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1999年(平成11年)

平成11年横審第37号
    件名
貨物船第八住徳丸油送船亀宝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、勝又三郎
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:第八住徳丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:亀宝丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
住徳丸・・・右舷船首外板に凹損
亀宝丸・・・右舷船首ブルワークに曲損及び右舷側前部外板に凹損

    原因
住徳丸・・・動静監視不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守
亀宝丸・・・居眠り運航防止措置不十分、行会いの航法(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、第八住徳丸が、動静監視不十分で、針路を右に転じなかったことと、亀宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月29日04時45分
鹿島灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八住徳丸 油送船亀宝丸
総トン数 499トン 495トン
全長 74.993メートル 69.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 1,323キロワット
3 事実の経過
第八住徳丸(以下「住徳丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鉄屑(くず)1,600トンを載せ、船首3.64メートル船尾4.57メートルの喫水をもって、平成10年7月28日17時10分塩釜港仙台区を発し、水島港に向かった。
A受審人は、翌29日03時45分茨城県磯埼灯台から079度(真方位、以下同じ。)18.9海里の地点において、下痢気味のところ、用便を済ませて昇橋し、単独の船橋当直につき、針路を187度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、自動操舵によって進行した。

A受審人は、その後、水分補給と眠気を覚ますためにコーヒーを飲んだところ、再び便意を催し、機関当直中の一等機関士に昇橋を依頼するために船内電話を3回ほどかけたものの、連絡が取れないまま、我慢して当直を続けた。
A受審人は、04時30分磯埼灯台から104度18.1海里の地点に達したとき、レーダーで正船首わずか右5.7海里のところに亀宝丸の映像を初認し、その後同船が反航船であることを知ったものの、腹痛を伴う便意を我慢することができなくなり2層下の便所に行くこととしたが、あらかじめ小角度の右転をしておけば、亀宝丸もやがて針路を右に転じ互いに左舷を対して無難に航過できるものと思い、休息中の船長に連絡し昇橋してもらうなど、動静監視を行う措置をとることなく、同時34分半同灯台から106度18.2海里の地点において、同船のレーダー映像を正船首わずか右4.0海里に認めて、自動操舵のまま針路を190度に転じ、転じた針路を確認する間もなく、船橋を無人として便所に赴いた。

A受審人は、04時37分少し過ぎ磯埼灯台から108度18.3海里の地点において、ほぼ正船首3.0海里に亀宝丸が表示する白、白、紅、緑4灯に加え、ほとんど真向かいに行き会う同船の船影を視認することができ、同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然船橋を無人としたまま便所にいて、このことに気付かず、同船の左舷側を航過するよう、針路を右に転じることができないまま原針路で続航した。
A受審人は、04時45分わずか前用便を済ませて昇橋したところ、正船首至近に迫った亀宝丸を認め、驚いて左舵一杯としたが及ばず、04時45分磯埼灯台から112度18.5海里の地点において、187度に向首して、原速力のままの住徳丸の右舷船首部と、亀宝丸の右舷船首部がほぼ真向かいに衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、日出時刻は04時40分で、視界は良好であった。

また、亀宝丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、B受審人ほか4人が乗り組み、A重油980キロリットルを載せ、船首3.30メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、同月28日17時20分京浜港横浜区を発し、塩釜港塩釜区に向かった。
ところで、亀宝丸の就労体制は、船橋当直が、船長、B受審人及び甲板員の3人による単独の4時間交代制で、当直時間以外には休息をとることができ、昼間のみに行われる荷役の当直が、約1時間半を要する揚荷役及び約2時間を要する積荷役に乗組員全員であたるもので、前々日26日午前から27日朝までの間及び28日昼間に約4時間の各荷役待ちがあって、それらの間全員が休息した。
こうしてB受審人は、出港後19時45分船橋当直を終えて休息し、翌29日03時45分磯埼灯台から141度24.9海里の地点で昇橋し、07時45分までの予定で船橋当直につき、針路を007度に定め、機関を全速力前進にかけて12.5ノットの対地速力とし、自動操舵によって進行した。

B受審人は、04時20分ごろ、気の緩みから眠気を催し、コーヒーを飲んだり濡(ぬ)れタオルで顔をふいたりしながら舵輪後方の椅子(いす)に腰掛けて見張りを行っていたところ、同時30分磯埼灯台から121度19.6海里の地点に達したとき、レーダーで正船首わずか右5.7海里のところに住徳丸の映像を初認し、椅子から立ちあがって双眼鏡で一瞥(いちべつ)したものの、その動静が判別できなかったので、もう少し近づいてから見合い関係を確かめることとし、依然眠気を催していたが、眠気を覚ますためにコーヒーを飲んだりしているので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、船長に連絡し昇橋してもらうなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、再び椅子に腰掛けて続航した。
B受審人は、いつしか居眠りに陥り、04時37分少し過ぎ磯埼灯台から117度19.0海里の地点において、ほぼ正船首3.0海里に住徳丸が表示する白、白、紅、緑4灯に加え、ほとんど真向かいに行き会う同船の船影を視認することができ、同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かず、同船の左舷側を航過するよう、針路を右に転じることができないまま原針路で進行した。

B受審人は、依然居眠りして続航中、原針路、原速力のままの亀宝丸が、前示のとおり衝突し、その衝撃で目覚めた。
衝突の結果、住徳丸は右舷船首外板に凹損を、亀宝丸は右舷船首ブルワークに曲損及び右舷側前部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、鹿島灘において、南下する住徳丸と北上する亀宝丸とが、ほとんと真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、住徳丸が、動静監視不十分で、亀宝丸の左舷側を航過することができるよう針路を右に転じなかったことと、亀宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、住徳丸の左舷側を航過することができるよう針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、鹿島灘において、反航の態勢で接近する亀宝丸のレーダー映像を認め、用便のため船橋を離れる場合、休息中の船長に連絡して昇橋してもらうなど、動静監視を行う措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、あらかじめ小角度の右転をすれば、いずれ亀宝丸も針路を右に転じ互いに左舷を対して無難に航過できるものと思い、船橋を無人にして降橋し、動静監視を行う措置をとらなかった職務上の過失により、同船とほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の左舷側を航過するよう針路を右に転じることができないまま進行し、同船との衝突を招き、自船の右舷船首外板に凹損を、亀宝丸の右舷船首ブルワークに曲損及び右舷側前部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、鹿島灘において、気の緩みから眠気を催した場合、休息中の船長に連絡し昇橋してもらうなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、眠気を覚ますためにコーヒーを飲んだりしているので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、休息中の船長に連絡し昇橋してもらうなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、住徳丸のレーダー映像をほぼ正船首に探知したものの、椅子に腰掛け見張りを続けて居眠りに陥り、その後、同船とほとんど真向かいに行き会い、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の左舷側を航過するよう針路を右に転じることができないまま進行し、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷をそれぞれ生じさせるに至った。

以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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