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1999年(平成11年)

平成11年仙審第49号
    件名
漁船第二十二富丸プレジャーボートバリアント衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成11年12月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、上野延之、内山欽郎
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第二十二富丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:バリアント船長 海技免状:二級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
富丸・・・・・・左舷船首外板に塗装剥離
バリアント・・・スパンカーマストの折損及び左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷

    原因
富丸・・・・・・動静監視不十分、港則法の航法(防波堤入口、避航動作)不遵守(主因)
バリアント・・・見張り不十分、警告信号不履行、港則法の航法(防波堤入口)不遵守(一因)

    二審請求者
理事官黒田均

    主文
本件衝突は、入航する第二十二富丸が、動静監視不十分で、出航するバリアントの進路を避けなかったことによって発生したが、バリアントが、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月12日04時25分
山形県酒田港
2 船舶の要目

船種船名 漁船第二十二富丸 プレジャーボートバリアント
総トン数 4.72トン
全長 10.77メートル
登録長 9.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 132キロワット 128キロワット

3 事実の経過
第二十二富丸(以下「富丸」という。)は、一本釣り漁業に従事する中央船橋型のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、わらさ一本釣り漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成10年10月11日15時ごろ山形県酒田港を発し、同港北西方沖合の明石礁でブリ1尾を漁獲したのち、翌12日03時40分酒田港南防波堤灯台(以下「酒田港」を冠した灯台名についてはこれを省略する。)から314度(真方位、以下同じ。)7.3海里の地点を発進し、所定の灯火を表示して帰途に就いた。
ところで、酒田港は山形県北部の日本海に面する特定港で、港内は北港北防波堤、第2北防波堤及び南防波堤で囲まれ、酒田本港と称する第1区及び第2区が、南防波堤の南東方に続けて最上川右岸に築造された導流堤、陸岸及び北防波堤で囲まれた水域に在り、酒田北港と称する掘込式港湾がある第3区が、その外側の港内北部に在った。酒田港の港口は、第2北防波堤南西端と南防波堤北西端との間の幅約870メートルで西方に開いていた。第2北防波堤は、全長約840メートル平均水面上の高さ約3メートルでその南西端に緑色灯標が設置され、北港北防波堤先端の南西方約350メートルの位置に波力発電試験堤が設けられていた。

04時13分A受審人は、南防波堤灯台から337度2.5海里の地点に達し、針路をいつも操舵目標にしている南防波堤灯台に向く157度に定めたとき、3海里レンジとしたレーダーにより左舷船首2度2.6海里にバリアントの映像を探知したが、まだ遠いので港口に近づいてから対処するつもりで、機関回転数を全速力前進より少し落として9.5ノットの対地速力で、舵輪の後方に立って周囲の見張りに当たり、自動操舵により進行した。
04時18分わずか過ぎA受審人は、南防波堤灯台から337度1.6海里の地点に達し、第2北防波堤突端まで1海里の距離になったとき、同防波堤の緑色灯標と同灯台の間の港口を一瞥したが、左舷船首3度1.4海里のところに、入航中の第三船を替わすために漂泊待機していた出航中のバリアントが同第三船の陰になって認めることができず、出航中の他船を認めなかったことから、先に探知した映像は出航する船舶のものではなかったと思い、引き続きレーダーを活用したり、港内がよく見渡せる港口西方に行くなどして同船に対する動静監視を十分に行うことなく、第2北防波堤突端を替わしたら少し左に転針するつもりで、操舵を手動として進行した。

04時23分A受審人は、南防波堤灯台から337度1,630メートルの地点に達したとき、左舷船首6度790メートルのところに、出航中のバリアントがおり、その後同船と防波堤入口付近で出会うおそれのある状況であったが、バリアントに対する動静監視を十分に行っていなかったことから、このことに気づかず、防波堤の外で出航する同船の進路を避けないまま続航し、同時25分少し前正船首至近に同船を認め、直ちに機関を後進にかけたが間に合わず、04時25分南防波堤灯台から337度1,070メートルの地点において、富丸は、原針路のまま5.0ノットの速力に落ちたとき、その左舷船首が、バリアントの左舷船尾に前方から約70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、バリアントは、操舵室が中央にあるFRP製プレジャーモーターボートで、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首尾とも1.0メートルの等喫水をもって、同日04時少し前酒田港第2区にあるプレジャーボート用の船溜まりを発し、所定の灯火を表示して第2北防波堤北端沖側の釣場に向かった。

発航後、B受審人は、操舵室の右舷側にある操縦席の前に立って手動操舵により操船し、遊漁中に接近する他船に対して警告信号を行う目的で準備していた移動式のラッパを直ちに取り出すことができるように同席の近くに置き、前面窓ガラスの内側が結露して曇るためときどきタオルで同ガラスを拭きながら、海図に記載された酒田港第2区内の幅約170メートル維持水深10メートルの水路を右側端に寄って北上した。
04時08分半B受審人は、南防波堤灯台から139度550メートルの地点に達したとき、針路を第2北防波堤の緑色灯標に向く334度に定め、機関を極微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力で進行した。
04時16分B受審人は、南防波堤灯台から354度410メートルの地点に差し掛かったとき、入航する第三船を替わすため機関を停止して漂泊待機したのち、同時19分少し過ぎ同地点を発進し、第2北防波堤の突端に近づいてこれを右舷前方に見るように、針路を同緑色灯標の少し左に向く332度に転じ、再度機関を極微速力前進にかけて4.0ノットの対地速力で、依然前面窓ガラスの内側が結露で曇って前路が見えにくかったものの、同ガラスの結露を十分に拭き取って見通しを良くするなどして前路の見張りを十分に行うことなく、手動操舵により続航した。

04時23分B受審人は、南防波堤灯台から343度840メートルの地点に達し、前路の第2北防波堤突端を替わすため針路を318度に転じたとき、右舷船首13度790メートルのところに入航中の富丸を認め得る状況で、このまま進行すれば防波堤の入口付近で富丸と出会うおそれがあったが、依然前路の見張りを十分に行っていなかったので、入航する他船はいないと思い、同突端の離岸距離に気を奪われ、このことに気づかず、ラッパを使用して警告信号を行わないまま、同じ針路、速力で進行し、同時25分わずか前前路至近に富丸の灯火を初めて認め、慌てて右舵一杯としたが間に合わず、船首が047度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、富丸は左舷船首外板に塗装剥離を生じ、バリアントはスパンカーマストの折損及び左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、のちそれぞれ修理された。


(原因)
本件衝突は、夜間、山形県酒田港において、入航中の富丸と出航中のバリアントが防波堤入口付近で出会うおそれがあった際、富丸が、動静監視不十分で、防波堤の外で出航するバリアントの進路を避けなかったことによって発生したが、バリアントが、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山形県酒田港に入航する際、レーダーにより同港内にバリアントの映像を探知した場合、同船が出航船かどうかの判断ができるよう、引き続きレーダーを活用したり、港内がよく見渡せる港口西方に行くなどして同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、その後第2北防波堤の緑色灯標と南防波堤灯台の間の港口を一瞥して出航中の他船を認めなかったことから、同映像の船舶が出航船ではなかったものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、防波堤の外で出航するバリアントの進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、富丸の左舷船首外板に塗装剥離を生じさせ、バリアントのスパンカーマスト折損及び左舷船尾外板に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、山形県酒田港を出航する際、操舵室の前面窓ガラスの内側が結露により曇って前路が見えにくい場合、同ガラスの結露を十分に拭き取って見通しを良くするなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、入航する他船はいないものと思い、第2北防波堤突端の離岸距離に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、富丸に気づかず、警告信号を行わないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。

参考図






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