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1999年(平成11年)

平成11年神審第21号
    件名
貨物船安芸嶋押船第二こくど丸被押バージケイアールビー3号衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、須貝壽榮、西田克史
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:安芸嶋船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:第二こくど丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
安芸嶋・・・・・・・・・船首部に破口と凹損
こくど丸・・・・・・・・損傷なし
バージ・・・・・・・・・左舷後部外板に破口、連結ワイヤロープが切断して転覆、積荷を流失

    原因
安芸嶋・・・・・・・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
こくど丸被押バージ・・・横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、安芸嶋が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第二こくど丸被押バージケイアールビー3号の進路を避けなかったことによって発生したが、第二こくど丸被押バージケイアールビー3号が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月16日16時39分
神戸港西部沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船安芸嶋
総トン数 199トン
全長 59.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 押船第こくど丸 バージケイアールビー3号
総トン数 153トン 1,523トン
全長 28.02メートル 77.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
3 事実の経過
安芸嶋は、専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年1月16日15時40分神戸港第2区摩耶ふ頭を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続いて単独で船橋当直に当たり、第3航路を南下したのちポートアイランド南方沖合を西行し、16時23分神戸港和田防波堤灯台から166度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を260度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により明石海峡に向けて進行した。

そのころA受審人は、右舷前方約90メートルのところに499トン型の砂刑採取運搬船が、また左舷後方約80メートルのところに199トン型の貨物船が、それぞれ自船とほぼ同じ針路で同航しており、やがて砂利採取運搬船は自船より少し速力が速く、少しずつ遠ざかる状況に、また貨物船は自船より少し速力が遅く、徐々に後方に離れる状況にあることを知った。
その後、A受審人は、操舵室中央の舵輪後方に立ち、時々左舷側の窓に移動して後方を確認しながら見張りに当たっていたところ、16時29分神戸灯台から165度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首13度2.7海里に、南東進する第二こくど丸被押バージケイアールビー3号(以下「こくど丸被押バージ」という。)を初めて視認したが、まだ距離が遠かったことから、これを一べつしただけで目を離して続航した。

16時31分半少し過ぎA受審人は、神戸灯台から181度1.6海里の地点に差し掛かったとき、こくど丸被押バージがほぼ同方位2.0海里となり、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、前示左右舷近距離のところを西行する同航船に気をとられ、こくど丸被押バージに対する動静監視を十分に行っていなかったので、同船の接近にも、また機関音が大きかったことに加え、操舵室の窓及び扉を閉め切っていたこともあり、こくど丸被押バージが行った警告信号にも気付かず、早期にその進路を避けないで進行した。
16時38分少し過ぎA受審人は、左舷後方の貨物船が気になり、左舷側の窓に移動して同船の動静を確かめたのち、同時39分少し前、前方を振り返ったとき、右舷船首近距離に迫ったこくど丸被押バージを認め、衝突の危険を感じ、急いで舵輪に駆け寄り、手動操舵に切り替えて右舵一杯をとるとともに機関を停止したが及ばず、16時39分神戸灯台から215度2.2海里の地点において、安芸嶋は、265度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その船首がバージケイアールビー3号(以下「バージ」という。)の左舷後部に、前方から38度の角度で衝突した。

当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には微弱な東流があった。
また、第二こくど丸(以下「こくど丸」という。)は、コルトノズル式推進器2基を装備した鋼製押船兼引船で、B受審人ほか5人が乗り組み、埋立用土砂3,073トンを積載して船首尾とも3.9メートルの喫水となった、無人のバージの船尾凹部に船首部をはめ込み、ワイヤロープで連結して全長103メートルとし、船首2.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同日16時20分神戸港第4区の須磨土砂積出桟橋を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港に向かった。
B受審人は、離桟後、須磨土砂積出桟橋の南方沖に設置された2個の灯浮標の間に向けて南下し、両灯浮標の間を通過したのち徐々に左転して、16時26分神戸港外須磨海釣公園塔灯から127度1,250メートルの地点で、針路を113度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.8ノットの対地速力で手動操舵により進行した。

定針したときB受審人は、左舷船首20度3.5海里のところに、西行する安芸嶋のほか、その北及び南側に同航する各1隻の貨物船らしき船を初めて視認し、操舵室中央の舵輪後方に立って見張りと操舵に当たり、これら3隻の西行船の動静を見守りながら続航した。
16時31分半少し過ぎB受審人は、神戸港外須磨海釣公園塔灯から120度1.3海里の地点に達したとき、安芸嶋をほぼ司方位2.0海里に認めるようになり、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを知り、針路、速力を保持して進行した。
B受審人は、16時36分安芸嶋が方位に変化のないまま1,500メートルに近づいたとき、避航を促す目的で、エアホーンにより短音5回の警告信号を行ったところ、間もなく安芸嶋の北側を同航する船が右転し、また左舷側の船も少し左転した様子が見られたことから、安芸嶋もいずれ同じように転針するものと思いながら、用心のため同時37分機関を微速力に減じて続航した。

その後、B受審人は、なおも安芸嶋に避航の気配が見られないまま間近に接近したが、警告信号を行ったので、依然同船が避航動作をとるものと思い、速やかに行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく、再びエアホーンで短音数回を繰り返し吹鳴して進行中、16時38分半安芸嶋が近距離に接近したので、衝突の危険を感じ、機関のクラッチを中立とし、次いで全速力後進にかけるとともに、船首を右に振るつもりで2個のコルトノズルを左に15度としたが及ばず、こくど丸被押バージは、123度に向首したとき、2.0ノットの速力をもって、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、安芸嶋は、船首部に破口と凹損を生じ、また、こくど丸に損傷がなかったものの、バージは、左舷後部外板に破口を生じ、連結ワイヤロープが切断して転覆し、積荷を流失したが、のちそれぞれ修理された。


(航法の適用)
本件は、神戸港西部沖合において、西行する安芸嶋と南東進するこくど丸被押バージとが互いに進路を横切る態勢で衝突したものであるが、適用する航法について検討する。
衝突地点は、神戸港港域外の海上交通安全法の適用海域であるが、同法に適用される航法規定がないので、一般法である海上衝突予防法が適用されることになる。
当時、安芸嶋の右舷側には、長さが安芸嶋と同じくらいの499トン型の砂利採取運搬船が、また左舷側には長さが安芸嶋より少し短い199トン型の貨物船が、それぞれ近距離のところを同航していた。
本件の場合、安芸嶋を含む西行する3隻と南東進するこくど丸被押バージとの関係を1船対1船に還元してみると、西行する3隻はそれぞれ避航義務を負う立場となり、一方、こくど丸被押バージは針路、速力の保持及び衝突を避けるための最善の協力動作の履行義務を負う立場となり、これらの間に相反する動作が要求される状況になかった。

また、安芸嶋の右舷前方を同航する砂利採取運搬船は、安芸嶋より少し速力が速く、少しずつ距離を開きながら遠ざかる状況で、また左舷後方の貨物船は安芸嶋より少し速力が遅く、徐々に後ろに離れる状況であった。
このことから、安芸嶋は、早期に減速するなどして、2隻の同航船と衝突の危険を生じることなく、こくど丸被押バージの進路を避けることができる状況であり、また、こくど丸被押バージも針路、速力の保持及び衝突を避けるための最善の協力動作をとることに支障を来す状況になかったと認められる。
したがって、本件は、海上衝突予防法第15条の横切り船の航法によって律するのが相当である。


(原因)
本件衝突は、神戸港西部沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、安芸嶋が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るこくど丸被押バージの進路を避けなかったことによって発生したが、こくど丸被押バージが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、神戸港西部沖合を西行中、右舷前方に前路を左方に横切る態勢のこくど丸被押バージを視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ距離が遠かったことから、一べつしただけで目を離し、左右舷近距離の同航船に気をとられ、引き続きこくど丸被押バージに対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かないで、こくど丸被押バージの進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、安芸嶋の船首部に破口と凹損を、またバージの左舷後部外板に破口をそれぞれ生じさせてバージを転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、神戸港西部沖合をバージを押して南東進中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する安芸嶋に対し、警告信号を行っても避航の気配がないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、警告信号を行ったので、安芸嶋が避航動作をとるものと思い、速やかに行き脚を止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、バージを転覆させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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