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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月2日01時34分 来島海峡 2 船舶の要目 船種船名
貨物船栄隆丸 貨物船ソンドホ 総トン数 429トン 993トン 全長 71.43メートル 67.50メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 735キロワット
883キロワット 3 事実の経過 栄隆丸は、専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、A受審人及びB受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.80メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成9年4月30日16時00分熊本県長洲港を発し、関門海峡経由で岡山県水島港に向かった。 A受審人は、機関員1人が休暇で下船していたことから、船橋当直を一等航海士及びB受審人の2人に6時間交替で行わせ、自身は機関長と6時間交替で00時及び12時からの機関当直に当たるほか、狭水道及び船舶の輻輳(ふくそう)する海域においては、入直中であっても昇橋のうえ、必要に応じて操船の指揮をとるつもりで瀬戸内海を東行した。 翌々5月2日00時00分B受審人は、安芸灘南航路第3号灯浮標付近で、一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き、やがて昇橋したA受審人から何ら指示がなかったことから、自ら操船して来島海峡航路に入り、南流の初期に中水道を通航した後、01時23分竜神島灯台から278度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、針路を122度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で所定の灯火を表示して手動操舵により進行した。 B受審人は、大島側寄りに航路をほぼこれに沿って東行中、01時25分半左舷側の地蔵鼻に並航したころ、左舷船首33度2.5海里にソンドホ(以下「ソ号」という。)の白、白、緑3灯を初めて視認するとともに、その後方に西行船2隻の各灯火をも認め、同時30分竜神島灯台を左舷側1,050メートルに通過したとき、ソ号を左舷船首34度1.1海里に見るようになった。 この時点で、B受審人は、航路が128度から083度に曲がっている航路の北側屈曲部に差し掛かっており、航路東口の北端に設けられている来島海峡航路第7号灯浮標を目標にその少し南に向けるよう、針路を122度から083度近くまで左に転じることができる状況であった。 しかし、B受審人は、航路東口付近においてソ号及び後続の西行船の前路を横切った後に、左転して海図記載の推薦航路線の南側につけばよいと思い、速やかに左転して航路をできる限り大島側に近寄って航行することなく、同じ針路及び速力のまま続航したため、その後、ソ号と互いに進路が交差する態勢で接近し、その方位がわずかに右方に変わるも、衝突のおそれがあることに気付かなかった。 一方、A受審人は、機関当直中のところ、00時25分安芸灘南航路第4号浮標付近で昇橋し、やがて来島海峡航路に入ったが、自ら操船の指揮をとらないでB受審人に操船を任せ、中水道を通過後、01時28分操舵室前部左舷側でいすに腰を掛けて見張りを行っていたとき、左舷船首35.5度1.7海里にソ号の白、白、緑3灯を初めて視認し、接近してくる同船と航路東口付近で出会うことが予想できる状況であった。 やがてA受審人は、このような状況の下、自船が航路の北側屈曲部を通過した直後、航路を大島側に近寄らないで航行しているのを知ったが、B受審人がそれまで無難に操船していたことから、ソ号を左舷側又は右舷側のいずれかにかわすだろうと思い、速やかに左転して航路をできる限り大島側に近寄って航行するよう、自ら操船の指揮をとることなく、依然B受審人に操船を任せ、いすに腰を掛けて頭を垂れ目を閉じていたので、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。 B受審人は、ソ号が方位にほとんど変化のないまま接近するので不安を感じたが、在橋中のA受審人から何も指示がなかったことから問題ないと思い、速やかに同人に操船の指示を仰ぐことなく、同じ針路のままで続航し、01時32分同船が左舷船首32度1,030メートルにあって、間もなく航路東口のほぼ中央を南西方に斜航して航路に入航する態勢で自船に迫っていたのに、速やかに機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。 その後、B受審人は、01時33分半ソ号が左舷船首方270メートルに近づいたとき、ふと目を開けてこれに気付いたA受審人からの「舵をきれ」との指示により左舵をとり、次いで同人の「右舵」の指示で、右舵一杯としたが及ばず、01時34分航路の中央やや四国寄りの、竜神島灯台から160度1,730メートルの地点において、栄隆丸は、152度を向いたその船首が、原速力のまま、ソ号の右舷前部に後方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風がほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期に属し、付近には0.5ノットの東流があった。 また、ソ号は、船尾船橋型の貨物船で、船長Cほか23人が乗り組み、鉛462トンを載せ、船首3.00メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、同年5月1日15時00分徳島県徳島小松島港を発し、広島県竹原港に向かった。 ところで、C船長は、船橋当直を00時から04時までが甲板長、その後一等航海士及び二等航海士の順による4時間交替の3直制とし、各直に見張員1人又は2人をつけて行わせ、自身は甲板長を指導するため、同人と立直するようにしていた。また、同船長は、これまでに自らの操船により来島海峡航路を何回となく通航した経験があり、南流時に航路に向けて西行する場合、航路東口付近において、航路を大島側に近寄って東行する船舶と、しばしば互いに進路が交差する態勢となりがちであることを知っていた。 発航後、鳴門海峡から播磨灘、備讃瀬戸を経て備後灘に入り、翌2日00時30分高井神島灯台の西方を航行中、C船長は、昇橋して操船の指揮をとり、在橋していた二等航海士を手動操舵に、当直中の甲板長及び甲板員を見張りにそれぞれ当たらせ、海図記載の推薦航路線の北側をこれに沿って西行した。 C船長は、01時16分竜神島灯台から066度4.7海里の地点で備後灘航路第1号灯浮標を左舷側に通過したころ、来島長瀬ノ鼻潮流信号所の電光表示が南流を示していることを知ったが、航路を東行する船舶があれば、航路東口付近において右舷対右舷で航過できるよう、早期に四国側に寄る針路とせず、引き続き針路を236度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で所定の灯火を表示して進行した。 01時29分少し前C船長は、竜神島灯台から108度1,950メートルの地点で、右舷船首32.5度1.5海里に栄隆丸の白、白、紅3灯を初めて視認したが、航路を東行中の同船がいずれ針路を左に転じて大島側に近寄って航行するので、互いに右舷を対して航過できるものと思い、同じ針路のままで続航した。 C船長は、01時30分来島長瀬ノ鼻潮流信号所を右舷側に1,700メートル隔てて並航したとき、針路を229度に転じたところ、航路東口のほぼ中央を南西方に斜航して航路に入る態勢となった。そして、航路を航行する栄隆丸を右舷船首39度1.1海里に見るようになり、その後、大島側に近寄らずに東行する同船とその方位がわずかに右方に変わるも互いに進路が交差する態勢で接近し、衝突のおそれがあったが、そのまま進行した。 こうして、ソ号は、01時32分栄隆丸が右舷船首41度1,030メートルに接近したとき、機関を8.0ノットの半速力に減じたものの、速やかに機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとることなく、間もなく来島海峡航路第7号灯浮標の南580メートルのところで航路に入り、同時33分機関を停止し、同時34分少し前左舵一杯としたが及ばず、船首が222度を向いたとき、約7ノットの速力で、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、栄隆丸は、船首楼ブルワークに凹損を、左舷後部のハンドレールに曲損をそれぞれ生じたが、のち修理された。また、ソ号は右舷前部及び右舷後部外板に凹損を生じた。
(原因) 本件衝突は、夜間、南流時の来島海峡航路において、東行する栄隆丸が、できる限り大島側に近寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、西行するソ号が、航路東口の手前から四国側に寄る針路で航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。 栄隆丸の運航が適切でなかったのは、船長が操船の指揮をとらなかったことと、船橋当直者が船長に操船の指示を仰がなかったこととによるものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、南流時の来島海峡航路において、船橋当直者の操船により航路東口に向けて東行中、左舷船首方からソ号が接近してくる状況の下、自船が大島側に近寄って航行していないのを知った場合、航路をできる限り大島側に近寄って航行するよう、自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、船橋当直者がそれまで無難に操船していたことから、ソ号を左舷側又は右舷側のいずれかにかわすだろうと思い、自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、航路をできる限り大島側に近寄って航行せず、左舷船首方から接近するソ号との衝突を招き、自船の船首楼ブルワークに凹損及び左舷後部のハンドレールに曲損を、ソ号の右舷前部及び右舷後部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、船橋当直に当たり、南流時の来島海峡航路において、航路東口に向けて東行中、西行するソ号が左舷船首方から方位にほとんど変化のないまま接近するので不安を感じた場合、速やかに船長に操船の指示を仰ぐべき注意義務があった。しかるに、同人は、在橋中の船長から何も指示がなかったことから問題ないと思い、速やかに船長に操船の指示を仰がなかった職務上の過失により、ソ号と互いに進路が交差する態勢で接近して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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