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1999年(平成11年)

平成10年広審第98号
    件名
漁船第一浦郷丸漁船新栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、杉崎忠志、横須賀勇一
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:第一浦郷丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:新栄丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
浦郷丸・・・損傷ない
新栄丸・・・右舷船首部圧壊、破口、新栄丸船長が頸椎捻挫、腰部打撲等、約2箇月間の入院加療

    原因
浦郷丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、第一浦郷丸が、転針方向に対する見張り不十分で、錨泊中の新栄丸に向け、その至近で転針したことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月10日18時00分
島根県地蔵埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一浦郷丸 漁船新栄丸
総トン数 80トン 0.69トン
登録長 29.50メートル 4.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 669キロワット 7キロワット
3 事実の経過
第一浦郷丸(以下「浦郷丸」という。)は、大中型旋網漁業の網船として従事する鋼製漁船で、A受審人ほか17人が乗り組み、操業の目的で、船首2.2メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成9年7月10日17時30分境港内の境水道大橋西方1,500メートルの係留地を発し、島根県恵曇港沖合の漁場に向かった。
A受審人は、出港操船に引き続き船橋当直に就き、甲板員1人を見張りに立たせて島根半島南岸に沿って北東進し、その後同半島先端の地蔵埼付近で左転して同埼とその200メートルばかり沖合の地ノ御前島との間を北上して沖合に出ることとし、17時56分少し過ぎ美保関灯台から220度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点に達したとき、針路を060度に定め、機関を12.5ノットの全速力前進にかけ、同じころ出港して漁場に向かう数隻の漁船とともに、小雨模様の中、3海里レンジとしたレーダーによる見張りを併用しながら自ら手動操舵に当たって進行した。

17時58分半A受審人は、美保関灯台から195度650メートルの地点に至ったとき、左舷船首9度600メートルに、錨泊中の形象物を掲げないまま、マストに30センチメートル四方の白旗と白灯1灯を掲げて錨泊中の新栄丸を視認することができ、このまま続航すると同船を左舷側80メートルばかり離して無難に航過する態勢にあったものの、予定転針地点で左転すると、同船と衝突のおそれが生ずる状況であったが、周囲の同航船に気を取られ、転針方向に対する見張りを十分に行っていなかったので新栄丸に気付かなかった。
17時59分半A受審人は、美保関灯台から157度480メートルの地点に達したとき、左舷船首30度150メートルとなった新栄丸に気付かないまま左舵をとり地ノ御前島内側に向け徐々に回頭を始め、18時00分わずか前同船に向首して続航中、18時00分浦郷丸は、美保関灯台から140度400メートルの地点において、原速力のまま010度を向首したその左舷船首部が、新栄丸の船首に、前方から52度の角度で衝突した。

当時、天候は小雨で風はほとんどなく、海上は穏やかで、視程は約1000メートルであった。
A受審人は、衝突したことに気付かないまま航行を続け、地蔵埼と地ノ御前島との間を通過したところで降橋して食事中、浦郷漁業協同組合境港出張所からの電話連絡で衝突の事実を知って境港に引き返し、海上保安部の調査を受けた。
また、新栄丸は、操舵室を有せず、船体中央部左舷側に灯火設備のあるマストを備えた汽笛を装備しないFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、同日14時10分地蔵埼西北西1海里の早見ノ鼻南方400メートルばかりの入江にある係留地を発し、地蔵埼付近の漁場に向かった。
15時00分B受審人は、前示衝突地点付近の水深約30メートルのところに、直径12ミリメートルのクレモナ製錨索を40メートル延出して投錨し、漁場と境港との間を往来する漁船が輻輳する海域であったが、マストに30センチメートル四方の白旗を掲揚しただけで、錨泊中の形象物を掲げないまま、いか一本釣りを始め、17時ごろ日没には大分間があったがマストの白灯を点灯した。

B受審人は、周囲を通過して漁場に向かう漁船群を見ながらいか一本釣りを続け、18時00分わずか前船首が138度を向首して左舷後方のいか針にかかったいかを引き上げようとしていたとき、機関音の接近で右舷方を振り向き、間近に迫った浦郷丸を初めて認めたものの、どうすることもできず、新栄丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、浦郷丸に損傷はなく、新栄丸は、右舷船首部が圧壊して破口を生じたが、のち修理された。
また、B受審人は、新栄丸から振り落とされ、浮遊していたクーラーボックスにつかまっていたところ、まもなく付近にいた僚船に救助され、病院に搬送されたが、頸椎捻挫、腰部打撲等、約2箇月間の入院加療を要する負傷をした。


(原因)
本件衝突は、地蔵埼沖合において、浦郷丸が、転針方向に対する見張り不十分で、錨泊中の新栄丸に向け、その至近で転針したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、島根半島南岸を漁場に向け北東進する場合、地蔵埼沖合で左転し、同埼とその沖合の地ノ御前島との間を北上する予定であったから、転針方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲の同航船に気を取られ、転針方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の新栄丸に気付かず、その至近で転針して同船との衝突を招き、新栄丸の右舷船首部に破口を生じさせ、B受審人に2箇月の入院加療を要する頸椎捻挫等の負傷をさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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