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1999年(平成11年)

平成11年長審第26号
    件名
漁船義福丸岩場衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年10月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
畑中美秀

    受審人
A 職名:義福丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を圧壊、船長が、全治12日間の頭部打撲及び同部挫創

    原因
船位確認不十分

    主文
本件岩場衝突は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月4日04時20分
長崎県平戸島南方沖合帆上ノ瀬
2 船舶の要目
船種船名 漁船義福丸
総トン数 4.9トン
登録長 12.45メートル
幅 2.63メートル
深さ 0.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
義福丸は、専らいか一本釣り漁業に従事し、船体中央からやや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が同人の父と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成10年7月3日17時ごろ係留地の長崎県高島漁港を発し、平戸島南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、海技免状を受有する父を甲板員として同乗させていたが、高齢ということもあって同人には操船をさせずに操業時の手伝いに専念させ、往復航とも自らが操船に当たっており、夕刻出漁して日没前に漁場に至って操業を行い、日出前操業を切り上げて高島漁港に帰航し、同漁港において早朝水揚げを行うということを、天候が許せば毎日のように繰り返していた。

ところで、発航地点から漁場に向かう途上には灯火のない帆上ノ瀬が存在し、同瀬は、高さ27メートルで海面上に屹立(きつりつ)し、その周囲の水深は深く、四方の陸岸や島々から孤立して存在するため、顕著な目標となる反面、夜間や視界が制限されている状態で、かつ、この存在を探知できる手段がないときには障害物となるおそれがあるが、A受審人は、平素漁場への往航の際は同瀬を肉眼で確認したのち漁場に向かい、復航の際はGPSプロッターで遠方の船首目標を、レーダーで近くの他船や障害物をそれぞれ確かめながら帰航していた。
18時30分A受審人は、平戸島南端付近の尾上島灯台から190度(真方位、以下同じ。)6海里ばかりの漁場に至り、漂泊しながら夜間操業を行い、いか約24キログラムを獲たところで漁を切り上げ、翌4日03時50分ごろ漁を切り上げた地点から帰途に就くこととしたが、漠然と操業中に南方に圧流されたと思い込んでいたので、同地点を発進してGPSに記憶させた黒島西端付近の平瀬北方500メートルの通過予定地点に直接向かえば、帆上ノ瀬と伏瀬間を難なく航行できるものと思い、周囲の航路標識の方位を測定したり、GPSプロッターを活用したりして発進地点を確かめるなど、船位の確認を十分に行うことなく、操業中、北方に圧流されていたことに気付かないまま、同時54分尾上島灯台から200度5.8海里の地点を発進した。

発進したときA受審人は、針路をGPSプロッターに表示させた平瀬北方の通過予定地点に向かう071度に定め、機関を全速力前進にかけて15.0ノットの対地速力とし、父を操舵室後部に後ろ向きに腰掛けさせ、自らは操舵室右舷側の操縦席に腰掛け、GPSプロッターに20海里ばかりの範囲の海域を表示させ、レーダーを0.5海里レンジとしてこれらを監視しながら手動操舵により進行し、帆上ノ瀬に向首していることに気付かないまま続航した。
04時15分ごろA受審人は、数隻の操業漁船の近くを通航した際、それらの映像がレーダー画面に出ておらず、レーダーの調子が良くないことに気付き、同時18分帆上ノ瀬に向首したまま0.5海里まで接近したものの、同瀬の南方を東行しているものと思い込んでいたので、あらためて船位の確認を行うことにも思い及ばず、GPSプロッター上で船首目標とした平瀬北方の通過予定地点に向けたまま、レーダー画面の調整を行いながら、依然として帆上ノ瀬に向首していることに気付かないで進行した。

こうして義福丸は、原針路、原速力のまま続航中、04時20分尾上島灯台から128度5.4海里の帆上ノ瀬西側の岩場に、その船首部が衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮期にあたり、視界は良好で日出は05時17分であった。
衝突の結果、船首部を圧壊したほか、A受審人が、全治12日間の頭部打撲及び同部挫創などを負った。


(原因)
本件岩場衝突は、夜間、長崎県平戸島南方沖合から帰航のために漁場を発進する際、船位の確認が不十分で、帆上ノ瀬に向首したまま進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県平戸島南方沖合の漁場において、漂泊して操業を行ったのち、帰途に就こうと発進する場合、その途上には灯火のない帆上ノ瀬があるから、同瀬に著しく接近することのないよう、周囲の航路標識の方位を測定したり、GPSを活用したりして発進地点を確かめるなどの船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操業中に南方に圧流されたと思い込んでいたので、発進後GPSに記憶させた平瀬北方の通過予定地点に直接向かえば、帆上ノ瀬と伏瀬間を難なく航行できるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、その後レーダーの故障もあって帆上ノ瀬に向首していることに気付かないまま進行して同瀬との衝突を招き、船首圧壊などを生じさせ、自らは頭部打撲傷などを負うに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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