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1999年(平成11年)

平成11年神審第39号
    件名
貨物船第十大栄丸漁船ことぶき衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄
    理事官
野村昌志

    受審人
A 職名:第十大栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:ことぶき船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大栄丸・・・・船首部に擦過傷
ことぶき・・・左舷船首部に亀裂及び擦過傷、左舷後部にも亀裂

    原因
大栄丸・・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ことぶき・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第十大栄丸が、見張り不十分で、錨泊中のことぶきを避けなかったことによって発生したが、ことぶきが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月13日16時00分
瀬戸内海播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十大栄丸 漁船ことぶき
総トン数 498トン 4.6トン
全長 71.04メートル 14.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
第十大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製砂利石材運搬船で、大分県津久見港と大阪港との間で砕石の輸送に従事していたところ、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.7メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成10年5月13日11時45分大阪港を発し、津久見港に向かった。
ところで、大栄丸は、船首甲板中央部に荷役用の旋回式ジブクレーン1基を設け、当時空倉状態であったことから、操舵室舵輪の後方でいすに腰を掛けて見張りに当たったとき、同クレーンの機械室により正船首左右各5度の範囲が死角となり、船首方向の見通しが妨げられる状況となっていた。

A受審人は、船橋当直を乗組員全員による単独3時間交替とし、出航操船に当たったのち甲板員に当直を委ねて降橋し、その後明石海峡東口で再び昇橋して操船の指揮を執り、14時ごろ同海峡西口において当直中の甲板員に当直を引き継ぐことにした。
その際、A受審人は、船首方向に大きく死角を生じて前方の見通しが妨げられる状況にあることを知っていたものの、15時から当直に就く無資格のB指定海難関係人が、船橋当直の経験が長かったことから、改めて注意を与えるまでもないと思い、当直を引き継ぐ甲板員に対し、船首方向の死角を補う見張りを厳重に行うとともに、B指定海難関係人に申し送るよう指示することなく、当直を交替して降橋した。
15時00分B指定海難関係人は、播磨灘航路第4号灯浮標北北東方にあたる、都志港北防波堤灯台から321度(真方位、以下同じ。)8.6海里の地点で、前直の甲板員と交替して単独の船橋当直に就き、引き継いだ248度の針路を保ち、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で、自動操舵により播磨灘推薦航路線の北側をこれに沿って西行した。

B指定海難関係人は、舵輪の後方で高さ約70センチメートルのいすに腰を掛け、時折3海里レンジとしたレーダーを見て見張りに当たっていたところ、右舷船首方に10隻ほどの漁船を認め、やがてこれら漁船群が錨泊しているようで自船の右舷側を無難に替わる状況にあることを知ったものの、航過距離を一層広げるつもりで、15時45分右舷前方の前示漁船群のうち東端の漁船まで1海里ほどに近づいたとき、自動操舵のまま2度左転して246度の針路として進行した。
15時55分B指定海難関係人は、大角鼻灯台から074度7.8海里の地点に達したとき、正船首1,600メートルの、前示漁船群から約1,000メートル南方に離れたところに、錨泊していることぶきを視認できる状況であったが、これら漁船群のほかには前路に支障となる他船はいないものと思い、操舵室内を移動するなど船首方向の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、ことぶきの存在に気付かなかった。

その後、大栄丸は、ことぶきに向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋当直者が、依然として船首方向の死角を補う見張りを十分に行わず、いすに腰を掛けた状態で見張りを続けていて、このことに気付かず、同船を避けないで続航中、16時00分大角鼻灯台から075度6.9海里の地点において、その左舷船首が、ことぶきの左舷船首部に、前方から7度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
B指定海難関係人は、ことぶきとの衝突に気付かずに航行を続けていたところ、追いかけてきた同船の僚船が何か叫んでいることを認めて不審に思い、急いでこのことをA受審人に報告した。
一方、自室で休息中のA受審人は、B指定海難関係人からの報告を受けて昇橋し、やがてことぶきと衝突したことを知り、事後の措置に当たった。

また、ことぶきは、刺し網漁業などに従事するFRP製漁船で、C受審人ほか1人が乗り組み、さわら流し刺し網漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日14時30分香川県小豆島の橘漁港を発し、播磨灘西部の漁場に向かった。
C受審人は、漁場に到着してさわら流し刺し網を仕掛ける場所取りのために待機することとし、15時30分水深約40メートルの前示衝突地点に錨を入れ、錨索を約50メートル延出し、同地点が播磨灘推薦航路線北側の多数の船舶が頻繁に航行する海域であったものの、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、操舵室左舷側後部にある竹製竿の先端に50センチメートル四方の赤色ナイロン製旗を掲げて錨泊を開始した。
錨泊後、C受審人は、しばらくの間周囲を見張っていたが、航行中の他船が錨泊している自船を避けるものと思い、15時45分ごろ舵輪の後ろに設けられた台の上に横になり、周囲の見張りを十分に行わなかった。

15時55分C受審人は、船首が073度に向いているとき、左舷船首7度1,600メートルのところに、西行する大栄丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で自船に向けて接近してきたが、依然として台の上に横になり、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、注意喚起信号を行うことなく錨泊中、16時00分わずか前、大栄丸の機関音を聞き、急いで起き上がり、前方を見たとき至近に迫った同船を認めたがどうすることもできず、ことぶきは、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大栄丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、ことぶきは左舷船首部に亀裂及び擦過傷を、また左舷後部にも亀裂を生じ、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、播磨灘において、西行中の大栄丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のことぶきを避けなかったことによって発生したが、ことぶきが、見張り不十分で、接近する大栄丸に対し、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
大栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対して船首方向の死角を補う見張りを厳重に行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が、死角を補う見張りを厳重に行わなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、明石海峡で操船指揮に当たったのち、同海峡西口において部下の甲板員に船橋当直を引き継ぐ場合、当時空倉で、船首方向に大きく死角を生じて前方の見通しが妨げられる状況であったから、死角を補う見張りを厳重に行うとともに、15時から当直に就く無資格の甲板員に申し送りするよう指示すべき注意義務があった。
ところが、同受審人は、無資格の甲板員が船橋当直の経験が長かったことから、改めて注意を与えるまでもないと思い、当直を引き継ぐ甲板員に対し、船首方向の死角を補う見張りを厳重に行うとともに、無資格の甲板員に申し送りするよう指示しなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のことぶきに向首接近した際、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、大栄丸の船首部に擦過傷を、またことぶきの左舷船首及び後部に亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。

C受審人は、多数の船舶が航行する播磨灘推薦航路線の北側において、さわら流し刺し網を仕掛ける場所取りのため錨泊待機する場合、自船に向けて接近する他船があれば早期に注意喚起信号を行うことができるよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、航行中の他船が錨泊している自船を避けるものと思い、舵輪の後ろに設けられた台の上に横になり、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首接近する大栄丸に気付かず、注意喚起信号を行わずに同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
B指定海難関係人が、単独で船橋当直に当たり、播磨灘を西行中、船首方向の死角を補う見張りを厳重に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


参考図






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