かないで進行するうち、17時39分半江埼灯台から081度1.9海里のところで、大阪湾海上交通センターから、航路中央部より左側を航行中である旨の警告を受け、ようやく左方に圧流されていることが分かり、B一等航海士に具体的な針路を示さないまま「出せ、出せ」とのみ指示し、同航海士は針路を320度に転じた。 宝栄丸は、潮流をさらに右舷方から受けることとなり、ほぼ306度の実航針路で中央第2号灯浮標に向かう状況となったが、A受審人は、同灯浮標が左舷船首14度方向に視認できることから、同灯浮標を無難に航過できるものと思い、自船の圧流状況を把握して、適切な針路を指示することができるよう、船位の確認を十分に行うことなく進行した。 一方、B一等航海士は、針路目標となる明石港の物票などの方位変化で自船が左方に強く圧流されていることを知ることができたものの、必要があればA受審人が転舵の指示をするものと思い、圧流の状況を確認して同人に対して報告するなど、船長の補佐を十分に行わないまま、320度の針路で進行中、17時45分少し前A受審人の頭部の陰となっていた中央第2号灯浮標を左舷船首至近に認め、右舵一杯をとったが効なく、17時45分江埼灯台から038度1.3海里の地点において、宝栄丸は、325度に向首したとき、原速力のまま中央第2号灯浮標にその左舷船尾が衝突した。 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は高潮時で、付近には280度方向に流れる5ノット強の潮流があった。 衝突の結果、宝栄丸は左舷船尾外板に擦過傷を生じたのみであったが、中央第2号灯浮標は保護枠等に損傷を生じてのち修理された。
(原因) 本件灯浮標衝突は、明石海峡航路を西流のほぼ最盛期に西行中、船位の確認が不十分で、圧流されながら中央第2号灯浮標に著しく接近する進路で進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が船位の確認を十分に行わなかったことと、操舵中の航海士が、圧流状況を報告するなど船長の補佐を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、操船の指揮を執って西流のほぼ最盛期に明石海峡航路を西行中、左方に圧流されていることを認めて針路を右方に転じ、左舷前方に中央第2号灯浮標を見る態勢で進行する場合、同灯浮標に著しく接近することのないよう、その後も船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、中央第2号灯浮標が左舷前方に視認できることから、これを無難に航過できるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、自船が左方に強く圧流され、同灯浮標に著しく接近する進路で進行していることに気付かず、同灯浮標との衝突を招き、自船の左舷船尾外板に擦過傷を、中央第2号灯浮標の保護枠等に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 |