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1999年(平成11年)

平成11年横審第83号
    件名
遊漁船第二田村丸プレジャーボートエー衝突事件(簡易)

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士
    理事官
河野守

    受審人
A 職名:第二田村丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:エー船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
田村丸・・・船首部外板に擦過傷
エー・・・右舷中央部のガンネル圧壊、マスト等に損傷、同乗者1人が右肩関節等に打撲傷

    原因
田村丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
エー・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二田村丸が、見張り不十分で、漂泊中のエーを避けなかったことによって発生したが、エーが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年5月3日12時30分
京浜港横浜第5区
2 船舶の要目

船種船名 遊漁船第二田村丸 プレジャーボートエー
総トン数 11.73トン
全長 16.74メートル 5.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 169キロワット 29キロワット

3 事実の経過
第二田村丸(以下「田村丸」という。)は、最大搭載人員31人の船体中央部よりやや後方に操舵室を有するFRP製遊漁船兼作業船で、A受審人が単独で乗り組み、釣り客4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.60メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、平成11年5月3日08時00分京浜港横浜第5区(以下「横浜第5区」という。)の根岸湾奥にある磯子根岸釣船センター協同組合の船着場を発し、横浜第5区内の釣り場に向かった。
ところで、田村丸の船首には張出し部があり、船首両舷各15度の死角があるので、A受審人は、死角を補うため、平素航行中は操舵室にある高さ40センチメートルほどの木箱の上に立ち、高い位置で見張りを行っていた。
08時30分A受審人は、横浜金沢木材ふとう東防波堤灯台付近に至り、漂泊しながら遊漁を始め、釣り客の釣果を見て適宜釣り場を移動しながら南下し、12時ごろ横浜第5区3号地の東方沖合にあたる横須賀港東防波堤北灯台(以下「東防波堤北灯台」という。)から003度(真方位、以下同じ。)1,900メートルばかりの地点に至り、船首を風上に向け、機関をアイドリング回転のままでクラッチを切って漂泊し、釣り客に遊漁を行わせ、その間は操舵室で釣り客の状況を見ながら適宜機関の操作と周囲の見張りを行い、15分ばかり過ぎたところで潮まわりと称し、機関をアイドリング回転のままクラッチを入れてゆっくり元のところに戻るという要領で、釣り客に遊漁を続けさせていた。

A受審人は、この釣り場で2回目の潮まわりを行うこととして釣り客に釣り竿を揚げさせ、12時29分東防波堤北灯台から003度2,250メートルの地点で、針路を風上にある造船所の門型クレーンに向首する193度に定めて発進することとしたが、前路近くに他船はいないものと思い、発進前に木箱の上に立つなどして周囲の見張りを十分に行うことなく、機関をアイドリング回転のままクラッチを前進側に入れ、2.0ノットの対地速力で発進した。
こうして、A受審人は、発進時、正船首方60メートルのところで漂泊して遊漁中のエーが船首死角に入っていてこれを見落としたまま進行し、12時30分わずか前、船首にいた釣り客の知らせで同船に初めて気付き、クラッチを後進に入れたが、間に合わず、12時30分東防波堤北灯台から004度2,190メートルの地点において、原針路、原速力のままの田村丸の船首が、エーの右舷中央部に直角で衝突した。

当時、天候は晴で風力2の南南西の風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
また、エーは、最大搭載人員6人の船体中央部よりやや後方に操縦席を有するFRP製プレジャーモーターボートで、B受審人が単独で乗り組み、同乗者4人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.25メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同日10時30分横浜第5区南西端の平潟湾にある係留地を発し、途中で船宿に寄ってえさや氷を購入し、横浜第5区3号地東方沖合で釣れているとの情報を得て同海域に向かった。
11時30分ごろB受審人は、3号地東方沖合海域の北側にあたる、東防波堤灯台から002度3,260メートルばかりの地点に至り、釣り場として水深11メートルのところに錨泊する予定で、操縦席の左舷側にある魚群探知機を見ながら、機関をアイドリング回転としてゆっくりと南下し、12時15分同灯台から004度2,080メートルの地点で、機関を停止して漂泊を始めた。

B受審人は、同乗者に釣りを始めさせ、自らは時々周囲を見ながら魚群探知機で水深11メートルの地点を探し、風潮流により北方に0.2ノットの対地速力で極ゆっくりと流されるまま12時29分前示衝突地点付近に至り、風を左舷正横から受ける283度に向首していたとき、右舷正横60メートルのところから田村丸が自船に向かって発進し、その後、田村丸が衝突のおそれのある態勢で接近したが、自船は漂泊して釣りをしており、航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わず、魚群探知機を見続けて田村丸に気付かず、機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中、同時30分少し前、ふと頭を上げたとき、右舷正横至近に同船の船首を認めたが、何もできず、283度に向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、田村丸は、船首部外板に擦過傷を生じたのみであったが、エーは、右舷中央部のガンネルが圧壊し、マスト等に損傷を生じ、のち修理され、エーの同乗者1人が右肩関節等に打撲傷を負った。


(原因)
本件衝突は、横浜第5区3号地東方沖合の釣り場において、田村丸が、潮まわりのために発進する際、発進前の見張りが不十分で、漂泊中のエーを避けなかったことによって発生したが、エーが見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、横浜第5区3号地東方沖合の釣り場において、遊漁中、潮まわりのために機関をアイドリング回転にして発進する場合、船首に死角があったのであるから、漂泊中のエーを見落とすことのないよう、発進前に操舵室内の木箱の上に立ち、高い位置で見張りを行うなどして、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首死角に入っていたエーを見落とし、同船と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、田村丸の船首部外板に擦過傷を、エーの右舷中央部のガンネルに圧壊、マスト等に損傷をそれぞれ生じさせ、また、エーの同乗者1人が右肩関節等に打撲傷を負うに至った。
B受審人は、横浜第5区3号地東方沖合の釣り場において、漂泊して遊漁を行う場合、自船に向首してくる田村丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、自船は漂泊して釣りをしており、航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、田村丸を見落としたまま、機関を前進にかけるなどして、衝突を避けるための措置をとらず、漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。


参考図






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