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1999年(平成11年)

平成11年横審第90号
    件名
漁船第六十八長功丸漁船第三十一寶來丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第六十八長功丸一等航海士兼漁労長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第三十一寶來丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
長功丸・・・左舷船首圧壊
寶來丸・・・右舷船首圧壊

    原因
長功丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
寶來丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第六十八長功丸が、動静監視不十分で、漂泊中の第三十一寶來丸を避けなかったことによって発生したが、第三十一寶來丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月26日10時45分(船内使用時)
北太平洋
2 船舶の要目

船種船名 漁船第六十八長功丸 漁船第三十一寶來丸
総トン数 314トン 276トン
全長 67.86メートル 60.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 713キロワット
3 事実の経過
第六十八長功丸(以下「長功丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほかフィリピン人船員7人、インドネシア人船員2人を含む19人が乗り組み、操業の目的で、船首2.80メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成10年5月24日13時00分(日本標準時、以下特記するもの以外は日本標準時に3時間を加えた船内使用時である。)青森県八戸港を発し、6月5日北太平洋の漁場に至って操業を開始し、適宜漁場を移動しながら操業を繰り返した。
A受審人は、越えて8月26日09時10分北緯45度41分東経177度17分の地点において、漁場を移動することとして発進し、単独で船橋当直にあたり、自動操舵で適水のため適宜針路を変えながら東南東方に向け、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で進行していたところ、10時15分左舷前方4.5海里付近に第三十一寶來丸(以下「寶來丸」という。)を初めて視認した。

A受審人は、その後も適水を続け、10時35分北緯45度37.3分東経177度31.6分の地点において、針路を090度(真方位、以下同じ。)に定めたところ、左舷船首4度2.0海里に船首を南方に向けた寶來丸を視認し、備え付けの大型双眼鏡でその船首方にオレンジ色球形ブイを認め、同船がシーアンカーを投じて漂泊中であることを知ったが、そのまま左舷側に離して航過できるものと思い、その後の動静監視を行うことなく、用便のため降橋し、船橋を無人とした。
A受審人は、その後、折からの南寄りの風を受け、3度ほど左方に圧流されながら、漂泊中の寶來丸に向首して衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然、船橋を無人としていて、このことに気付かず、同船を避けることができないまま進行し、10時45分わずか前、用便を終え船橋に戻ったところ、左舷船首至近に寶來丸を認めて驚き、機関を中立にしたものの、効なく、10時45分北緯45度37.4分東経177度34.5分の地点において、原針路、原速力のまま、長功丸の左舷船首が、寶來丸の右舷船首に、前方から67度の角度で衝突した。

当時、天候は曇で風力3の南南西風が次き、海上に多少うねりがあり、視界は良好であった。
また、寶來丸は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか10人が乗り組み、操業の目的で、同月9日12時30分(日本標準時)八戸港を発し、越えて14日北太平洋の漁場に至って操業を開始し、適宜漁場を移動しながら操業を繰り返した。
B受審人は、25日19時20分いか一本釣り漁船が3海里以上隔てて散在する前示衝突地点付近の海域で、機関を停止し、直径1.8メートルのオレンジ色球形ブイを付けた直径46メートルのパラシュート型シーアンカーを船首より投じ、錨索を約50メートル延出して船首を風に立て、水中灯1個を水深約300メートルまで沈め、両舷側に設置した44台の自動いか釣り機を作動させて操業を再開し、単独で船橋において操業の指揮にあたっていたところ、翌26日10時35分船首が203度に向いて右舷船首64度2.0海里に東行中の長功丸を視認できたが、接近する他船があれば漂泊中の自船を避けるものと思い、時々作動中のレーダーを見るなり、周囲を見渡すなりして見張りを十分に行わず、長功丸に気付かなかった。

B受審人は、その後、長功丸が自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で、避航の気配がないまま接近したが、依然、このことに気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続けた。
B受審人は、10時45分少し前、ふと周囲を見渡して右舷船首至近に接近した長功丸に初めて気付き、衝突の危険を感じたものの、短音1回を吹鳴しただけで、どうすることもできず、船首が203度に向き、漂泊したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長功丸は左舷船首を圧壊し、寶來丸は右舷船首を圧壊したが、いずれも自力で八戸港に至り、のち修理された。


(原因)
本件衝突は、北太平洋において、漁場移動のため東行中の長功丸が、動静監視不十分で、シーアンカーを投じて漂泊している寶來丸を避けなかったことによって発生したが、寶來丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、北太平洋において、漁場移動のため適水しながら東行中、シーアンカー用のオレンジ色球形ブイを投じて漂泊している寶來丸を認めた場合、衝突のおそれがあるか判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同船を左舷船首方に認めたことから、そのままの針路でかわるものと思い、用便のため降橋し、船橋を無人としてその動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、寶來丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首を圧壊し、寶來丸の右舷船首を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海灘審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人は、北太平洋において、いか一本釣り漁業を行うため、シーアンカーを投じて漂泊する場合、衝突のおそれがある態勢で接近する長功丸を見落とさないよう、時々作動中のレーダーを見るなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近する他船があれば大型のシーアンカー用オレンジ色球形ブイを投じて漂泊中の自船を避航してくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、長功丸に気付かず、自船に向首接近する長功丸に対して警告信号を行うことなく漂泊を続けて衝突を招き、両船にそれぞれ前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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