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1999年(平成11年)

平成11年神審第22号
    件名
遊漁船天輝丸プレジャーボートボス衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、佐和明、工藤民雄
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:天輝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ボス船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
天輝丸・・・船首部に擦過傷
ボス・・・左舷前部に破損、船長及び同乗者2人が打撲傷等

    原因
天輝丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ボス・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、天輝丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のボスを避けなかったことによって発生したが、ボスが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月30日00時30分
福井県鋸埼北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船天輝丸 プレジャーボートボス
総トン数 4.70トン
全長 7.15メートル
登録長 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 235キロワット 62キロワット
3 事実の経過
天輝丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人ほか1人が乗り組み、釣客4人を乗せ、いか釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成9年8月29日17時00分福井県小浜港を発し、18時30分同県鋸埼北西方約7海里の釣場で遊漁を行い、翌30日00時00分同港への帰途についた。
A受審人は、航行中の動力船の灯火を掲げ、操舵輪の後方に立って操舵につき、低速力で釣場を発進したところ、前路にあたる浅礁(あさぐり)付近に多くの釣船の灯火を認め、比較的空いているその西側水域に向け、適宜これら釣船を避けながら南下した。

00時25分A受審人は、鋸埼灯台から315度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点に達したとき、多数の釣船を替わし終えたので針路を同灯台に向く135度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、正船首1,230メートルのところにボスの白、紅両灯火と甲板照明灯の明かりを視認でき、その後同船に向首したまま接近するのを認めることができる状況であったが、一べつしただけで前路に他船はいないものと思い、操舵用の椅子に腰を掛けて操舵輪の左横に設置されたレーダー画面の調整を始め、前方の見張りを十分に行うことなく、ボスの存在にも、衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず、同船を避けないまま続航した。
こうして、A受審人は、レーダー画面の調整を終えて椅子から立ち上がろうとしたときに衝撃を感じ、00時30分鋸埼灯台から315度3.8海里の地点において、天輝丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、ボスの左舷前部に直角に衝突した。

当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
また、ボスは、船体前部に操舵室が設けられ、船外機を装備したFRP製プレジャーモーターボートで、専ら魚釣り用に使用されていたところ、B受審人が1人で乗り組み、知人2人を乗せ、あじやたい釣りの目的で、船首尾とも0.6メートルの喫水をもって、同月29日15時00分福井県和田港内のマリーナを発し、16時00分鋸埼北西方沖合の釣場に至って錨泊した。
その後、B受審人は、錨泊場所をわずかに移動し、水深約50メートルの、前示衝突地点付近において、船首から7キログラムのダンホース型錨を入れ、直径10ミリメートル全長200メートルの化学繊維製の錨索のうち、120メートルを延出したところで船首部のクリートに係止し、両舷灯を点灯したまま、錨泊中を表示する白色全周灯1個を掲げ、操舵室後方の縁に取り付けた蛍光灯で甲板を照らして釣りを始めた。

翌30日00時29分B受審人は、折からの北東風により船首を045度に向け、右舷側で釣りを行っていたとき、左舷側にいた同乗者から自船に向かってくる船がいると言われて左方を振り向き、左舷正横250メートルのところに天輝丸の船首部を初めて視認したものの、漁模様を聞きにくるものと思い、同船の動静を見守った。
間もなくB受審人は、天輝丸に減速する気配が見られず、自船に向首したまま近距離に接近したのを認めたが、速やかに機関を前進にかけるなど衝突を避けるための措置をとることなく、00時29分半少し過ぎ同船が至近に迫ったとき衝突の危険を感じ、船室内で寝ていたもう1人の同乗者に声をかけて起こすとともに、天輝丸に対して手を振りながら大声で避航を促したものの効なく、ボスは、船首を045度に向けたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、天輝丸は、船首部に擦過傷を生じただけで、ボスは、左舷前部に破損を生じ、天輝丸により和田港まで曳航されたが、のち新船に取り替えられ、B受審人及びボス同乗者2人が打撲傷等を負った。


(原因)
本件衝突は、夜間、福井県鋸埼北西方沖合において、同県小浜港に向けて帰航中の天輝丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のボスを避けなかったことによって発生したが、ボスが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鋸埼北西方沖合の釣場から小浜港に向けて帰航する場合、前路で錨泊中のボスを見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一べつしただけで前路に他船はいないものと思い、レーダー画面の調整にあたり、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のボスに気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、天輝丸の船首部に擦過傷を、ボスの左舷前部に破損をそれぞれ生じさせ、B受審人及びボス同乗者2人に打僕傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、鋸埼北西方沖合において、魚釣りのため錨泊中、天輝丸が自船に向首したまま近距離に接近したのを認めた場合、速やかに機関を前進にかけるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁模様を聞きにくるものと思い、速やかに機関を前進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、天輝丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身が負傷するとともにボス同乗者2人を負傷させるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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