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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年11月19日07時31分 秋田県秋田船川港 2 船舶の要目 船種船名 貨物船青海丸 貨物船第二東栄丸 総トン数 3,479トン 494トン 全長
103.80メートル 71.84メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力 2,427キロワット
735キロワット 3 事実の経過 青海丸は、主に日本海側の各港間のセメント輸送に従事する船尾船橋型の鋼製セメント専用運搬船で、A受審人ほか9人が乗り組み、セメント2,200トンを積載し、船首4.40メートル船尾5.62メートルの喫水をもって、平成10年11月18日23時50分山形県酒田港を発し、秋田県秋田船川港に向かい、翌19日05時10分秋田南防波堤灯台から250度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に投錨し、入航時間を調整した後、06時50分抜錨して同港秋田区第1区(以下「第1区」という。)の中島岸壁に向かった。 ところで、第1区は、北防波堤、南防波堤、旧南防波堤及び陸岸に囲まれた水域で、北防波堤付近の入口から東南東方向へ可航幅約500メートル長さ約1.0海里水深13メートルの掘下げ済の水路、それより同方向へ可航幅約200メートル長さ1,100メートル、南東方向へ可航幅200メートル長さ200メートル及び可航幅400メートル長さ900メートルの各水深11メートルの掘下げ済水路が続いており、それらの水路の北東側に外港岸壁、中島岸壁及び寺内ふ頭などがあった。また、同入口から東南東方1.3海里に秋田灯浮標があり、その付近から分岐して東北電力桟橋及び大浜岸壁に向かう北北西方向へ可航幅200メートル長さ1,500メートルの水路があった。 A受審人は、平素、中島岸壁に着岸する際には、北防波堤付近の入口から秋田旧南防波堤灯台(以下「旧南灯台」という。)に向かい、外港岸壁に接続するふ頭用地(以下「ふ頭用地」という。)北西端を左舷正横に見て、秋田灯浮標に向かって転針し、水路沿いに航行して旧北防波堤南西端に並航したのち、中島岸壁北西端に向かい、同岸壁に接近して着岸していた。 A受審人は、抜錨時に雪が敷しく降り、視程が約500メートルであったことから、甲板員を操舵に、機関長を船橋での機関遠隔制御操作に、及び次席一等航海士をレーダーの監視にそれぞれ当てて自ら操船指揮を執り、所定の灯火を表示したが、霧中信号を行わず、進路を表示する国際信号旗をマストに掲げて航行し、07時16分秋田北防波堤灯台を左舷方に見て第1区に入航し、同時17分旧南灯台から310度1,420メートルの地点で、針路を130度に定め、機関を極微速力前進にかけ、5.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 07時20分A受審人は、旧南灯台から310度920メートルの地点に達したとき、レーダーで左舷船首11度1.5海里に第二東栄丸(以下「東栄丸」という。)の映像を探知し、同時21分半旧南灯台から310度670メートルの地点に達し、レーダーでふ頭用地北西端を左舷正横に見て、水路沿いに針路を111度に転じたころ、雪が小降りとなり、視界が回復して右舷船首5度1.3海里に東栄丸を初めて視認し、同時23分同灯台から320度450メートルの地点で、機関を停止して徐々に速力が減じつつ惰力で前進し、東栄丸の動静を監視しながら続航した。 07時28分半A受審人は、旧南灯台から069度320メートルの地点に達したとき、東栄丸が左舷船首10度500メートルのところで、突然左転を始めたのを認め、汽笛により短1声を吹鳴し、右舵を令したところ、同船が右転して左舷を対して航過する態勢となったのを認め、前進惰力で舵効きが悪く、まだ回頭を始めていなかったのでそのまま進行した。 07時29分半A受審人は、旧南灯台から076度380メートルの地点に達し、左舷船首13度290メートルに東栄丸を認めたものの、進路を表示する国際信号旗が風がなく垂れ下がって他船から進路を識別できないまま、また、分岐点付近を水路の中央寄りに航行していたことから、中島岸壁北西端に向けて左転すると東栄丸に自船が大浜岸壁に向かうものと思わせ、東栄丸が右舷を対して航過しようとして左転することによって、衝突のおそれが生じる可能性のあることに気付かず、東栄丸と左舷を対して航過できるものと思い、機関及びバウスラスタを使用して行きあしを止めて東栄丸の航過を待つとか、そのまま船首方向を保持して惰力で前進するなど衝突のおそれを生じさせないための措置をとることなく、舵とバウスラスタにより徐々に左転を始めた。 07時30分少し過ぎA受審人は、中島岸壁北西端に向かう098度に向いたとき、左舷船首方で東栄丸が再び左転して接近して来るのを認め、同時31分わずか前衝突の危険を感じ、バウスラスタを右転出力一杯、右舵一杯及び機関を全速力後進にかけたが及ばず、07時31分旧南灯台から082度470メートルの地点において、青海丸は、原針路のまま、速力が2.2ノットに落ちたとき、その左舷船首部に東栄丸の船首が前方から20度の角度で衝突した。 当時、天候は雪で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。 また、東栄丸は、主に国内各港間のばら積み貨物輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、肥料812トンを積載し、船首3.81メートル船尾4.21メートルの喫水をもって、07時10分第1区の寺内ふ頭を離岸し、青森県八戸港に向かった。 B受審人は、発航後、雪が激しく視界が悪化していたので所定の灯火を点灯し、霧中信号を行わないで単独で操舵操船に当たって水路を北止し、07時20分旧南灯台から114度1.0海里の地点で、針路を325度に定め、機関を極微速力前進にかけ、5.0ノットの速力で進行した。 定針したとき、B受審人は、代理店から入航船がある旨の電話連絡を受け、07時23分旧南灯台から105度1,540メートルの地点に達したとき、左舷船首32度1.0海里に青海丸の映像をレーダーで探知し、同時25分わずか過ぎ同灯台から096度1,300メートルの地点で、雪が小降りとなり、視界が回復して左舷船首39度1,340メートルに青海丸を初めて視認し、同船のマストに進路を表示する国際信号旗が掲げられていたが、風がなく旗が垂れ下がって進路を識別できないまま、水路沿いに針路を286度に転じて続航した。 07時28分半B受審人は、旧南灯台から089度780メートルの地点に達したとき、左舷船首5度500メートルに青海丸が分岐点付近を水路の中央寄りに航行して接近してきたことから、大浜岸壁に向かうものと判断し、右舷を対して航過しようと左転を始めたものの、汽笛による操船信号が汽笛装置の故障により吹鳴できず、同時29分270度に向首したとき、いったん左転を中止して右転し、針路を298度にして進行した。 07時29分半B受審人は、旧南灯台から086度660メートルの地点で、左舷船首20度290メートルに青海丸が自船の方向に向けて徐々に左転を始めたのを認め、青海丸が大浜岸壁に向かうものと確信して同船と右舷を対して航過しようと思い、左転すると衝突のおそれが生じる可能性のあることに気付かず、機関を使用して行きあしを止めるなど衝突のおそれを生じさせないための措置をとることなく、同時30分少し過ぎ同灯台から080度560メートルの地点に達したとき、再び左転して258度で続航中、同時30分半船首至近に青海丸が接近したとき、衝突の危険を感じ、右舵一杯、機関を全速力後進にかけたが及ばず、東栄丸は、原針路のまま、速力が2.6ノットに落ちたとき、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、青海丸は左舷船首部に、東栄丸は船首部に、それぞれ損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、青海丸が、秋田船川港秋田区第1区の水路の分岐点付近において、西行する東栄丸と接近した際、衝突のおそれを生じさせないための措置をとらなかったことと、東栄丸が、東行する青海丸と接近した際、衝突のおそれを生じさせないための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、第1区の水路の分岐点付近において、左転したのち右転して西行する東栄丸を認め、中島岸壁北西端に向かって左転する場合、進路を表示する国際信号旗が風がなく垂れ下がって他船から進路が識別できないまま、分岐点付近を水路の中央寄りに航行し、同端に向けて左転すると東栄丸に自船が大浜岸壁に向かうものと思わせ、東栄丸が右舷を対して航過しようとして左転して衝突のおそれが生じる可能性があったから、機関及びバウスラスタを使用して行きあしを止めて東栄丸の航過を待つとか、そのまま船首方向を保持して惰力で前進するなど衝突のおそれを生じさせないための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、東栄丸と左舷を対して航過できるものと思い、衝突のおそれを生じさせないための措置をとらなかった職務上の過失により、中島岸壁北西端に向けて徐々に左転し、東栄丸に自船が大浜岸壁に向かうものと思わせ、東栄丸との衝突を招き、青海丸の左舷船首部及び東栄丸の船首部にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、第1区の水路の分岐点付近において、東行する青海丸が自船に向けて徐々に左転するのを認めた場合、青海丸のマストに進路を表示する国祭信号旗が掲げられていたが、風がなく旗が垂れ下がって進路を識別できなかったから、青海丸の進路が分かるよう、機関を使用して行きあしを止めるなど衝突のおそれを生じさせないための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、青海丸が大浜岸壁に向かうものと確信して同船と右舷を対して航過しようと思い、衝突のおそれを生じさせないための措置をとらなかった職務上の過失により、左転して青海丸との衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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