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1999年(平成11年)

平成11年横審第35号
    件名
貨物船アリゲータ ビクトリィ貨物船キョウワ ハイビスカス衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、長浜義昭、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
    指定海難関係人

    損害
ア号・・・左舷後部外板に凹損
キ号・・・右舷船尾部ランプウェイ付近の外板に亀裂を伴う凹損

    原因
キ号・・・動静監視不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
ア号・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)(一因)

    主文
本件衝突は、浦賀水道航路の屈曲部において、キョウワ ハイビスカスが、動静監視不十分で、同船の右舷側を無難に追い越す態勢で航行中のアリゲータ ビクトリィに対し、右転して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、アリゲータ ビクトリィが、動静監視不十分で、警告信号を行なわず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年2月13日05時08分
東京湾浦賀水道航路
2 船舶の要目
船種船名 貨物船 貨物船
アリゲータ ビクトリィ キョウワ ハイビスカス
総トン数 42,809トン 7,945トン
全長 253.27メートル 117.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 25,080キロワット 3,603キロワット
3 事実の経過
アリゲータ ビクトリィ(以下「ア号」という。)は、船尾船橋型コンテナ船で、パナマ共和国の海技免状を受有するB指定海難関係人ほか日本人船員3人及びフィリピン人船員17人が乗り組み、コンテナ貨物13,046トンを積載し、船首8.20メートル船尾8.93メートルの喫水をもって、平成10年2月12日15時40分名古屋港を発し、京浜港東京区に向かった。
B指定海難関係人は名古屋港出航後船橋に留まり、翌13日02時35分千葉県洲埼南方約20海里の地点で、自ら操船の指揮に当たって北上を続け、03時35分洲埼灯台の西方約2.5海里の地点で、航行中の動力船が表示する灯火に加えて巨大船が表示する緑色閃光灯を点灯し、減速しながら横須賀水先区水先人乗船地点に向けて進行した。

04時40分B指定海難関係人は、浦賀水道航路中央第1号灯浮標(以下、浦賀水道航路の各号灯浮標名については「浦賀水道航路」を省略する。)南方約2海里の地点でA指定海難関係人を乗せ、先航船の状況等を伝え、同人の要請により速力を13ノットにするよう操船補佐の一等航海士に指示し、A指定海難関係人に操船を委ねた。
04時53分B指定海難関係人は、ア号が同日20時に北米に向けて発航する予定のため、北太平洋の気象状況が気になり、操船を水先人に任せておいて大丈夫と思い、水先人に適切な操船指揮ができるよう在橋せず、船橋左舷後部の無線室に入って気象資料の入手作業を始めた。

A指定海難関係人は、航路に入航したとき、左舷船首13度1,050メートルのところに航路内を同航するキョウワ ハイビスカス(以下「キ号」という。)を視認し、05時00分左舷船首19度650メートルに接近したので、進路警戒船を介して同船の行き先等予定を尋ねたところ、京浜港横浜区に向かい、予定時刻に余裕があるので減速航行中であることを知り、同船に航路の左寄りを航行してもらい、右舷側を追い越す旨を伝えて同意を得た。
05時04分半A指定海難関係人は、中央第2号灯浮標を左舷船首38度970メートルに認めるようになったとき、左舷船首52度300メートルに見るキ号が航路の屈曲部に差しかかり、航路の左側に寄るために左転し、その方位が左に替わるのを認め、自船も左転を開始することとし、同時05分針路350度、同時06分少し前340度と順次操舵手に針路を令して航路に沿って進行したが、その後自船が航路の右側線の外に出るかどうか気にかかり、一等航海士にレーダーでキ号の動静監視を行なわせるなり、自らも目視などによるなどして、キ号に対する動静監視を十分に行なわず、船橋の右舷側ウイングに出て第4号灯浮標の替わり方を見ていたので、そのうちキ号が中央第2号灯浮標を通過した後も自船の前路に向けて右転を続け、新たな衝突のおそれがある態勢となったことに気付かず、警告信号を行なうことなく、同時06分半針路330度を令し、衝突を避けるための措置をとらないまま航路の屈曲部で左転を続け、同時07分少し過ぎに針路が330度となったとき船橋中央に戻り、左舷側至近に迫るキ号の船影に気付き、同時07分半右舵一杯を令するとともに、一等航海士が汽笛による連続する短音を吹鳴したが及ばず、05時08分観音埼灯台から082度3,060メートルの地点において、ア号は、右回頭を始めて345度に向首したとき、原速力のままその左舷後部が、キ号の右舷船尾部に前方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、浦賀水道には約1ノットの北流があった。
B指定海難関係人は、汽笛を聞いて船橋に戻って衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、キ号は、上甲板上左舷側に2基の大型ジブクレーンを、右舷船尾部にランプウェイをそれぞれ装備した、船尾船橋型のロールオンロールオフ式貨物船で、パナマ共和国の海技免状を受有するC指定海難関係人ほか日本人船員1人及びフィリピン人船員16人が乗り組み、コンテナ136個、車両135台及び雑貨を積載し、船首5.30メートル船尾6.29メートルの喫水をもって、同月12日14時30分名古屋港を発し、京浜港横浜区に向かった。

C指定海難関係人は、翌13日04時45分航路入口の南方1.6海里の地点で昇橋し、自船の航行中の動力船が表示する灯火を確認して自ら操船指揮に当たり、入港時間調整のために減速しながら、一等航海士を補佐に、操舵手を手動操舵にそれぞれ就けて北上し、同時52分第2号灯浮標から270度480メートルの地点で、航路に入航し、針路を000度に定め、機関を半速力前進にかけ、北方に流れる潮流に乗じて11.3ノットの対地速力で続航した。
C指定海難関係人は、05時00分一等航海士からの後方に大型船が同航している旨の報告を受け、船橋の左舷側ウィングに出て後方を見たところ右舷船尾20度650メートルに白、白、紅3灯と大型船の船影を認め、その後進路警戒船を介したア号からの連絡で、同船が右舷側を追い越すこと及び自船が航路の左側に寄ることに同意し、同時04分右舷船尾36度320メートルに接近したア号を認め、航路の屈曲部に近づいたので、中央第2号灯浮標を確認しないまま左舵10度として航路の左側に寄り始め、同時05分少し過ぎ左舷船首3度400メートルばかりに、それまで左舷側のクレーンの蔭で見えなかった中央第2号灯浮標を視認したが、突然船首方に見えた同灯浮標を避けることに気を奪われ、ア号に対する動静監視を十分に行なわず、舵中央に次いで右舵5度を令して右転を始めた。
C指定海難関係人は、05時05分半再びクレーンの蔭で見えなくなった中央第2号灯浮標を探し、このとき右舷側を追い越した小型の船舶に気付き、この船に接近すると困ることもあって、依然ア号に対する動静監視を十分に行なわず、中央第2号灯浮標を通過した後も小型の船舶から離れるつもりで右転を続け、このころ右舷側を無難に追い越す態勢であったア号に対し、針路が交差する態勢となり、新たな衝突のおそれのある態勢を生じさせたことに気付かず、その後も小型の船舶を見守ったまま右転を続け、同時07分半右舷側至近に迫ったア号に気付き、左舵一杯としたが及ばず、キ号は、原速力のまま330度を向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ア号は左舷後部外板に凹損を、キ号は右舷船尾部ランプウェイ付近の外板に亀裂(きれつ)を伴う凹損を生じたが、両船とも自力で目的地に入港し、のちいずれも修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、両船が浦賀水道航路を北上中、その屈曲部において、追い越しに同意したキ号が、航路の左側に寄せて進行中、中央第2号灯浮標との距離を保つために右転した際、動静監視不十分で、右舷側を無難に追い越す態勢で航行中のア号に対し、右転を続けて新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、ア号が、屈曲部で右転したキ号に対する動静監視不十分で、警告信号を行なわず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(指定海難関係人の所為)
C指定海難関係人が、夜間、浦賀水道航路の屈曲部において航路の左側に寄せた後、中央第2号灯浮標との距離を保つために右転した際、自船を追い越すことに同意し、右舷側を無難に追い越す態勢で航行中のア号に対する動静監視を十分に行なわず、同灯浮標を通過して左転することなく右転を続け、新たな衝突のおそれを生じさせたことは、本件発生の原因となる。C指定海難関係人に対しては勧告しない。
A指定海難関係人が、夜間、浦賀水道航路の屈曲部において、追い越しの同意を得たキ号が左転するのを認め、自船も左転を開始した際、キ号に対する動静監視を十分に行なわず、その後右転して新たな衝突のおそれを生じさせたキ号に対し、警告信号を行なわず、大角度の右転をするなと衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。A指定海難関係人に対しては勧告しない。



よって主文のとおり裁決する。

参考図






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