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1999年(平成11年)

平成11年横審第36号
    件名
漁船豊丸漁船チンシェンファー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、長浜義昭
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:豊丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
豊丸・・・船首部に破口
チ号・・・右舷側後部に破口、機関室に浸水

    原因
豊丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
チ号・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、豊丸が、見張り不十分で、停留中のチンシェンファーを避けなかったことによって発生したが、チンシェンファーが、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月21日04時40分
紀伊半島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船豊丸 漁船チンシェンファー
総トン数 19トン 48.53トン
全長 15.70メートル
登録長 14.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 400キロワット
3 事実の経過
豊丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.25メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成8年3月9日10時00分和歌山県勝浦港を発し、紀伊半島南方沖合に至って操業を行った。
A受審人は、越えて同月21日00時15分北緯30度57.0分東経136度11.0分の地点で、9回目の操業を終え次の漁場に向け発進し、単独で船橋当直にあたり、動力船の掲げる航海灯を表示し、針路を358度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵とし、折からの東寄りの風を受け、2度ほど左方に圧流されながら、機関を回転数毎分1,100にかけ、7.5ノットの対地速力で進行した。

A受審人は、椅子に座って見張りを行うと船首方に死角が生じることから、操舵室天井の一部を開口して出窓が設けられていたものの、操業を終えたころからレーダーが故障して使用できない状況で、発進時から椅子に座ったまま船橋当直を続けた。
A受審人は、04時30分北緯31度28.8分東経136度08.1分の地点において、正船首1.3海里のところに、甲板上を明るく照射して停留中のチンシェンファー(以下「チ号」という。)を視認することができる状況であったが、外洋であり、所在のわかっている僚船以外に他船はいないものと思い、椅子から立ちあがって出窓から周囲を十分見張ることなく、チ号の存在に気付かないまま、機関室点検のため降橋し、船橋を無人とした。
A受審人は、その後、停留中のチ号に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、船橋を無人として機関室で燃料油の移送作業等を行っていて、このことに気付かず、同船を避けることができないまま続航中、04時40分北緯31度30.0分東経136度08.0分の地点において、豊丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が、チ号の右舷側後部に、直角に衝突した。

当時、天候は曇で風力3の東風が吹き、海上に多少うねりがあり、視界は約3海里であった。
A受審人は、衝突時衝撃を感じたものの、潮目に突っ込んだときの衝撃と思いながら機関室で作業を続け、04時45分作業を終えて甲板上に出たところ、接触した状態のチ号を認めて衝突に初めて気付いた。
また、チ号は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、船長Bほか5人が乗り組み、操業の目的で、同月8日台湾のスーアオ港を発し、日本近海の漁場に至って操業を繰り返した。
B船長は、船橋で見張りを行いながら操業の指揮をとり、同月21日04時16分、北緯31度30.0分東経136度08.1分の地点において、多数の作業等を点じて甲板上を照射し、船首を160度に向けて左舷側から東風を受け、わずかに西方へ圧流されながら、機関を止めて停留していたとき、右舷船首18度3.0海里に豊丸の白灯1個を初めて認め、その動静を監視していたところ、同時30分同方位1.3海里に同船の白、紅、緑3灯を認め、自船に向けて接近し、避航の気配がないことを知ったが、甲板上を照射して停留中の自船を避けるものと思い、警告信号を行わず、そのままの態勢で更に接近したものの、衝突を避けるための措置をとらずに停留を続けた。

B船長は、04時40分少し前ようやく衝突の危険を感じ、機関を前進にかけ、左舵一杯としたが、及ばず、船首を088度に向け、わずかの前進行きあしがついたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、豊丸は、船首部に破口を生じ、チ号は右舷側後部に破口を生じて機関室に浸水したが、豊丸及び巡視船に伴走され自力で勝浦港に至り、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、紀伊半島南方沖合において、豊丸が、漁場移動のため北上する際、見張り不十分で、停留中のチ号を避けなかったことによって発生したが、チ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、紀伊半島南方沖合において、漁場移動のため北上する場合、前路で停留中のチ号を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、外洋であり、所在のわかる僚船以外に付近に他の漁船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、チ号に気付かず、その後船橋を無人として機関室の点検を続け、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に破口を生じ、チ号の右舷側後部に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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