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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月14日12時10分 千葉県九十九里浜沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三 八幡丸 遊漁船直栄丸 総トン数 19.99トン 18.00トン 全長
20.55メートル 登録長 17.14メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
421キロワット 漁船法馬力数 180 3 事実の経過 第三
八幡丸(以下「八幡丸」という。)は、中型まき網船団の運搬船として所属する、汽笛不装備のFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、船尾に長さ2メートルのロープでつないだ長さ2メートルの脚船(あしふね)を曳(ひ)き、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年7月14日04時00分千葉県大原漁港を網船など僚船4隻とともに発し、同港北方に位置する同県片貝漁港東方沖合の漁場に至って操業ののち、11時30分太東埼灯台から026度(真方位、以下同じ。)16.0海里の地点を発進し、大原漁港に向けて帰途についた。 A受審人は、単独で船橋当直に就いて手動操舵で操船に当たり、発進時から太東埼灯台に向首して針路を206度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で進行し、11時55分食事交代のために昇橋したB指定海難関係人と同当直を交代することとしたが、引継ぎに当たり、同人が漁労長として豊富な経験を持ち、本船の船舶職員になりうる海技免状を受有してはいないものの四級小型船舶操縦士の免許を受有し、漁場における操船を任せていたことから、特に指示しなくても大丈夫と思い、接近する他船があった際に報告するようなど、何も指示せず降橋した。 船橋当直を交代したB指定海難関係人は、船橋内前面中央の操舵スタンドの後にあるいすに腰掛け、同じ針路、速力のまま手動操舵で操船に当たり、12時00分太東埼灯台から026度11.7海里の地点で、左舷船首35度4.3海里のところに北上して来る直栄丸を初認し、同時05分同船を左舷船首34度2.1海里に認めるようになり、その後その方位にほとんど変化なく前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、初認したときに一見して同船が片貝漁港に向かう船であり、衝突のおそれが生じても同船が右転して自船の船尾方を替して行くものと思い、コンパスで直栄丸の方位変化を測定するなど、動静監視を十分に行わなかったので、自船を避航しないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、船長に報告することなく進行した。 12時09分少し前B指定海難関係人は、直栄丸が左舷船首34度0.6海里に接近したものの、依然衝突の危険に気付かず、自船が全長12メートル以上の船舶であったが、汽笛を装備していなかったので警告信号を吹鳴することができず、衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、同時10分わずか前左舷側至近に接近した直栄丸を認め、初めて衝突の危険を感じ、左舵一杯とし、舵効を得るため機関を前進一杯としたが効なく、12時10分太東埼灯台から026度10.3海里の地点において、原針路、原速力のまま、八幡丸の左舷船尾が直栄丸の左舷船首に前方から49度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 A受審人は、大きな音を聞いて昇橋し、衝突したことを知って事後の措置に当たった。 また、直栄丸は、旅客定員34人のFRP製遊漁船で、C受審人が単独で乗り組み、釣り客7人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同日05時00分片貝漁港を発して釣り場に向かい、太東埼東方沖合8海里ばかりの森出しと称する釣り場に至って釣りを行い、その後同釣り場の北北西方4海里ばかりの四天木根の南と称する釣り場に移動して釣りを続けたのち、遊漁を終え、11時41分太東埼灯台から061度7.8海里の地点を発進し、同漁港に向けて帰途についた。 C受審人は、発進時から船橋当直に就き、GPSプロッターにより針路を片貝漁港の防波堤先端に向首する337度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分750にかけ、9.0ノットの対地速力で進行し、船橋内右舷側のいすに腰掛け、右舷後方から同航する数隻の同業船と無線電話で交信しながら操船に当たり、12時01分太東埼灯台から042度8.7海里の地点に達し、釣り客が釣り道具などの整理が終わったとき、機関を回転数毎分1,600にかけ、19.0ノットの対地速力で続航した。 12時05分C受審人は、太東埼灯台から034度9.4海里の地点で、右舷船首15度2.1海里に前路を左方に横切る態勢で南下して来る八幡丸を認めることができ、その後その方位に変化なく衝突のおそれがある態勢で接近していたが、無線電話での交信を終えたのち、いすに腰掛け、港の入口に近づいたことから帰港後の仕事の段取りなど、ぼんやりと考え事をし、右舷前方の見張りが不十分となって同船に気付かず、右転するなどして同船の進路を避けることなく続航中、同時10分直前ふと前方を見たところ、至近に迫った同船を初めて認め、機関を後進としたが効なく、直栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、八幡丸は左舷船尾外板及び防舷材に損傷を生じ、曳いていた脚船が転覆し、直栄丸は左舷船首に破口を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、千葉県九十九里浜沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、直栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、動静監視不十分で、全長12メートル以上の船舶であったのに汽笛不装備であったため、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 八幡丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対する指示が不十分であったことと、同当直者の船長に対する他船との接近状況についての報告が行なわれなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) C受審人は、九十九里浜沖合において、片貝漁港に向けて帰航する場合、前路を左方に横切る態勢で南下する八幡丸を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船橋内右舷側のいすに腰掛け、港の入口に近づいたことから帰港後の仕事の段取りなど、ぼんやりと考え事をして、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る態勢で南下する八幡丸を見落とし、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、八幡丸の左舷船尾板反及び防舷材並びに直栄丸の左舷船首に破口なと損傷を生じさせ、八幡丸が曳いていた脚船を転覆させるに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、九十九里浜沖合において、食事交代のために甲板員に単独で船橋当直を行わせるに当たり、接近する他船があるときには報告するよう指示しなかったことは、本件発生の原因となる。 しかしながら、A受審人の行為は、甲板員が八幡丸の船舶職員になりうる海技免状を受有していないものの四級小型船舶操縦士の免許を受有し、漁労長として豊富な経験を持ち、操船に習熟していた点に照らし、職務上の過失とするまでもない。 B指定海難関係人が、九十九里浜沖合において、食事交代のために単独で船橋当直中、接近する八幡丸を認めた際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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