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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月4日16時20分 長崎県壱岐島南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船金比羅丸 漁船光栄丸 総トン数 4.87トン 4.8トン 登録長 10.10メートル 11.15メートル 機関の種類
ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 50 出力
220キロワット 3 事実の経過 金比羅丸は、はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、たいはえ縄漁を行う目的で、船首0.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成9年6月4日01時00分佐賀県波多津漁港を発し、途中、同県高串漁港に寄せて餌を購入したのち、長崎県壱岐郡大島西方沖合の漁場に向かった。 06時30分ごろA受審人は、壱岐長島灯台から285度(真方位、以下同じ。)3.4海里ばかりの漁場に着いて操業の準備にかかり、07時ごろ針路を潮流の方向に沿うほぼ西南西に向けて約2.5ノットの前進速力で船尾からはえ縄の投入作業を始め、1鉢と称する長さが1,000メートルのはえ縄をつなぎながら、8鉢投入して08時30分ごろ同作業を終え、その後、食事をとったり、揚げ縄作業の準備をしたりしたのち、09時30分同灯台から265度7.4海里の地点で、漁ろうに従事中の形象物を掲げないまま、船尾に白色のスパンカを展張して同作業を始め、常に幹縄を右舷前方に見るように適宜機関と舵を使用しながら、平均0.4ノットの揚げ縄速力で同作業を続けた。 16時18分A受審人は、壱岐長島灯台から274度4.9海里の地点で、船首を左右に大きく振りながら揚げ縄作業に従事していたとき、左舷船首方1,000メートルのところに、衝突のおそれがある態勢で、自船に向首接近する光栄丸を視認できる状況にあったが、航行中の他船は漁ろう中の自船を避けて行くものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、船首部右舷側に設置したラインホーラーの後方に座り、幹縄の方向に注意を払いながら、同縄をかごに入れていたので、接近する光栄丸に気付かなかった。 A受審人は、光栄丸に対して警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもできないまま揚げ縄作業中、衝突する直前に左舷船首至近に迫った光栄丸を視認したが、何をする暇もなく、16時20分壱岐長島灯台から274度4.9海里の地点において、ほぼ平島に向首する112度に向いたとき、金比羅丸の左舷側前部外板に、光栄丸の船首部が前方から70度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。 また、光栄丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人と同人の息子1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、同日15時30分長崎県勝本港を発し、五島列島西方沖合の漁場に向かった。 15時46分B受審人は、手長島灯台から334度900メートルの地点に達したとき、針路を222度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて16.0ノットの対地速力で進行し、16時10分壱岐長島灯台から307度3.8海里の地点に達したとき、操舵を息子から引き継ぐことにし、全速力で航行すると船首が浮上して死角を生じ、椅子に腰を掛けたまま操船すると前路の見通しを妨げる状況となることを知っていたものの、一度立ち上がって前路の状況をいちべつしただけで周囲には他船がいないものと思い、レーダーを使用するなどして周囲の状況を注意深く確かめず、操舵を交替するにあたってほぼ正船首方2.6海里のところで漁ろう中の金比羅丸を見落としたまま、再び椅子に座わり、その後、船首部を左右に振るとか、椅子から立ち上がるとかするなどの船首の死角を補う見張りを行わず、小値賀漁業協同組合が発行したいかの価格表を見ながら続航した。 16時18分B受審人は、壱岐長島灯台から279度4.6海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方1,000メートルのところにスパンカを展張してほとんど停留した状態で漁ろう中の金比羅丸を視認でき、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で著しく接近する状況となったが、依然椅子に腰を掛けたまま、いかの価格表を見ていて、周囲の見張りを十分に行うことなく、金比羅丸の進路を避けないで進行中、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、金比羅丸は、左舷側前部外板に破口などを生じたほか、魚倉及び機関室に浸水し、修理費の関係で廃船とされたが、光栄丸は、船首部船底に亀裂を生じ、のち修理された。
(原因) 本件衝突は、長崎県壱岐郡大島西方沖合において、光栄丸が、見張り不十分で、漁ろう中の金出羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、長崎県壱岐郡大島西方沖合において、漁場に向けて航行中、息子から操舵を引き継いだ場合、船首部に死角を生じた状態で航行していたのであるから、前路で漁ろう中の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るとか、椅子から立ち上がるとかするなどの周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵を引き継いだ際、一度椅子から立ち上がって前路をいちべつしただけで前路に他船はいないものと思い、椅子に腰掛けたまま、いかの価格表を見ていて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でスパンカを展張して漁ろう中の金比羅丸の進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、自船の船首部船底に亀裂を生じ、金比羅丸の船首部に破口を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 A受審人は、長崎県壱岐郡大島西方沖合の漁場において、はえ縄の揚げ縄作業に従事する場合、自船に著しく接近する態勢の他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行中の他船は漁ろう中の自船を避けて行くものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する光栄丸に気付かないまま、揚げ縄作業を続けていて同船との衝突を招き、前示損傷を被るに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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