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1999年(平成11年)

平成11年仙審第36号
    件名
漁船第三清竜丸漁船第二十一清水丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年11月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、高橋昭雄、上野延之
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第三清竜丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第二十一清水丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
清竜丸・・・左舷船首外板を凹損
清水丸・・・船首部に破口を伴う損傷

    原因
清水丸・・・居眠り運航防止措置不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
清竜丸・・・警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第二十一清水丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁撈に従事している第三清竜丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三清竜丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月27日16時15分
金華山東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三清竜丸 漁船第二十一清水丸
総トン数 30トン 19トン
全長 20.68メートル 25.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット 573キロワット
3 事実の経過
第三清竜丸(以下「晴竜丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.9メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成10年9月26日01時30分宮城県女川漁港を発し、同県金華山東方沖合約10海里の漁場に向かい、03時33分金華山灯台から025度(真方位、以下同じ。)10.0海里の地点で、所定の灯火及び形象物を表示して操業を開始した。
A受審人は、翌日23時に女川漁港に帰航するまでの2日間に前示漁場で9回の曳網を行う予定とし、船橋当直を自らが昼間、甲板長が夜間の単独2直制を採り、長さ30メートルの底びき網本体にオッターボードを介して接続した全長700メートルのワープ等の索具を船尾左右からそれぞれ延出し、南北方向に曳網を繰り返しながら徐々に東方に移動した。

翌27日13時41分A受審人は、金華山灯台から101度10.2海里の地点で8回目の曳網を開始し、針路を000度に定め、機関を全速力前進より少し落とした回転数毎分830にかけ、2.5ノットの対地速力で曳網しながら、自動操舵により進行した。
15時55分A受審人は、金華山灯台から070度10.8海里の地点に差し掛かったとき、レーダーにより左舷船首70度5海里のところに第二十一清水丸(以下「清水丸」という。)の映像を初めて探知し、16時05分同方位2.6海里に同船を認めるようになったとき、2隻のいか釣り船が相前後して曳網中の自船の前路及び後方を無難に航過して行った。
16時10分A受審人は、金華山灯台から067度11.0海里の地点に達したとき、同方位1.3海里に清水丸を認めるようになり、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近したが、漁船は近づいてから避航動作をとることが多いので、いずれ清水丸も自船が所定の形象物を表示してトロールにより漁撈に従事していることが分かり、自船の進路を避けて行くものと思い、警告信号を行うことなく、引き続き同船を見ながら曳網を続行中、同時15分少し前清水丸が避航動作をとらずに直進して100メートルに接近したとき、ようやく衝突の危険を感じて減速したが効なく、16時15分金華山灯台から066度11.1海里の地点において、原針路のまま約1.0ノットの対地速力に落ちたとき、清水丸の船首が、清竜丸の左舷船首部に前方から80度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
また、清水丸は、操舵室が中央にあるFRP製漁船で、B受審人及び息子の甲板員Cほか1人が乗り組み、あかいか釣り漁の目的で、船首0.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同月27日15時20分宮城県泊(大原)漁港を発し、同時に出漁した数隻の僚船とともに、金華山東方沖合約30海里のいか釣り漁場に向かった。
ところで、清水丸は、3月から5月の期間おきあみ中層ひき網漁、6月から10月の期間いか釣り漁及び10月から翌年2月の期間たら底延縄漁に周年にわたって従事する小型第1種漁船で、B受審人は、いか釣り漁の期間は時化の休漁日を除き、魚市場が休場する毎週日曜日の前夜には出漁せずに休業日としていたが、出漁日には午後出港して翌朝入港し、水揚げののち07時ごろ帰宅して09時ごろから14時ごろまで休息することができたものの、十分に疲労が回復しないまま再び出港するという毎日を繰り返していたので、知らぬ間に疲労が蓄積している状態で、休業日となる土曜日には同業種船も休業日となり、いろいろな会合が催されることから連続した休息を取ることができなかった。

15時55分B受審人は、金華山灯台から045度7.5海里の地点で、単独の船橋当直に就き、針路を100度に定め、機関を全速力前進にかけて14.8ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
B受審人は、操舵室中央の操舵スタンド後方に固定されたいすに腰掛けて前路の見張りに当たり、ときどき1.5海里レンジに設定した同室左舷舷側にあるレーダーを監視しながら続航するうち、海上が平穏で視界も良い単調な環境条件の中で、周囲にもレーダ映像にも同航する僚船以外に他船を認めなかったことから気が緩み、蓄積した疲労もあって居眠りに陥るおそれがあったが、前日が休業日で十分休息を取っていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、いすから立ち上がって操舵室内を移動したりして視界が制限されているときや他船が多いときのように気を引き締めて当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けたまま進行するうち、いつしか居眠りに陥った。

16時10分清水丸は、金華山灯台から062度10.1海里の地点に達したとき、右舷船首10度1.3海里に所定の形象物を表示してトロールによる漁撈に従事している清竜丸を視認することができる状況となり、その後同船の方位に明確な変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近したが、B受審人が居眠りに陥っていてこのことに気づかず、清竜丸の進路を避けないで進行中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、清竜丸は左舷船首外板を凹損し、清水丸は船首部に破口を伴う損傷を生じたが、のちそれぞれ修理された。


(原因)
本件衝突は、金華山東方沖合において、漁場に向けて東行中の清水丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁撈に従事している清竜丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清竜丸が、接近する清水丸に対して警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
B受審人は、金華山東方沖合において、漁場に向けて東行中、単独で船橋当直に当たる場合、居眠り運航にならないよう、いすから立ち上がって操舵室内を移動したり、視界が制限されているときや他船が多いときのように気を引き締めて当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、前日が休業日で休息を取っていたので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたまま当直を続けているうちに、周囲にもレーダー映像にも同航する僚船以外に他船が見当たらなかったことから気が緩んで居眠りに陥り、トロールにより漁撈に従事している清竜丸の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、清竜丸の左舷船首外板に凹損及び清水丸の船首部に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、金華山東方沖合において、底びき網を曳網しながら北上中、衝突のおそれがある態勢で接近する清水丸を認めた場合、避航を促すよう警告信号を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、漁船は近づいてから避航動作をとることが多いので、いずれ清水丸も自船が所定の形象物を表示してトロールにより漁撈に従事していることが分かり、自船の進路を避けて行くものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、そのまま曳網を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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