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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月3日13時50分 大阪湾 2 船舶の要目 船種船名
押船第三十五関西丸 土運船ビー―355 総トン数 198トン 1,186トン 全長 31.00メートル
60.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 船種船名 漁船戎丸 総トン数
4.7トン 全長 15.46メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
15 3 事実の経過 第三十五関西丸(以下「関西丸」という。)は、コルトノズル式推進器2個を備えた鋼製引船兼押船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で船首尾とも0.90メートルの喫水となった、無人の鋼製土運船ビー―355(以下「土運船」という。)の船尾中央凹部に船首をはめ込み、合成繊維製ロープを先端に連結したワイヤロープで固定して全長89.50メートルとし、船首2.80メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成10年8月3日13時20分兵庫県津名港を発し、同県妻鹿漁港に向かった。 A受審人は、出航操船に引き続いて単独で船橋当直に当たり、13時24分津名港佐野東防波堤灯台から215度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点で、針路を明石海峡航路東方灯浮標の東側に向く044度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 定針後間もなくA受審人は、周囲を見渡したところ漁船も見当たらず、また3海里レンジとしたレーダーをのぞいたが船舶の映像を認めなかったことから、付近に他船がいないものと思いながら、舵輪の後方に立ち見張りと操舵に当たって淡路島東岸沿いに北上した。 13時45分A受審人は、釜口港1号防波堤灯台(以下「1号防波堤灯台」という。)から183度1,900メートルの地点に達したとき、右舷船首55度1.0海里のところに、自船の前路を左方に横切る戎丸を視認することができる状況となり、その後その方位がほとんど変わらず衝突のおそれがある態勢で接近したが、右方から接近する他船はいないと思い、このころ前方の東浦町沖に漁船を認めたことから、専ら前方のみ見張り、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、戎丸の存在に気付かず、早期にその進路を避けないで続航した。 そして、A受審人は、13時50分少し前ふと右舷側を見たとき、至近に迫った戎丸を初めて視認し、衝突の危険を感じ、機関を微速力前進に落とすとともに左舵20度をとり、次いで機関停止としたが及ばず、13時50分1号防波堤灯台から143度1,300メートルの地点において、関西丸被押土運船は、ほぼ原針路、原速力のまま、土運船の右舷船首部に、戎丸の船首が後方から82度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 また、戎丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人と同人の父が乗り組み、操業の目的で、船首0.20メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日06時00分淡路島東岸の兵庫県釜口漁港を発し、同漁港南東方3海里付近の漁場に向かった。 06時30分ごろB受審人は、漁場に到着し、その後操業を繰り返してあじなど150キログラムを獲て漁を打ち切り、13時37分津名港佐野東防波堤灯台から096度2.9海里の地点を発進して帰途につき、針路を釜口漁港に向く322度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 発進時、B受審人は、周囲を見渡したところ、他船を見掛けなかったことから、間もなく操舵室を離れて船尾甲板に行き、父が行っていた漁獲物の選別作業の手伝いを始めたものの、付近は船舶が淡路島東岸沿いを南北に通航するところであったことから、時々操舵室に戻って周囲を確認するようにして続航した。 13時45分B受審人は、1号防波堤灯台から143度1.5海里の地点に差し掛かり、操舵室に戻って周囲を見渡したとき、左舷船首43度1.0海里のところに、前路を右方に横切る態勢の関西丸被押土運船を初めて視認し、その後衝突のおそれがあったが、接近するまで間があるのでもう少し近づいてから動静を確かめればよいと思い、再び船尾甲板に行き選別作業に当たった。 そして、B受審人は、13時48分関西丸被押土運船の様子を見るため操舵室に戻ったとき、関西丸被押土運船を左舷船首44度780メートルに認めたが、バージを押しているので速力が遅く、このままで同船の前路を無難に航過できるものと思い、関西丸被押土運船に対する動静監視を十分に行うことなく、すぐに船尾甲板に引き返して選別作業に従事していた。そのため同人は、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、速やかに警告信号を行わず、その後間近に接近しても行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行中、突然衝撃を受け、戎丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、土運船は右舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、戎丸は船首部を圧壊し、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、大阪湾において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、関西丸被押土運船が、見張り不十分で、前路を左方に横切る戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが、戎丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、大阪湾において、土運船を押して淡路島東岸沿いに北上する場合、右方から接近する戎丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、右方から接近する他船はいないと思い、前方の東浦町沖に漁船を認めたことから、専ら前方のみ見張り、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右方から衝突のおそれがある態勢で接近する戎丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、関西丸が押す土運船の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、また戎丸の船首部を圧壊させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、大阪湾において、操業を終えて釜口漁港に向けて帰港中、前路を右方に横切る態勢の関西丸被押土運船を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、このままで関西丸被押土運船の前路を無難に航過できるものと思い、船尾甲板で漁獲物の選別作業に当たり、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、関西丸被押土運船と衝突のおそれがある状況であることに気付かず、警告信号を行わず、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して関西丸被押土運船との衝突を招き、前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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