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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月13日06時12分 千葉港千葉第3区 2 船舶の要目 船種船名
貨物船日日丸 貨物船チャンヨン 総トン数 4,382トン 1,160トン 全長 108.22メートル
80.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 4,118キロワット
1,261キロワット 3 事実の経過 日日丸は、可変ピッチプロペラを備えた船首船橋型の自動車運搬船で、A受審人ほか10人が乗り組み、自動車608台を載せ、船首4.50メートル船尾5.40メートルの喫水をもって、平成9年11月11日16時45分水島港を発し、千葉港に向かい、翌12日18時10分千葉港外港に到着し、揚荷待ちのため、千葉灯標から267度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点に錨泊した。 翌13日05時40分A受審人は、抜錨して自ら操船を指揮し、機関長を主機の遠隔操作に、操舵手を手動操舵にそれぞれ就け、法定の灯火を表示し、徐々に増速しながら千葉港千葉第3区新港京葉木材バースに向かい、同時49分半、千葉灯標から255度2.1海里の地点において、針路を058度に定め、機関回転数毎分160及び翼角前進16度の港内全速力前進にかけ、13.0ノットの速力で、間もなく昇橋した一等航海士を操船補佐に就け、レーダーを3海里レンジとして千葉航路西口に向けて進行した。 ところで、A受審人は、日日丸の船長として3年の経歴を有し、同船が水島、千葉、川崎、広島及び博多の各港間を1航海5日の周期で定期運航し、頻繁に千葉航路を経由して新港京葉木材バースに着桟していたので、同航路における通航船舶などの実態をよく知っていた。 A受審人は、千葉灯標信号所が「F」の文字の点滅信号(自由信号)を発していることを確認して、05時56分半、千葉灯標から288度1,480メートルの地点において千葉航路に入航し、同じ針路で同航路の右側をこれに沿って続航し、06時05分新港信号所から243度2,190メートルの地点において、千葉港第6号灯浮標(以下、千葉航路の各号灯浮標の名称については「千葉港」を省略する。)を通過したところで、針路を070度に転じ、千葉第3区中央ふ頭南西端が1.5海里レンジで探知できる距離となったので、レーダーを3海里レンジから1.5海里レンジに切り換えたところ、右舷船首13度1.6海里のところにチャンヨンの映像を初めて探知したが、雨のため同船の灯火を視認することができないまま、このころ左舷船首方の千葉第3区新港泊地に大型船の映像を探知し、自船が同泊地に向かっていたことから、同大型船の動静を監視しながら進行した。 06時06分A受審人は、自船の左舷側を小型船が並航していたので、これを追い越すため、一旦機関回転数毎分170及び翼角前進18度として、14.0ノットに増速し、同時06分少し過ぎ、新港信号所から242度1,700メートルの地点において、針路を中央ふ頭南西端に向く075度に転じ、同時07分新港信号所から238度1,400メートルの地点に至り、第7号灯浮標を通過したとき、右舷船首10度1,810メートルのところにチャンヨンの紅灯を初めて視認し、同船が千葉航路を西行していること、及び、左舷船首方の大型船とこれに先行するタグボート2隻の各灯火も視認し、同大型船が出航中であることをそれぞれ知り、同大型船と新港泊地の入口付近において出会うおそれがあることから、同大型船の動静を注視しながら続航した。 06時08分A受審人は、新港信号所から232度1,030メートルの地点において、右舷船首11度1,230メートルのところにチャンヨンの白、白、紅3灯を認め、同船は千葉航路を西行して出航中の小型内航船であり、これまで同航路を航行した際、千葉第1区から出航する小型内航船が、第10号灯浮標付近で左転し、航路外に出てそのまま南下するのを度々見かけていたので、チャンヨンもこれと同様に第11号灯浮標付近において左転し、第10号灯浮標付近から航路外に出るものと判断し、出航中の大型船と左舷を対して通過できるよう、そのままの針路を保持して進行した。 06時09分A受審人は、新港信号所から223度780メートルの地点において、チャンヨンが右舷船首15度720メートルのところに接近したとき、自船は第11号灯浮標付近から航路外に出て、新港泊地に入ることにしたが、船橋右舷側で見張りに就いていた一等航海士からチャンヨンの方位に明確な変化がないとの報告を受け、同船が発した汽笛信号を聞いて、同船が左転せずに衝突するおそれがある態勢で接近したことを知ったものの、同船は間もなく左転して航路外に出るものと思い、直ちに大幅に右転して同航路の右側に寄るなり、機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの避航動作をとらず、同船の進路を避けずに進行し、左舷側の小型船を追い越したところで、機関回転数毎分155及び翼角前進16度に下げただけで、徐々に減速しながら続航し、自船が新港泊地に向かっていることを知らせるつもりで、左舵をとらずに汽笛で短音2回の操船信号を2度発し、依然として避航動作をとらず、同船の左転を期待して進行した。 こうして、A受審人は、チャンヨンの進路を避けないまま続航し、06時10分新港信号所から212度590メートルの地点に達して、チャンヨンが右舷船首15度430メートルのところに接近したとき、同船が右転を始めたことに気付いて衝突の危険を感じ、機関回転数毎分155及び翼角前進12度の半速力前進に減じたものの、既に自船が右転による避航の時機を失していたので、同船に左転による避航を促すため、汽笛で短音を連続吹鳴したが、同船はその後も右転を続けたことから、同時11分同船との距離が160メートルとなって衝突を避けることが困難であると判断し、自船の船首が同船の船体中央部に衝突するのを避けるため、翼角前進12度のまま左舵一杯をとって左回頭し、06時12分親港信号所から180度350メートルの地点において、左回頭中の日日丸の船首が040度を向いたとき、約8.5ノットの速力で、その右舷前部が、チャンヨンの船首部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は雨で風力2の北北東風が吹き、視程は約1.3海里で、潮候は下げ潮の中央期であった。 また、チャンヨンは、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Bほか韓国人6人及びフィリピン人6人が乗り組み、千葉港千葉第2区川崎製鉄西工場地岸壁NAバースにおいて鋼材1,797トンを積載し、船首4.10メートル船尾5.40メートルの喫水をもって、同月13日06時00分同バースを離岸して揚錨を始め、同時02分揚錨を終え、大韓民国馬山港に向かった。 B船長は、自ら操船を指揮し、二等航海士をレーダー見張りに、機関長を主機の遠隔操作に、操舵手を手動操舵にそれぞれ就け、法定の灯火を表示し、機関を極微速力前進にかけて徐々に増速しながらバース前面水域において左回頭を始め、06時04分少し前、新港信号所から133度1,270メートルの地点において千葉航路に入航し、そのまま左回頭を続け、同時06分同信号所から126度1,000メートルの地点において、針路を273度に定め、7.0ノットの速力で、同航路の右側をこれに沿って進行した。 定針したとき、B船長は、左舷船首10度1.3海里のところに日日丸の白、白、緑3灯を初めて視認し、しばらくして同船と左舷を対して通過する意図を示すつもりで、右舵をとらずに汽笛による短音1回の操船信号を発し、同船の動静を監視しながら続航した。 06時09分少し前B船長は、第11号灯浮標を通過したとき、日日丸が自船の前路を右方に横切り、衝突するおそれのある態勢で接近するのを認め、直ちに汽笛により短音5回の警告信号を繰り返し発するとともに、機関を停止し、前進惰力で進行するうち、同時09分新港信号所から161度580メートルの地点に達したとき、左舷船首3度720メートルのところに接近した同船に避航の気配が認められなかったことから、衝突を避けるため右舵をとって短音1回の操船信号を発したが、同船も間もなく右転するなどして自船の進路を避けるものと思い、直ちに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかった。 こうして、B船長は、前進惰力で右回頭を続けるうち、06時11分新港信号所から176度430メートルの地点において、日日丸との距離が160メートルとなったとき、同船が発した汽笛信号を聞いて、直ちに機関を微速力後進にかけ、更に同船が左転するのを認めて全速力後進としたが、及ばず、右回頭中のチャンヨンの船首が320度に向いて残存速力が約1ノットとなったとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、日日丸は、右舷前部に凹損を、チャンヨンは、船首部に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、千葉港において、千葉航路から千葉第3区新港京葉木材バースに向かうため航路外に出ようとする日日丸が、航路を航行するチャンヨンの進路を避けなかったことによって発生したが、チャンヨンが、衝突を避けるための協力動作をとる時機が遅れたことも一因をなすものである。
(受審人の所為) 受審人Aは、夜間、千葉港において、同港外港を抜錨して同港第3区新港京葉木材バースに向けて千葉航路を東行中、同航路から同バースに向かうため航路外に出ようとする場合、同航路を西行中のチャンヨンの進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、チャンヨンは左転して千葉港第10号灯浮標付近から航路外に出るものと思い、早期に右転して同航路の右側に寄るなり、機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの避航動作をとらず、チャンヨンの進路を避けなかった職務上の過失により、そのまま進行して衝突を招き、自船の右舷前部に凹損を、チャンヨンの船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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